ホーム > 環境について > 環境関連情報 > REACH規則における高懸念物質(SVHC) #11
情報発信日:2016-7-29
ECHA(欧州化学品庁)は2016年6月20日付けで、Webサイトにおいて「REACH規則における高懸念物質(SVHC)が収載されている附属書XIV収載物Candidate List of Substances of Very High Concern for Authorisation (高懸念物質の認可対象候補物質リスト)」を更新しました。
従来168物質だったSVHCに1物質を新規に追加しました。
今回、4物質が事前に提示されていましたが、1種類のみがSVHC物質として附属書XIVに収載されるに留まり、REACH規則が発効した当初「最終的には1,500種類位になるであろう」と推定されていましたが、ここに来てやや収載速度が鈍って来たように見えます。
なお、今回のECHAの当該Webサイトにおいては、検索機能が追加されて、使いやすくなりました。
今回は、REACH規則における「認可物質とは?」、及び、本コラムのテーマである「SVHC(高懸念物質)とは」、そして「附属書XIVに収載された場合にどうなるのか」などを、おさらいしてみたいと思います。
ベンゾピレンは、意図しない場合でも主に有機物の不完全燃焼によって生成し、化石燃料や木材の不完全燃焼、動植物の加熱調理、石油精製、自動車の排ガス、タバコの煙などにも含まれます。一方で、意図的に生産され表1に示すように多くの化成品の添加物として長い間使用されて来ましたが、発がん性をはじめとした多くの疫学的な毒性を有していることが古くより知られており、なぜもっと早い時期にSVHCとして収載されなかったのか不思議な位です。
今回ECHAのホームページに掲載されたCandidate List of Substances of Very High Concern for Authorisationには物質名、CAS番号、収載理由、収載年月日などから検索出来る機能が付加されました。
今回見送られた物質も、以後復活して収載される可能性がありますので、参考までに示します(表2)。
それでは、今回はREACH規則における「認可」について、おさらいをしてみたいと思います。
そもそもREACH規則とは、この世に存在し、何らかの形で工業的に利用されている化学物質を規制の枠の中で管理することを目的として制定されました。この世に存在する全ての物質は化学物質ですが、その中には人間や動植物などの生態系あるいは環境に悪い影響を与え、しかも、その影響が深刻かつ不可逆であり高い懸念を有する化学物質が含まれている場合に、そのリスクを評価してその製造や使用について制限したり、使用の認可を与えたりすることにより、有害化学物質の悪影響を最小限に留めようとすることを目的としています。
認可対象物質とは、REACH規則第57条に示される、1) 発がん性、2) 変異原性、3) 生殖毒性(1〜3をまとめてCMR物質と呼びます)、4) PBT(難分解性、生体蓄積性が高い、有毒性物質)、5) vPvB(極めて難分解性、生体蓄積性も高い物質)、及び、6) 環境への重大な影響の可能性を有する懸念と同等レベル、以上6種類のいずれか1つ以上の非常に高い懸念を有する物質(Substances of Very High Concern:SVHC)として、REACH規則の附属書XIV Candidate List of Substances of Very High Concern for Authorisation (高懸念物質の認可対象候補物質リスト)に収載された物質で、今回のようにECHA(欧州化学品庁)のホームページに一定期間掲示され、パブリックコメントを経て定期的に追加収載される物質をいいます。
高い懸念を有する化学物質であっても、以下の要件に合致し適切な管理がなされ、かつ社会経済のための利益が高いと判断された場合には、所定の手続きを経て使用認可を得ることができます。
(1) 適切なリスク管理の実施
物質のライフサイクルを通して、物質の放出、排出及び損壊などの事故などによってヒトの健康や環境への暴露があった場合でも、その悪影響がその化学物質の毒性の閾値以下で適切に管理できると認められた場合。
(2) 社会経済のための利益性
当該化学物質の安全な閾値が決められない場合であって、その利用による社会経済面の利益がその物質の利用によるヒトの健康や環境面へのリスクよりも大きく上回り、かつ代替物質や代替技術が見いだせない場合。
この世の中に存在する全てのモノは「化学物質」より構成されています。人間や他の動物や植物でさえ、種々の化学物質から構成されています。そして、化学物質は古くより自然に産出する場合、動植物が生成する場合、あるいは人間が人工的に作り出した場合など色々な化学物質がありますが、いずれも我々人間に何らかの利益や利便性をもたらしてくれていることは間違いがありません。しかし、反面では薬の副作用のように、ヒトや環境に悪影響を与える有害な化学物質が多く存在するのも事実です。
しかし、ヒトや環境に悪影響を与えるから「製造禁止・使用禁止」と短絡的に考えるのではなく、例えば全ての酒類に含まれるエチルアルコールは飲み過ぎれば健康を害しますが、適度に飲めばむしろ健康に良いとされていますし、人間の体の60〜80%を構成する水でさえ過剰に摂取すれば悪影響を与えます。
即ち、全ての化学物質には閾値を越えて摂取すれば何らかの毒性を示しますので、このことを良く理解して、我々人間に多くの恩恵を与えてくれる化学物質と上手に付き合って行こうというのがREACH規則の意図するところですので、制限物質や認可対象物質になっても、決して「使用禁止」になった訳ではなく、必要な場合は所定の手続を経て、堂々と使用することが出来るということです。
ECHAのWebサイトにおいて、制限物質のリスト(附属書XVII)が2016年度に何回か改定された様ですので、本コラムにおいて、別途お知らせしたいと思います。