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放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 #4

放射線の基礎知識と健康影響 #4

情報発信日:2014-2-28

はじめに

2014年2月9日投開票の東京都知事選候補者において「原発の即時停止」「段階的廃止」「安全性を高めての継続」など、今後のエネルギー問題や原子力発電の稼働に関する問題が大きな政策の一つとして話題になりました。

一方では、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉へ向けた事故処理は、相変わらず汚染水との格闘を続けながらの作業となっていますが、2014年1月24日付け日本経済新聞Web版によると「東京電力は24日、福島第一原子力発電所敷地内でこれまで測定した地下水の放射線量に一部誤りがあった可能性があると発表した」と報じています。幸いストロンチウム90の放射線量が実際より高めに測定された可能性があるとのことであり、一度は安全側への計測ミスだったと発表しましたが、2014年2月6日東京電力は「その後の調査でストロンチウム90の値は昨年7月に過去最高の500万Bqで基準の16万倍であった」と公表しました。

この様な「線量測定」でミスが出たと言うのは大変由々しい問題と思われますので、今回は「線量の測定と計算」について述べたいと思います。

 

放射線の基礎知識と健康影響 #4

※以下環境省公表の「東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線による健康影響等に関する国の統一的な基礎資料 平成24年度版 ver.2012001(以下「環境省資料」と約します)」を主な資料として記述します。

線量測定と計算

(1)さまざまな計測機器

どのような目的で放射線や放射性物質の量を測定するかにより、用いる測定機器を選ぶ必要があります。

(2)外部被ばく測定用機器と特性

放射線量や放射性物質の量などを測定する測定用機器にはさまざまな種類がありますが、それぞれ特性がありますので、測定の目的に応じて測定器の種類を選定する必要があります。

 

(3)外部被ばくの特徴

同じ量の放射性物質があった場合、放射線の強さは放射性物質に近ければ強く、遠ければ弱くなります。  

放射線量は放射性物質からの距離の2乗に反比例して弱くなります。 

外部被ばくを計算する場合は、放射能の量であるベクレル(Bq)からではなく、人間が受けている放射線の量(グレイ(Gy)またはシーベルト(Sv))から計算します。
 線量率が一定であれば、線量率に放射線を浴びていた時間を掛けることで被ばく線量が計算できます。  

総被ばく線量(μSv)=線量率(μSv/時)×時間(hr)

 

(4) 外部被ばく(測定)

外部被ばく線量を計測するには2つの方法があります。

(a) 空間放射線量率の計測

空間放射線量率を測定し、その場に人が居たらどの位のγ線を受けたかを測定した値。(α線やβ線では体内に届かないため、外部被ばくはγ線で測定)最近の計測機器は1時間当たりのμSvで表示されるものが多いので、その場に居た時間を掛けて計算します。

(b) 個人線量計の装着による測定

長時間における受ける放射線の積算量を計測します。

 

(5) 環境放射能の計測

(6) 遮蔽と低減係数

空間放射線量率は、表2に示す通り、屋外に比べて室内の方が遮蔽により低減されます。

空間放射線量率を測定出来なくても、国や地方自治体等が発表しているデータを基に、表2より自身の受ける屋内線量率を求める事が可能です。

 

(7)事故後の追加被ばく線量(計算例)

今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射線量を計算する場合には、放射線は自然界にも存在していますので、事故前の計測値(バックグラウンド値)を差し引くことが重要です。

(計算例)

実測線量率=0.24 μSv/時
平常時(事故前)の線量率=0.04 μSv/時
⇒事故による上昇分=0.24-0.04=0.2 μSv/時
低減係数(木造家屋2階の場合)=0.4 μSv/時
屋外滞在8時間、屋内滞在16時間の場合
1日の被ばく線量=0.2×8時間(屋外)+0.2×0.4(低減係数)×16時間(屋内)=2.88 μSv/日
年間被ばく量=2.88*365=1050μSv=1.05mSv
注) 事故前の値は「日本の環境放射能と放射線(http://www.kankyo-hoshano.go.jp)」で調べる事が出来ます。

 

(8) 内部被ばく線量の算出

内部被ばくの実効線量を求める方法も、基本は外部被ばくの場合と同じです。

ただ、臓器や組織の吸収線量の求め方が異なります。

放射性物質が体のどの部分に蓄積するのかは放射性物質ごとに異なります。また、呼吸により呼吸器系経由で体内に入った場合と飲食物と一緒に消化管経由で体内に入った場合では、同じ放射性物質でも体内での挙動が異なります。さらに、大人か子供か赤ちゃんかによっても放射性物質がどれだけ体内に留まっているかが違います。

