EUの新たな化学品規制の動向
EU(欧州連合)における新たな化学品規制「REACH規則」について
情報発信日:2004-08-20
REACH規則とは
RoHS指令やWEEE指令の陰に隠れてあまり話題になりませんが、数年間に渡る準備作業を終えて、EUは2003年10月29日に従来の化学物質政策を抜本的に転換するREACH規則案を可決し、欧州理事会と欧州議会へ法案を送付しました。REACH規則(Registration, Evaluation, Authorization of Chemicals)は欧州にて製造及び輸入される化学品に対して登録、評価、認可を義務づけるものです。
REACH規則の背景
EUでは1967年に導入され実施されている既存の化学物質規制制度での問題点(市場で使用される化学物質<既存物質及び新規物質>のリスク評価と管理が十分進まなかったこと等)を踏まえて、人体の健康及び環境の保護、EU化学産業の競争力強化等を目的として新たな規制制度の導入を目指しています。
2001年2月に欧州委員会は「化学品政策戦略白書」を発表、新たな化学品規制として今回のREACHシステムの導入を提案しました。2003年5月には上記白書の考え方に基づき、欧州委員会が作成した化学品に関する規制案のインターネット・コンサルテーションを8週間に渡って実施しました。この結果を踏まえ、欧州委員会は2003年10月29日に欧州理事会と欧州議会に法案を送付しましたが、通常は「指令」の上位に位置する「規則」の成立までには2〜3年を要します。
「指令」と「規則」
EUの法体系はその拘束力の強弱により5つに区分されます。指令 Directive は官報に掲載後、3年以内にEU加盟各国に自国の国内法の新設または改廃することを求めるものですが、規則 Regulation は5つのうち最も拘束力が強く、加盟国に直接適用され、各国の国内法と同一の拘束力をもちます。
現行制度とのおもな相違点
- 従来別々の規制の下にあった新規物質と既存物質を同一の規制枠組みとする
- 化学物質の製造・輸入業者のみならず、川下ユーザ(化学物質を使った製品の製造業者)を含む産業界に対して化学物質の安全性情報の提供とリスク評価の義務づける
- 年間1トン超の製造・輸入される化学物質(中間体を含む)のみならず、調剤やポリマーに含まれる化学物質を製造・輸入する業者に対して登録を義務づける。また一定の条件に対応する成形品に含まれる化学物質についても、当該成形品に含まれる化学物質についても、当該成形品の製造業者及び輸入業者に対して登録を義務づける。
- 発ガン性物質など高い懸念のある物質については、用途ごとに認可制をとる。
- REACHシステムの運用のために、新たに「欧州化学機関(European Chemicals Agency)」を設置する。
REACHシステムの概要
注意義務
- 企業(製造・輸入業者、川下ユーザ)は自ら製造・輸入している化学物質(成形品の製造・輸入業者については成形品から排出される物質)について、人の健康や環境に悪影響を与えないような態様で製造・輸入または使用されることを確保する
安全性評価(アセスメント)
- 化学物質の製造・輸入業者は、当該物質の化学安全性評価を行う。
- 川下ユーザは、川下ユーザ化学安全評価を行うほか、サプライチェーンを形成する川上ユーザ(化学物質の製造業者)から当該川下ユーザに通報された「化学安全報告書」に含まれない用途のために物質を利用する場合などには、Agencyに関連情報を報告する。
- サプライチェーンを形成するすべての製造業者/輸入業者/川下ユーザは「化学安全報告書」を利用できるようにするとともに、更新し、加盟国当局、Agencyからの要求に従って提出する。
登録(Registration)
- 化学物質を年間1トン以上製造する企業、年間1トン以上の物質または調剤中の物質を輸入する企業に登録の義務を課す。
- 製造・輸入業者は、物質に関する情報や安全性に関する基礎情報(登録書)をAgencyに登録する。なお、提出データの内容などについては、年間製造・輸入量(トン数)によるほか、対象となる物質の性状によっても(一部のポリマー、中間体など)違いを設けている。
