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情報発信日:2005-04-14
21世紀は環境の世紀といわれていますが、有害化学物質など環境負荷物質に関する使用規制/制限が、EU(欧州連合)におけるRoHS指令やREACH規則などに端を発して、法規制の枠をも超えて急速にその広がりを見せ始めています。
そのRoHS指令の施行日である2007年7月1日まであと1年と少しとなり、電気電子機器メーカはこの課題に対して待ったなしの対応を迫られていますが、EU圏内外や北米、わが国を含むアジア諸国などにおける国内法においては RoHS指令での使用制限物質以外にもアスベスト、PCB、トリブチル錫など有害物質の使用を制限する法律は多く存在しています。このような状況において「ものづくり」の手法が大きく変化しつつあります。
従来はものづくりをするメーカにとって製品の競争力は「性能・品質とコスト」にありましたが、今後はこれらの要素に加えて「環境に対する負荷の度合い」が製品の競争力に大きなウエイトを占めてきます。
製品の評価に環境に対する負荷度合いが加味されるようになると、有害物質などその物質自身が環境に対する負荷物質である場合には、その物質の使用を制限することはもちろんですが、希少な天然資源物質や、製造や廃棄処理に多くのエネルギーを消費する素材までが「環境負荷物質」としてレッテルを貼られるケースも出始めています。後者の場合には、法的な規制物質ではありませんが、企業独自の判断により使用を制限することになります。設計開発段階ではこのような環境負荷物質そのものや、このような物質を含む部品を製品に使用しないことに加えて、できるだけエネルギーを消費しない、できるだけ資源を使わない、できるだけ長寿命にしリサイクル性もよくする、などの環境配慮設計が求められてきています。このために、社外から調達する材料や部品にこれら環境負荷物質が入り込むのを防止するための仕組み作りが、主に電気電子機器各社を中心に進んでいます。
RoHS指令に対応し自社製品に使用制限物質が入り込まないようにするには、上流である自社が購入する部品や素材にメーカと共同で源流までの管理を行なわざるを得ません。このように源流から下流のユーザまでの流れにおいて使用制限物質が含有していない証明を引き継ぐ仕組みをグリーンサプライチェーンとよびます。また、源流から中間加工業者を経て最終ユーザに至るまでの関所として「指定物質を一定以上含んでいる場合には受け入れない」というメーカ独自の調達基準をグリーン調達基準とよび、ソニー、キャノン、リコーなど電気電子機器メーカ各社がこぞって基準作りを急ぎ、これを公表しています。
グリーン調達基準の策定を各メーカが急ぐ理由は、2007年7月1日に施行されるRoHS指令への対応にありますが、第一の問題は「RoHS指令に対応する際に将来を見越して作られたと思われる自主基準」であるグリーン調達基準を、川上の材料や部品メーカに対して一方的に押しつけてくるところにあります。
自主基準ですから各社の使用制限物質とその制限量はバラバラである可能性があり、上流の部品や素材メーカに対して多くの負荷と混乱を強いることになるわけです。このような状況においては、必然的にコストに跳ね返る結果になりますので、川下ユーザとしても業界標準、さらにはグローバルスタンダードとしての基準策定が必要になります。
第二の問題点は、これら化学物質規制が、ある意味で感情やムードに流されて魔女狩り的に広がっているきらいがある点です。今回、RoHS 指令により使用が制限されることになった天然の鉱物資源である鉛や水銀は、人間の生活を豊かにするために古来より、人間に恩恵を与えて続けてくれました。また、多くの人工的な化学物質も、われわれの生活を豊かにするために作られました。たとえば、RoHS指令により使用が制限される臭素系難燃剤のPBDEは、ペンタBDE、オクタBDEとデカPDEとでは化学的な安定性がまったく異なるので、一括して使用規制するのは間違いではないかという議論がもちあがっています。重要なことは、科学的な根拠に基づき、冷静にその物質の長短を見極めることにあると思います。今は感情的にその物質の「短所」だけを無理やり見つけだしては、「これも使用禁止!あれも使用禁止!」と大声を上げているようにさえ思われます。たとえば塩化ビニルは、人類が作りだした合成樹脂のなかで、これほど色々な意味で優れた材料はないと思われるものですが、「燃やすと毒ガスやダイオキシンが発生するから規制するべき」という議論が根強くあります。短所ばかりを見るのではなく、塩ビが地球上から消えることによる得失の科学的なデータを示して議論されるべきではないでしょうか?
2003年にソニー、キャノン、リコーなど、大手の電子情報通信機器メーカ18社が共通のグリーン調達基準案をまとめ、欧州の電子情報通信機器メーカと統一基準を作ることで基本合意し、この案を軸に欧州の電子・電気機器メーカ約3,000社が加盟する欧州情報通信技術製造者協会(EICTA)と詰めを急ぐとしています。また、米電子工業協会(EIA、加盟企業約2,100社)とも本格交渉を行っており、日米欧の標準を確立する方向では動いています。ただし、国内18社のなかでさえも物質の分類項目が50〜1,000以上の開きがあり、調整が難航しています。国内においては電子情報技術産業協会(JEITA)の環境安全部に設置されたグリーン調達調査共通化協議会(JGPSS)が、最終的に29物質(レベルA 15物質:国内外の法令で含有製品の販売・製品への使用に関して禁止または制限または報告義務を受けるもの15物質、レベルB 14物質:直接の有害物質ではないが、a. リサイクル業者に対してend-of-lifeに経済的価値を提供する貴重な物質、b. 環境・健康・安全衛生に影響を与える恐れのある物質、c. 有害物質に関する法規制の要求事項の対象となる物質(廃棄時の危険有害物質)、d. end-of-lifeの管理の際、マイナス影響を回避するために情報が必要と思われる物質)をリストアップしました。川上メーカとしては、混乱を避けるために一日でも早い統一を望みたいところですが、しばらくはイバラの道が続きそうです。繰り返しになりますが、物質の使用制限を判断する場合には、科学的なデータを基にその得失を比較して行なってもらいたいものです。
※レベルA、レベルBに指定された29物質の詳細については、下記JEITA環境案全部グリーン調達調査共通化協議会のガイドラインをご覧ください。