こうした条件を考慮し数理モデル計算を行い、どれ位の放射性物質を摂取したら各臓器や組織がどれだけの吸収線量を受けるかを計算します。その先は外部被ばく線量計算同様、放射線の種類や臓器による感受性の違いを考慮して実効線量を求めます。

実際には、摂取量(ベクレル:Bq)に預託実効線量係数を乗じることで。被ばく線量を求める事が出来ます。

預託実効線量係数は、放射線核種の種類や年齢ごとに細かく定められています。

 

(9) 実効線量への換算係数

内部被ばくした場合の線量評価では、核種・化学形ごとに摂取量を推定し、それに線量係数を掛けて線量を計算します。線量係数とは、1Bqを摂取した時の預託等価線量または預託実効線量の事で、ICRP(国際放射線防護委員会)により核種、化学形、摂取経路(経口または吸入)、年齢ごとに具体的数値が与えられています。

 

(10) 食品からの被ばく線量(計算例)

(例) 成人がセシウム137を100Bq/kg含む食品を0.5kg摂取した場合の被ばく線量は

100 Bq/kg × 0.5 kg × 0.013 = 0.65 μSv = 0.00065 mSv

0.013は成人がセシウム137を摂取した場合の実効線量係数(μSv/Bq)

 

ヨウ素131

セシウム137

3ヶ月児 0.18 0.21
1歳児 0.18 0.012
5歳児 0.10 0.0096
成人 0.022  0. 013 

 

(11) 摂取量推定のための放射能測定法

体内に取り込まれた放射性物質の量から、内部被ばくによる線量を推定する方法には二つの方法があります。

(a)体外計測法:体の中から出て来るγ線を直接測定する(甲状腺モニタ、ホールボディカンタ(WBC)など)。

(b)バイオアッセイ法:尿や便などの各排泄物に含まれる放射性物質の量を測り、その量から体内量を推定する。

 

(12) 内部被ばく測定の機器

セシウム137は体のいたるところに分布しますので、ホールボディカウンタによって全身から出て来るγ線の量を測定します。ヨウ素131の場合には甲状腺に蓄積するので、甲状腺モニタを用います。

 

(13) 内部被ばく量の体外計測のデータ

ホールボディカウンタで体内から出て来る放射線を測定すると、核種ごとに放射能を定量評価することが出来ます。

図5の黒い点(バックグラウンド)はベッドに誰も乗らない空の状態で計測した場合。赤い点が実際の計測データですが、放射性物質は固有のエネルギーを持っているので、ピーク位置から同定することが出来ます。

 

(14) 体内放射能の評価法の比較

 

(15) 体内放射能と線量評価

ホールボディカンダでは測定当日の体内放射能量を測ることは出来ます。しかし、他の測定器同様、機械の性能により検出限界が決まっています。放射性セシウムの生物学的半減期は成人で70〜100日ですので、初期被ばく量の推定は事故後1年程度で限界になります。

それ以降のホールボディカウンタ測定は、主に食品からの慢性被ばくを推定する目的で使われます。

子供は成人に比べて代謝が早く、初期被ばくの推定は半年程度、慢性被ばくの場合も滞留量が少ないため、微量摂取の場合は検出限界になります。

また、体内放射能の測定結果から預託実効線量の予測を行うには、急性か慢性か、吸入か経口か、いつ摂取したかなどの情報が必要です。

 

まとめ

(1) 放射線の測定には色々な機種がありますが、目的によって使い分けられます。
(2) 外部被ばくの場合と、内部被ばくの場合では異なる測定器が用いられます。
(3) 事故現場での作業や放射線医療従事者などにおける外部被ばく管理には個人線量計が用いられます。
(4) 環境放射能の測定では空間放射線量率 (μSv/時) と降下量 (Bq/㎡) を測定します。
(5) 放射線は物質を透過することにより減衰しますので、屋外に比べて屋内では建物の種類や階数により遮蔽効果があります。
(6) 放射性物質汚染地域における被ばく量は屋外滞在時間、屋内滞在時間、建物の状態などから計算します。但し、放射線は自然界にも存在しますので、汚染前の放射線量を差し引くことが重要です。
(7) 外部被ばくは汚染源から離れれば消失しますが、内部被ばくは一度放射性物質を体内に取り込むと長時間被ばくを受けます。内部被ばく量は摂取量と種々の条件より預託実効線量を計算により算出することができます。
(8) どの程度の放射性物質を摂取したかの測定には二つの方法があり、被ばく線量を推定することができます。 放射性物質も放射線も臭いも色もありませんので、或る意味で大変危険なものと言えますが、もともと自然界にも存在していますので、正しい知識と正確なデータ測定値を基に正しく怖がることが重要であり、必要以上に不安がる必要はないと思います。そのためには、正しい知識を蓄積し冷静に行動することが重要と言えます。

引用・参考資料

注意

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