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放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 #8

放射線の基礎知識と健康影響 #8

情報発信日:2014-7-23

はじめに

2014年6月末から7月初めにかけて、主要な新聞は「政府が沖縄を除く9電力管内に要請した節電期間が7月1日から始まる。昨夏は稼働していた大飯原発も停止し、他の原発の再稼働もこの夏には間に合わないため、東日本大震災以後、初めて原子力発電所が全く稼働していない『原発ゼロ』の夏となる」こと、そして「景気の回復もあり、電力需要の高まりなどで昨年よりも厳しい電力需給が予想される。原子力発電を代替している老朽火力発電所のトラブルも懸念され、この夏の電力供給は綱渡りの状況が予想される」などと一斉に報道しました。

我が国における原子力発電が「ゼロ」となるのは、1966年以来で約半世紀振りとなるそうです。

一方で、福島第一原子力発電所の汚染水問題を解決するための切り札として注目されていた「凍土壁」は凍結を開始して1ヶ月以上が経過しているにも関わらず十分に凍らず、汚染水問題に相変わらず解決のメドが立っていないことが報道されています。また、汚染水処理装置のALPUSもトラブルを繰り返していて順調な運転が出来ていない状況にあります。

また、福島第一原子力発電所事故による放射性物質で汚染された地区の、除染による汚染土などの置場や処分場問題もなかなか方向性が定まらない状況にあり、さらに発電所内の瓦礫撤去に伴う塵埃により農作物が汚染されるという事態も報道され、原子力施設の事故は一度起こってしまうと、予測の出来ない危険な事態が連鎖的に起こってしまうということを物語っているようです。

このような状況において今回も、「放射性物質や放射線に関して正しい知識も持ち、正しく怖がる」ということを目的として、環境省の資料をもとに、放射線の基礎知識と健康影響#8として解説していきます。

放射線の基礎知識と健康影響 #8

※以下環境省公表の「東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線による健康影響等に関する国の統一的な基礎資料 平成24年度版 ver.2012001(以下「環境省資料」と約します)」を主な資料として記述します。

1. 急性外部被ばくの発がん

(1) 固形がんによる死亡と線量との関係

放射線の被ばくによる健康影響は、主に広島・長崎における原爆被爆者の健康影響調査の結果によるものが主で、一般的に放射線を受けた量が増えると、発がんのリスクが高まる傾向にあり、固形がんによる死亡リスクと線量の関係には、約100mSv以上で直線性が見られますが、100mSv以下のリスクについては研究者によって意見が分かれているようです。

注) 過剰相対リスクとは、被ばくをしていない通常人の固形がんによる死亡リスクに対して、どの程度のリスクが上乗せされるかを示す数字で、通常人の発がん死亡率に対して500mSvの被ばくをした場合に、0.2=20 %リスクが高くなることを意味します。例えば、通常人のあるガンに対する発ガン死亡率が10 %とした場合、500mSvの被ばくをした場合、20 %高くなり12 %となることを意味します。ここで、12 %は過剰絶対リスクと呼びます。

(2) 白血病と線量反応相関

他のガン(固形ガン)と異なり、白血病の発症例は被ばく線量と比例関係が見られます。しかし、低線量(0.1〜0.5Gy)の範囲でも、白血病発症のリスク上昇が見られます。

注) DS86とは個人がどの位の放射線量により被ばくしたかを推定するシステムで、何回かの改良が行われて来ましたが、1986年に改定されたのがDS86、その後さらに改良された最新版が2002年版DS02です。

(3) 白血病の発症リスク

原爆被爆者における白血病発症リスクは、0.2Gy(グレイ)以下の線量域で顕著ではありませんが、0.4Gy近くの群では顕著な増加傾向が見られます。

(4) 被ばく時年齢と発がんリスクの関係

図4は原爆被爆者のがん罹患相対リスクを、被ばく線量と男女別、被爆時年齢別の比較を示したものです。

相対リスクとは、放射線を受けていない人を「1」とした時、放射線を受けた人の発がんリスクが何倍になるかを示しています。

例えば、0〜9歳で5〜500mSvの線量の被爆をした男児は、被ばくしていない人と比べて、がんの罹患率は0.96と差異がないことを示しています。500〜1000mSvでは1.1倍、1000〜4000mSvでは3.8倍とリスクが増加する様子が見られます。

