ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 #7
情報発信日:2014-6-25
この原稿を書いている2014年5月末現在において、東京電力福島第一原子力発電所及び関連のニュースを拾ってみると、2014年5月21日付福井新聞「関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止め訴訟に対して、福井地裁が運転差し止めを命じる判決を言い渡した」、2014年5月21日付JCASTニュース「東京電力福島第一原発で、汚染水処理の切り札と位置付けられている多核種除去設備の『ALPS』において、トラブルが続き3系統ある中で唯一稼働していた残りの1系統も停止したことにより、設備は運転を完全に停止。この結果、増え続ける高濃度汚染水が行き場を失う危機的な状況が懸念される。これにより、増設予定も不安視」、2014年5月21日付朝日新聞「東京電力福島第一原子力発電所事故の際に所長であった、吉田昌郎氏が政府の事故調査委員会の調べに対して答えた『聴取報告書』、いわゆる吉田調書は従来非公開とされていたが朝日新聞が入手しスクープとして報道」など、相変わらずテレビや新聞などのマスコミやネットにおいても、福島第一原発事故から3年経った現在でも、ほぼ毎日の様に原発関連のニュースは引きも切らない状況が続いています。日本にとって、原子力発電所が必要か不要かの議論は別の機会があれば行いたいと思いますが、今回も、環境省の資料を主な資料として、放射線の基礎知識と健康影響#7として解説して行きます。
※以下、環境省公表の「東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線による健康影響等に関する国の統一的な基礎資料 平成24年度版 ver.2012001」(以下「環境省資料」という)を主な資料として記述します。
2014年3月25日付け本コラム「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料#6」で述べましたが、人体が放射線による被ばくを受けた場合に、ある一定の線量(閾値)を越えると多くの細胞が死ぬことによる「確定的影響」が、閾値未満の低い線量の場合には細胞の遺伝子障害の程度による「確率的影響」が出る事を述べました。本項では、確定的影響について、さらに詳しく述べたいと思います。
一度に100mGy(ミリグレイ)程度以上の放射線を受けた場合、多くの細胞死を原因とする人体影響が生じる事があります。こうした症状は、放射性に対する感受性が高い臓器ほど、少しの線量でも症状が出ます。
例えば、細胞分裂が盛んな臓器である精巣は、放射線感受性が高く、一時的な精子数の減少は100〜150mGyで現れ、一過性の不妊になることがあります。骨髄も感受性が高く、1,000mGy以下の被ばくでも血中のリンパ球が減少することがあります。しかし、こうした症状は自然に治癒します。
一方、2,000mGy以上の放射線を一度に受けた場合、治療を要する臨床症状が起きる事があります。
同じ被ばく線量でも、全身に受けた場合と局所に集中的に受けた場合では症状が異なります。
全身に1Gy(=1,000mGy)以上の放射線を一度に浴びた場合、急性放射線症と呼ばれる、一連の臓器障害を来すことがあります。この状況を時間の経過で観察すると典型的に「前駆期」「潜伏期」「発症期」の経過をたどり、その後回復するか死亡します。
被ばく後48時間以内に見られる前駆症状により、おおよその被ばく線量を推定することが出来ます。どの程度の線量を浴びた場合にどのような症状が出るかを図2に示しました。
その後、潜伏期を経て発症期に入ると、被ばく線量の増加と共に「造血障害」「消化管障害」「神経血管障害」の順で症状が現れます。これらの障害は、放射線感受性の高い臓器や組織を中心に現れ、概して被ばく線量が多いほど潜伏期が短くなります。
