ホーム > 環境について > 環境関連情報 > 世界の化学物質規制の源流

環境関連情報

世界の化学物質規制の源流

-アジェンダ21、SAICM、IFCSとは‐

情報発信日:2009-08-26

世界の化学物質規制の源流はどこに?

RoHS指令やREACH規制などEUにおける化学物質規制が先行しているため、世界の化学物質規制の源流は欧州に有り、日本やその他の地域の国々は、これに引きずられている様に見えますが、実際には1992年に国際連合の主催によりブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」、通称「地球サミット」にその源流は有ると言えます。この「地球サミット」は1972年にストックホルムにおいて第1回が開かれ、その後10年ごとに開催され1982年にはナイロビで、また2002年にはヨハネスブルグで開催されています。テーマは大気・森林・気候・水・生物多様性・廃棄物など地球環境問題の他にも、人口、貧困、居住問題などの社会的・経済的要素について議論が行われます。

1992年の会議には世界の首脳の他に世界各国の産業団体、市民団体、非政府組織(NGO)も含め14日間に延べ4万人もの人が参加したと記録されています。リオの地球サミットでは「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」(リオ宣言)と、この宣言を実施するための行動計画である「アジェンダ21」「森林原則声明」が合意されました。また別途協議が続けられている温室効果ガスの排出量削減のための「気候変動枠組み条約」や「生物多様性条約」なども、リオ宣言が源流と言えると思います。また、ここでの合意事項を具体的な目標を持って実施するため、国際連合の経済社会理事会の下に「持続可能な開発委員会(CSD)」が設置されました。

アジェンダ21について

アジェンダ21は前述の様に1992年の地球サミットにおいて採択された、21世紀における「持続可能な開発」を実現するための行動計画であり、4つのセッションと40の章から構成され国境を越えて地球環境問題に取り組む行動計画と言えます。但し、条約の様な拘束力は有りませんが各国政府や機関はアジェンダ21を意識しての推進体制を作り行動していると思えます。化学物質規制に関してはセッションⅡ(開発資源の保護と管理)第19章「化学物質の環境適正管理と不法流通の防止」が有り以下6つのプログラム分野が示されて、それぞれについて目標と行動計画が示されています。

  1. 化学的リスクの国際評価の充実と加速化
  2. 化学物質の分類と表示の調和
  3. 有害化学物質とリスクに関する情報交換
  4. リスク低減計画
  5. 化学物質管理能力の強化
  6. 有害危険物の不法国際流通の防止

この19章に記載された目標と行動計画を推進するために以下の取組み・行動が行われています。

IFCS(政府間化学物質安全性フォーラム)とSAICM(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)

まず、アジェンダ21の19章「化学物質の環境適正管理と不法流通の防止」の6つのプログラムを達成するために、1994年に国連、国連専門機関あるいはIAEA(国際原子力機関)のいずれかに加盟している政府で構成される、
IFCS(Intergovernmental Forum on Chemical Safety)政府間化学物質安全性フォーラムが発足しました。2006年までに5回のフォーラムが開催されていますが、2002年にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界サミット」で採択された「持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画」において、「2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響の最小化を目指す」との目標が掲げられ、そのための行動の一つとして、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)を2005年末までに取りまとめることとされました。また国内においてはIFCS各省庁連絡会議が開催され、縦割りの行政枠を横断した取組みも行われています。

化学物質規制において重要なこと

一見、欧州が源流と思われがちな化学物質規制ですが、以上の通り「アジェンダ21」の19章をバイブルとして今後一段と拡大、加速されて行くことになるのは間違いが無いところだと思います。

では今後、どの様に準備を行い、対応する必要があるのでしょうか?我々製造業に今後より強く求められるのはアジェンダ21の19章5番目のプログラムである「化学物質の管理能力の強化」だと思われます。

危なそうな化学物質はこの際「全部製造・使用中止にしてくれた方が楽」と言う極論も有りますが、種々の化学物質のお陰で我々の便利な生活が営まれていますし、どんな化学物質も「無限に摂取しても無害・無毒」と言う物質は有りません。また同じ物質でも摂取の仕方によっても、有害となる量は異なりますので一律に「危険だから製造・使用禁止」と言うのは簡単な様で実は大変に難しいことと言えます。例えば「水」でも「塩」でもそう言うことが言えます。もし人間が10リットルもの大量の水を短時間に飲んだとしたらどうでしょう?500ccの真水を静脈注射したらどうでしょう?同じ500ccでも0.7%の塩を溶かして注射したらどうでしょう?答えは何となく想像が着くと思います。また人類の営みに取って非常に大切であり且つ、代替品が無い場合にはどんなに猛毒でも製造禁止や使用禁止に出来ない物質も多く有ります。例えば、猛毒と言われるシアン化カリウムや亜砒酸なども何故製造禁止や使用禁止にならないのでしょう?

今後の化学物質規制の基本的な考え方は「化学物質とは、その物性を熟知して上手に付き合って行こう」と言うことになると思います。既に代替物質が有り、無くなってもあまり困る人が居ない物質、あるいは難分解性、生体への蓄積性・残留性の高い物質は今後の検討で製造・使用の禁止、限定使用などのケースは増えるかと思われますが、「自らの責任で安全保障を担保する」ということかと思います。

そのためには、今まで無頓着であった自社が調達する材料、素材、部品を構成する化学物質(金属を含め)の組成を正確に把握すること、すなわち化学物質の管理をしっかり行うことでほとんどの化学物質規制には対応できると考えます。化学物質の管理能力強化とは具体的には、例えばプラスチックやゴム、接着剤、塗料、潤滑剤、包装材料など従来は「何が含まれているか判らない」で過ごして来たかも知れませんが、今後は「全ての調達品を構成する物質の組成を正確に把握する」ことが大変重要になると言えます。勿論、一品一品自社で分析を行うなど不可能ですから、川上から情報を受け取る仕組みとその情報を川下へ正確に伝達する仕組みを構築することが重要になります。

現状ではRoHS指令やREACH規則も規制対象物質は両手で数えられる程度ですが、最終的には数1000物質が規制対象になると見込まれますので、帳票と電卓で管理する限界を超えるのは目に見えています。そのためには部品表の再設定、管理ソフトの立ち上げ、サプライチェーンでの情報伝達の仕組み作りなど膨大な作業を要しますので、早めに取り組むことをお勧めします。従来、製造業においてはQ(品質)、C(コスト)、D(納期)が重要と言われて来ましたが今後はQCD+E(環境)対応が必須となります。化学物質規制に関しては源流、背景を正確に知り上手に対応する必要が有ると思われます。

参考文献及び引用先

注意

情報一覧へ戻る