- EU域内において、複数の製造・輸入業者が物質、ポリマーまたは中間体を製造・輸入する場合、これらの業者は登録のためにコンソーシアムに参加することができる(各参加事業者は通常の登録料の1/3をAgencyに支払う)。
- 登録者は、登録日付または追加情報の当局による受理日から何らかの通告もなく60日経過した後、EU域内で製造・輸入することができる。
評価(Evaluation) ※この「評価」は製造業者などに求めている「安全性評価」(Safety Assessment)とは異なる
- 登録を取り扱う加盟国の当局が評価当局となり、登録に関して所定の要件を満たすために行なわれるすべての試験の提案内容について義務的なチェックを行なうとともに、登録された情報の正確性を審査することができる。
- 評価当局は、試験の提案内容に同意する場合、関係の登録者または川下ユーザに当該試験を実施するように要求する。
認可(Authorization)
- 懸念物質(発ガン性・変異原性・生殖毒性物質、難分解性物質・生体内蓄積性・毒性物質、極難分解性・極期生体蓄積性物質及び内分泌撹乱物質等、個別具体的にこれら物質と同等の懸念があると認められた物質)については、認可を要する。
- 認可には、欧州委員会がその認可付与の責任を負う「共同体認可」(申請者が物質を市場投入または市場投入を意図する場合)と、各加盟国がその認可付与の責任を負う「加盟国認可」(申請者が物質の市場を意図しない場合)がある。
- 申請者は、特定の用途についてその化学物質によるリスクがないことを証明したうえで、認可を受けた用途についてのみ当該物質を利用できる。
制限(Restrictions)
- 制限とは、製造、使用または市場投入に関する何らかの条件または禁止を意味している。
- 物質の製造、使用等により、人の健康または環境への容認しがたいリスクが存在する場合、欧州委員会または加盟国は、制限のプロセス開始のためにAgencyに書類を提出する。
- 制限の適否は、Agency内に設置されるリスク評価委員会及び社会経済分析委員会の見解に基づき決定される。
成形品(article)中の化学物質についての登録
- 1年あたり合計1トンを超える量で形成品に含まれるあらゆる化学物質について、通常及び合理的に予見できる条件による使用と廃棄において、人の健康または環境に悪影響を及ぼすような方法で排出される場合、当該物質の登録が求められる。
非遵守への制裁(sanctions for non-comipliance)
- 各加盟国は新たな規則に定められる条項の執行を確保するために、罰則を含むあらゆる必要な措置を講じる。
- 各加盟国が罰金の納付義務を定める場合には、違反者の年間の全世界売上高の10%を超えないものとする。
REACH規則への各国の反応
7月10日に締め切られたインターネット・コンサルテーションの結果、各国政府及び産業界から約6,400に及ぶコメントが寄せられました。
これらコメントによると、化学産業の盛んな国のほかEU加盟国のなかからも、政府及び産業界レベルより、本件規制案は、化学産業界、とくに中小企業への負担(コスト面、手続面)が過度になること、対EU輸出への影響が大きいこと、欧州の化学産業の競争力が損なわれるおそれがあること、実効性が確保されていない等の懸念が示されています。また、EU加盟国外の国は上記に加え、新たな規制が貿易制限的とならないかと懸念しており、すでにAPEC化学ダイアローグやWTO/TBT委員会での議論も行われています。
日本政府も、EUの目指す「人体の健康及び環境保護は支持する」が、
- 企業に過度の負担を与えるべきではない
- EU向け輸出を阻害し、貿易制限的にならないよう配慮すべき(とくに成形品に含まれる化学物質の登録について)
- OECD等の場で、国際的に実施ないしは検討されている化学品規制制度の国際調和の動きとの整合性を確保すべき
- 実際の規制を執行するEU加盟各国当局間で運用に一貫性が保たれるよう配慮すべきである
などの指摘をしました。
引用・出典
- 2003年9月30日付外務省発表文書
- 2003年5月30日付経済産業省発表「REACH規則」全文仮和訳
- 2004年7月5日付中日新聞報道記事
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