皮膚は1.3〜1.8m2/成人と生体でもかなり大きな面積を持つ組織で、被ばく直後に初期皮膚紅斑が出る事がありますが、一般には皮膚障害は被ばく後数日以上経過後に現れます。
放射線の感受性は臓器により異なりますが、最も感受性の高いのは精巣です。一度に0.1Gy(100mGy)以上のγ線などの放射線を受けると、精子数が一時的に減少しますが、これは精巣が活発に細胞増殖を行っている臓器だからです。また、骨髄が0.5Gy(500mGy)以上の被ばくをすると、造血能力が低下します。
確定的影響の中には、白内障のしきい値は1.5Gy(1,500mGy)とされていますが、最近の報告では、それ以下かも知れないと考えられています。
確定的影響の中でも、しきい値の低いものに、胎児への影響があります。妊婦が被ばくした場合、子宮内を放射線が通過したり、放射性物質が子宮内に移行したりすれば、胎児も被ばくする可能性があります。
胚/胎児期は放射線感受性が高く、また影響の出方に時期特異性(成人と異なり胚/胎児期特有の影響)があることがわかっています。こうした、胚/胎児への確定的影響が出るのは0.1Gy(100mGy)以上で起こるため、国際放射線防護委員会は、2007年の勧告の中で「胚/胎児への0.1Gy(100mGy)未満の吸収線量は妊娠中絶の理由と考えるべきではない」という考え方を示しています。この0.1Gyの被ばく線量は、γ線やX線を一度に100mSv(ミリシーベルト)受けた場合に相当します。また母体の被ばく線量と胚/胎児の被ばく線量は必ずしも同じではありません。
但し、被ばく線量に応じて、ガンや遺伝子影響と言った確率的影響のリスクがないということではありません。
物質の名称と物質のカテゴリー、CAS及びEU番号、物質の現状のSVHC情報、CLP分類システムおよびREACH規則(2013年1月現在)の中での規定をベースにした人間の健康と環境に対する危険な特性に関する情報、物質と物質グループに関する情報がRoHS2の第6条(1)に規定されている3つの基準を満たすか比較して全体的な優先順位を物質に与えました。
胎児影響の時期特異性については、原爆により体内被曝した方々への健康調査から明らかになっています。
図5は原爆投下時の胎齢と精神発達への影響との関係を調べたものです。被ばく時の胎齢が8〜15週齢の場合、放射線感受性が高く、子宮内の線量0.1〜0.2Gyの間にしきい値があるように見えます。これ以上の線量域では、線量の増加に応じて重度知的障害の発生率が上がって行きます。しかし、16〜25週だった子供達は、不幸にして0.5Gy程浴びてしまった場合でも重度知的障害は見られず、1Gyを越えるような被ばくをすると、かなりの頻度で障害が発生することがわかりました。即ち、同じ被ばく線量でも胎齢により障害の発生率は異なります。
RoHS指令の基で物質を特定し評価する場合は技術面を越えて 、今後RoHS2の附属書IIを改訂する時は 、以下の点を考慮することを提案します。
原爆被爆者二世の健康影響調査では、重い出生時障害、遺伝子の突然変異や染色体異常、ガン発生率やガン及び他の疾患による死亡率等について調べた結果、図6に示した通り対照群との有意差は認められませんでした。被ばくにより、親の生殖細胞に安定型染色体異常が生じ、二世に伝わるといった影響は、原爆被爆者では認められませんでした。
動物実験では、親に高線量の放射線を照射すると、子孫に出生時障害や染色体異常などが起こることがあります。しかし、人間では、両親の放射線被ばくが子孫の遺伝病を増加させるという直接の証拠はありません。
DNAを傷付けるのは、放射線ばかりではなく、様々なありふれた化学物質や紫外線などにもその作用があります。しかし、細胞には傷付いたDNAを修復する仕組みがあり、大抵の傷は元通りに修繕され、また修理に失敗した場合でも、その細胞を排除する機能が体には備わっています。
ごく稀に、修理しそこなった細胞が、変異細胞として体の中に生き残ることがあります。こうしたガンの芽は生じては消え、生じては消えてを繰り返します。中には、たまたま生き残ったものに遺伝子の変異が蓄積し、ガン細胞となることがありますが、それには長い時間がかかります。
