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情報発信日:2006-12-28
中国は改革開放路線を掲げ、すべてにおいて経済成長を優先させて過去20年間でGDP規模を6.3倍に拡大してきました。さらに中国政府は2020年までに経済規模を2000年の4倍にする目標を立てましたが、中国のこうした急速な経済成長により、昨今の原油や素材の高騰に見られるように世界の資源やエネルギーの枯渇問題が浮上してきました。合わせて食糧・水問題や環境破壊問題なども重要な問題として議論され始めています。
とくに中国における種々の環境問題はその実態がなかなか正確に把握されることがありませんでしたが、2006年9月に各マスコミが一斉に報道した中国食品薬品監督管理局より流出した内部資料からその衝撃的な実態の一部が明らかになってきました。
各マスコミの報道によると「中国全土の河川の6割が水銀などの重金属や農薬に汚染され、こうした水質汚染が疾病の8割、病死の3割に関係していた」とし、「体内に蓄積されやすい有毒重金属による汚染危険地域は、(1)天津、北京など渤海沿岸工業地帯、(2)上海など江蘇、浙江省の華東工業地帯、(3)珠江三角州とよばれる華南工業地帯の3ヶ所に集中し、その面積は2000k㎡にも及び、農産物に影響のある全灌漑用水の2割が規制を大幅に上回る重金属に汚染されており、食の安全に強い懸念がある」としています。また「2004年以降幼児の頭が成人並みの大きさに巨大化する奇病が汚染地域で次々に確認されている」とも報道されました。
また「中国の化学肥料の年間使用量は4,100万トンにも及び、その結果、黄河や揚子江、珠江を経て流れ込んだ無機窒素が中国近海の赤潮の原因になっている」とも断言、さらに「毒性の強い農薬使用により汚染された土壌を元に戻すためには最長33年間も要する」など、かなりショッキングなものです。
これら中国における環境汚染問題はさらなる広がりを見せており、取り返しのつかない領域に近づき、国境を越えつつあることも隣国の私達には無関心でいられない問題となってきています。
これらの状況に対して、「経済成長最優先の改革開放路線」を突っ走ってきた中国政府も急速な経済発展がもたらした負の遺産に目を向けざるを得ない状況にいたり、2006年3月の全国人民代表大会(国会に相当)で承認された5カ年計画にも初めて環境保全や省エネの必要性が盛り込まれました。今後中国は経済成長のスピードを緩め、環境保全のためのコストを支払う必要がありそうです。
中国における今回の内部資料流出により、水質汚濁や土壌汚染など環境問題の一部の実態が明らかになりましたが、他の断片的な資料から個別の問題に触れてみたいと思います。
中国の環境汚染は、まず自然環境に大きな被害を与えています。もともと中国は森林の少ない国で、国土に占める森林の割合は12.5%(世界120位)に過ぎませんが、過去の食糧増産にともなう過耕作や過放牧によって現在砂漠化しつつある土地は、中国30の省・区・市、及び、851の県に拡大しており、砂漠化の総面積は中国全国土面積960万K㎡の18〜27%を占めるともいわれ、さらに毎年2,460〜3,500k㎡の速度で砂漠化が進んでいるといわれています(中国林業省、1997年「中国砂漠化報告」より)。また過剰な伐採からの洪水で水土流出した土地を合わせると、実に国土面積の38%にも及ぶ367万k㎡が荒廃地化し、毎年1万k㎡ずつ(天然草原が6500〜7000k㎡、耕作面積が3000〜6000k㎡)増加しているといわれています。これら砂漠化防止に投じている費用は2億5千万ドルで、目標達成までには約300億ドルが必要といわれています。
中国の大気汚染のおもな原因は、エネルギーとしていまだに脱硫装置をつけることなく大量の石炭(世界2位)が燃やされていることと、急速な自動車普及にあると思われ、中国全土の亜硫酸ガスの移動量は2,000万トン/年にも及んでいます。これにより、世界の大気汚染ワースト20都市中16都市が中国という状況を生みだしています。このことが原因の酸性雨被害は、600都市中137の都市に及び、とくに南部の都市では61.8%が被害を受け、国土面積の30%が影響を受けています。この影響は季節風の吹く冬季には朝鮮半島や日本にも及びます。都市生活者の2/3が何らかの大気汚染を受容する結果をもたらしています。
また地球温暖化効果ガスである二酸化炭素の排出量は、過去20年で2.1倍に増加、世界の炭酸ガス排出量の13.7%を占め、米国を抜いて世界第1位に達しています。
冒頭でも述べたように水質汚濁はとくに深刻なようです。汚水排出量は430億トンで、都市水域の90%が汚染され、河川の70%で魚介類の生息が困難な状況にあるという資料も出ています。排水中の水銀、カドミウム、鉛、クロムなどの重金属及び砒素は4,000トン、青酸化合物2万トン、油類10.5万トンといわれています。また、沿岸海域で直接海に排出される下水排出量は66億トンで、汚水とともに海に排出される油類は12.8万トン、青酸化合物8,800トン、有機物質は694万トンにも達するとされています。さらに、沿海で使用される農薬18万トン、化学肥料268万トン(全国4,100万トン)で、大半は海に流出し慢性的な赤潮の原因になっています。
都市ゴミは年率8%で増加、固形廃棄物と都市ゴミの再資源化や減量化の意識は少なく、処分問題が浮上しています。また、騒音に関しては214の都市の1/3が中重度の影響を受けていると回答しています。
中国鉱工業での固形廃棄物は4億トン(1982年)で、再利用率は25%(現状45%程度まで改善?)と低く、残りは都市郊外に堆積、または、河川、湖、海に排出というのが現状のようです。都市と町の生活汚染物質は絶えず増加傾向で、処置率は10%弱と低く、有害廃棄物の30%は適正に処理されずに廃棄されているとされています(2000年の産業有害廃棄物発生量は3,186万トンで、うち2,000万トンは未処理で排出というデータもあり)。
急速な鉱工業の拡大、食糧確保のための過耕作により、中国の水資源は地下水も含めて黄河の断流に見られるように深刻で、危機状況に陥っています。毎年688都市中400以上の都市で渇水、水不足が発生しており、今後、より拡大すると予想されています。年間の不足水量は都市部で60億トン、農業用水を含む全水量で218億トンにも及んでいます。
かつて日本が高度経済成長期に経験した多くの公害問題や大気汚染問題を、まさに今、中国が経験している状況といえるかもしれません。「経済の発展を最優先してきた結果」である公害、環境破壊という負の遺産。中国政府も環境保護を経済成長のコストと認識し、対策に着手したようですが、まだ環境破壊のスピードを衰えさせるには至っていないと思われます。水質、土壌などの汚染回復のために莫大な費用が必要で、今後中国はGDPの8〜12%といった莫大な費用を支払う必要に迫られそうです。