男女差では、女性の方がややリスクが高いように見えます。また年齢では、50歳以上においては、1000〜4000mSvの被曝者でも0〜9歳の子供に比べて、リスクの増加は低くなっています。

(5) 被ばく時年齢と生涯発がんリスク

図5は例えば、被ばくしなかった10歳の男児の生涯における発がんリスクの可能性は30%であるが、100mSvの被ばくをした場合に2.1%増加し、32.1%になると推定されることを示しています。

(6) 被ばく時の年齢とがんの種類

原爆被爆者のデータを用いて、被ばく時年齢、がんの部位別に、がんの過剰相対リスク(1Gy当たり)を比較すると

i)被ばく時の年齢が若いほどリスクが高いものは「甲状腺癌」
ii)40歳以上でリスクが高いものは「肺がん」
iii)思春期のリスクが高いものは「乳がん」
iv)年齢依存性が顕著でないものは「大腸癌」とガンの種類によって、放射線の感受性が高い時期が異なります。

(7) 被ばく時年齢別発がんリスク

被爆時の年齢によって、最も放射線が原因のがんのリスクが高い臓器に違いがあるのがわかります。図の値の到達年齢は70歳に対するものです。

(8) がん部位別被ばく時年齢とリスク

この図は原爆被爆者のデータですが、1Gy(グレイ)当たりの過剰相対リスクです。例えば、固形がん全体の0〜9歳の過剰相対リスクは0.7位ですので、1Gyの被ばくをした集団では、放射線に被ばくしていない集団よりも0.7相対リスクが増加することを意味しますので、放射線を浴びていない対照群のリスクを1とすると、1Gyの被爆を受けた場合にはリスクが1.7倍になることを意味します。

(9) 原爆被爆者における甲状腺がんの発症

原爆被爆者における甲状腺がんの発症については、オッズ比を見ると、等価線量で100mSvまではオッズ比が低いことがわかります。

注) オッズ比とは、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である。 オッズとは、ある事象の起こる確率をpとして、p/(1−p)の値を言います。競馬などのギャンブルでも使われます。

まとめ

(1) 以前にも述べていますが、放射線による被ばくには、原子爆弾の爆発により生じた大量の放射性物質から瞬時に多量の放射線を浴びてしまうような「高線量急性被ばく」と、放射性物質を呼吸や飲食により体内に取り込んでしまい、少量ではあるけれど長期に渡り被ばくするような「低線量長期被ばく」とが、あります。
(2) 今回は広島・長崎で原爆によって被ばくした人々のデータを基に、急性被ばくによる固形がんと白血病の発症に関し、年齢、性別、がんの種類、被ばく線量などの因子との関係について解説しました。
(3) 一般的に放射線を受けた量が増えると、発がんのリスクが高まる傾向にあり、固形がんによる死亡リスクと線量の関係には、約100mSv以上で直線性が見られます。
(4) 白血病の発症例は被ばく線量と比例関係が見られます。しかし、低線量(0.1〜0.5Gy)の範囲でも、白血病発症のリスク上昇が見られます。
(5) 原爆被爆者における白血病発症リスクは、0.2Gy(グレイ)以下の線量域で顕著ではありませんが、
0.4Gy 近くの群では顕著な増加傾向が見られます。
(6) 被ばくにより発がんリスクは、年齢、男女間で差異があります。また、被ばく時の年齢により、発症するがんの種類に差異が見られます。
(7) 次回は、低線量長期被ばく者の発がんリスクやチェルノブイル原発事故による内部被ばく由来の発がんリスク及び、喫煙や飲酒などの生活習慣と被ばくによるリスクなどを比較して判り易くしたいと思います。

引用・参考資料

注意

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