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情報発信日:2012-04-23
シーア・コルボーン著の「奪われし未来」やデボラ・キャドバリー著の「メス化する自然」によって「環境ホルモン」の存在及びそれらによる環境汚染の問題が提起されたことにより、1990年代末から2000年初頭において一時、環境ホルモンの問題が大きな騒ぎとなり1998年には「環境ホルモン」が流行語大賞を受賞するに至りましたが最近はあまり話題になりません。問題は解決したのでしょうか?その後を追ってみました。
環境ホルモンとは正式には「外因性内分泌かく乱化学物質」と呼ばれ、人工的に作られた化学物質ですが天然のホルモンと構造がやや似ているため、生物の体内に取り込まれた場合に本物のホルモンと同じ作用をして生殖機能や生殖器官に影響を与えてしまう恐れのある物質を指します。特に水生生物の魚介類に実際の影響が発見されたために大きな騒ぎとなり、1998年に環境省は環境ホルモン戦略計画「SPEED ’98」を策定し環境ホルモンとして疑われる67物質を公表しました。
このリストにはカップラーメンの容器に多く使われている発砲スチロールに残留し熱湯を注ぐことによって溶けだすと危惧されるスチレンモノマーやダイマー、哺乳瓶に多く使われているポリカーボネートに含まれるビスフェノールA、界面活性剤として多く使用されているノニルフェノールなどが含まれていたため大きな問題となりました。
図1 満開のソメイヨシノ(鶴岡八幡宮の源平池 鎌倉)
人間が意図的または非意図的に作り出した多くの化学物質は我々の生活を豊かなものにしてきましたが、その一方では適切に取り扱わないと、人の健康や自然の生態系に有害な影響を及ぼす可能性があるため、これら人間が作り出した化学物質による環境リスクの適切な評価と管理は世界共通の課題といえます。
中でも、内分泌系をかく乱する作用を有すると疑われる化学物質が人間や野生生物に与える影響は未解明な点が多いものの、生殖系に影響を与える危険性があるということは世代を越えて影響をもたらす危険性があり、これらの化学物質が環境中に拡散する事態は重大な問題に至るため世界中の関心を集め、一刻も早く対応する事が求められました。
環境省(当時は環境庁)は1998年5月に「内分泌撹乱化学物質問題への環境庁の対応方針について-環境ホルモン戦略計画SPEED ’98-」を策定(2000年改定)、化学物質の内分泌系への作用に関する研究、環境実態調査、ミレニアムプロジェクトによる試験法の開発及び試験の実施等を進めました。
その結果、魚類(メダカ)に対する内分泌かく乱作用を有すると思われる物質を確認したことにより「内分泌かく乱物質」の存在を認めたと発表しました。 その結果を受けて2005年3月に「化学物質の内分泌かく乱作用に関する環境省の今後の対応方針について-ExTEND2005-」を策定し、野生生物の観察、基盤的研究、影響評価、情報提供とリスクコミュニケーション等を推進しました。特に、水生生物である魚介類に対する影響が発見されているため、魚類に対する内分泌かく乱化学物質の試験方法、評価方法及び管理方法について欧米と連動して研究に力点が入れられてきました。
① 環境中での検出状況、野生生物等に係る実態調査の推進
② 試験研究及び技術開発の推進
③ 環境リスク評価、環境リスク管理及び情報提供の推進
④ 国際的なネットワーク強化のための努力を示し
・ 67物質のリストアップ、内分泌かく乱作用の有無、強弱、メカニズム解明
① 国内での継続的な野生生物の観察を前提として、科学的な調査によって観察された事象が正常か異常かを判断し、生物個体(群)の変化を捉える。
② 環境中の化学物質による生態系や人の健康への影響を捉えるため、ばく露の有無や環境中の化学物質の実態を把握する。
③ 様々な生物種における内分泌系に関する基礎的な知見や各種の内分泌かく乱作用のメカニズム等について、基盤的研究を推進する。
④ 現時点で考え得る知見を利用して生態系への影響や人の健康への影響を推定するため、種々の試験評価手法を確立する。環境省では、生態系への影響についての試験評価手法の確立と調査の実施を重点的に検討することとし、OECD 等で進められている試験法確立に積極的に協力していく。
⑤ 内分泌かく乱作用に着目したデータのみでなく、様々な有害性評価の観点から得られたデータとともに、ばく露状況を踏まえ、総合的なリスク評価を行ったうえでリスク管理へとつなぐ。
⑥ 内分泌かく乱作用については不明確なことが多い中、漠たる不安を招かないためにも、広く、正確な情報を提供し、情報の共有と正確な理解の上に成り立つリスクコミュニケーションを推進する。 ・野生生物の観察、環境中濃度の実態把握及びばく露の測定、基盤的研究の推進、影響評価、リスク評価、リスク管理、情報提供とリスクコミュニケーション等の推進
環境省は2010年7月に「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応-EXTEND2010-」を公表し、2005年より進めてきたEXTEND2005を継続することを発表しました。
これによりますと、「ExTEND2005 で行われてきた調査・研究の実績をレビューすると、その中で採用された基本的な考え方やプログラムとしての基本骨格の根本的な見直しは必要でないと考えられるものの、プログラムとして十分な進展が図られていないなど改善が必要な部分も認められた」として、EXTEND210では「環境省としては、化学物質が環境を経由して人の健康や生態系に及ぼす影響を防止する観点から、引き続き生態系への影響について優先的に取り組み試験評価手法の確立と評価の実施を重点的に進めるとともに、関係省庁における役割分担を踏まえながら環境中の化学物質が人の健康に及ぼすリスクについても視野に入れて検討を進める」とし、今後も継続して内分泌かく乱化学物質に対する対応を継続して行く方針であるとしています。
プログラムの構成としては、従来のEXTEND2005を踏襲する様子で
① 野生生物の生物学的知見研究及び基盤的研究の推進
② 試験法の開発及び評価の枠組みの確立
③ 環境中濃度の実態把握及びばく露の評価
④ 作用・影響評価の実施
⑤ リスク評価及びリスク管理
⑥ 情報提供等の推進
⑦ 国際協力の推進
1998年頃から世界で一斉にスタートした環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)に関する研究ですが既に10年以上が経過しているにも関わらず、かなり苦戦している様子で未だに試験方法、評価方法さえも確立できないのが現状です。それだけ、難しい問題といえると思いますが、一部の物質が水生生物に対して実際に内分泌かく乱作用がありそうだということが判りましたが、幸い哺乳類(ラット)に対する内分泌かく乱作用が認められた物質は未だ見出されてはないようです。また、内分泌かく乱化学物質として疑われている物質の大半は、発癌性や催奇形性など他の毒性も有しており既に他の法規制によって製造禁止や使用制限を受けているため、環境中に大規模に拡散する心配も少ないものと思われます。
過去において、人間が作り出した多くの化学物質は我々の生活を豊かにしてきた反面、気づいた時には環境を大規模に汚染し回復に多大な努力と資金を必要とした失敗事例が沢山あります。従って、最近の化学物質に対する規制は「疑わしきは罰する」という考え方に変化してきており、特に難分解性、生体蓄積性の高い物質に対するリスク評価や管理方法は今後も厳しいものとなるとなり、企業に対する責任も厳しく追及される事が予想されます。
従って、毎度の繰り返しになりますが自社の製品にどんな化学物質がどれくらい含まれるのかという管理の重要性が益々高まってきているといえます。