図8は、原爆被爆者を対象に、どれだけの線量をどこに受けるとガンのリスクが増加したかを調べたものです。横軸は、原爆投下時の高線量率1回照射による臓器吸収線量です。縦軸は、相対リスクと言って、放射線を受けなかった集団に比べ、その位ガン発生のリスクが増加したかを調べています。
例えば、臓器吸収線量が2Gy(グレイ)の群では、皮膚ガンの過剰相対リスクが1.5となっていますので、この被ばく群では、放射線を受けなかった集団の1.5倍のリスクが加算されていることを意味します。(即ち、2Gyの被ばく群では皮膚ガンの発生リスクは、放射線を受けていない群の2.5倍となります。)
大人の場合、骨髄、結腸、乳腺、肺、胃という臓器は、放射線によってガンが出やすい臓器ですが、子供の場合は、甲状腺や皮膚も放射線のよるガンのリスクが高い事がわかって来ました。特に、子供の甲状腺は放射線に対する感受性が高い上に、摂取放射能量(Bq:ベクレル)当たりの実効線量が大人よりはるかに大きいので、緊急時に関しては、1歳児の甲状腺の被ばく線量が、防護策を考える基準に取り入れられています。
原爆被爆者のデータは、大きな線量を一度に受けた被ばくによる影響を調べたものです。しかし、職業被ばくや、事故による環境汚染からの被ばくは、慢性的に低線量での被ばくです。
そこで、マウスを用いて、同じ線量による被ばくの場合でも一度に大きな線量を受けた場合と、じわじわと少しずつ受けた場合で、放射線による発ガン率にどの位の違いがあるかを調べる実験が行われました。
その結果、ガンの種類によって結果に違いがあるものの、概してじわじわと低線量で被ばくする方が影響の出方が小さい事がわかって来ました。
このため、低線量・低線量率のリスクを計算する場合には、図9に示すように高線量・高線量率リスクを線量・線量率効果係数(見解の違いが幾つか判れますが)で割って行います。
(1) 同じ放射線量による被ばくを受けた場合でも、全身に受けた場合と局所に受けた場合では、臨床的な症状が異なります。
(2) 全身に1Gy(=1,000mGy)以上の放射線を一度に浴びた場合、急性放射線症と呼ばれる、一連の臓器障害を来すことがあります。この状況を時間の経過で観察すると典型的に「前駆期」「潜伏期」「発症期」の経過をたどり、その後回復するか死亡します。
(3) 放射線の感受性は臓器により異なります(これ以上の放射線量を浴びたら必ず影響が出るとされる確定的影響が出る値「しきい値」は各種臓器や組織により異なる)。
(4) 妊婦が被ばくし、胚/胎児の状態で放射線を浴びた場合の影響は、同じ線量でも受胎初期と受胎後期では影響の出方が異なり、胎齢の高い方が影響は少ない。同じく、重度知的障害の出現率も胎齢の高い方が高耐性です。
(5) 被ばくした親を持つ子供(被ばく二世)の染色体異常は被ばくしない親の子供との差異は認められない。
(6) 発ガンのメカニズムは細胞のDNAが傷付くことがきっかけですが、通常は傷付いたDNAは修復されます。修復されなかった場合にも、排除されます。稀に、DNAが傷付いたまま、変異細胞として残った場合にも消滅し、生じては消えを繰り返しますが、このようにたまたま生き残った変異細胞が増殖することがあり、これば発ガンのメカニズムですが、ガン細胞が増殖するまでには長い時間がかかります。
(7) ガン細胞が発生するきっかけは、放射線の他に、一般的な化学物質や紫外線など色々なものがあります。
(8) 放射線に対する感受性は臓器や組織により異なります。
(9) 大人と子供・乳幼児とでは、同じ線量による被ばくを受けても発症するガンの種類が異なりますし、年齢が下がるほど感受性は高くなる傾向があります。
(10) 同じ線量による被ばくでも、短時間に大きな線量を受けた場合よりも、長期間に低線量を浴びた方が影響は少ない傾向にあります。
(11) 次回は、急性外部被ばくの発ガン、慢性被ばくの発ガンなどについて述べます。