ストックホルム条約 次期規制物質候補について
金属加工油に含まれる短鎖塩素化パラフィンが対象に
情報発信日:2009-11-27
ストックホルム条約での次期規制物質候補の検討
「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」とは、環境中での残留性や生物蓄積性及び人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念されるポリ塩化ビフェニル(PCB)、DDT等の残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)の、製造及び使用の廃絶、排出の削減並びにこれらの物質を含む廃棄物等の適正処理等を規定している条約です。
POPs条約では新たな化学物質の追加については、その追加物質を検討する検討委員会(POPRC)が設置されており、そこで審議が行われますが、その第5回会合が2009年10月12〜16日にスイスのジュネーブで開催されたと環境省及び経済産業省が2009年10月22日付けで報道しました。以下、経済産業省の報道内容に若干の説明、コメントを付して説明します。
ストックホルム条約への新規化学物質追加の手順
POPRCでは新たに規制対象候補に挙げられた化学物質について[1]スクリーニング、[2]リスクの概要(リスクプロファイル)の評価、[3]リスク管理に関する評価の段階を経てPOPs条約の締結国会議へ勧告を行います。そして最終的にPOPs条約締結国会議においてPOPsの対象とするか否かの最終決定が下されます。
今回の新規追加候補物質とその段階
今回提案の物質は以下の3物質です。
- スクリーニング段階
・ヘキサブロモシクロドデカン
- リスクプロファイル案の検討段階
・短鎖塩素化パラフィン
・エンドスルファン
今回審議の3物質の主な用途
- エンドスルファン
農薬(殺虫剤)であり、工業製品への影響は少ないと思われます。
- ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDD)
HBCDDは欧州RoHS指令で規制物質になっているPBBやPBDEなどと同じ臭素系の難燃剤の一つです。次期RoHS指令の追加規制物質候補にもなっていますが、一方ではPBDEの代替物質の一つとしても考えられています。難分解性で高蓄積性のため環境中に残留しやすい物質としてPOPRCでは取り上げられたものと思われます。日本では化管法(PRTR法)で第1種監視化学物質に指定されていますが、発泡スチロール等の難燃剤の他に接着剤の硬化促進剤や繊維のコーティング剤などに使用されている様です。またHBCDDのCAS No.は3194-55-6ですが、沢山の異性体が存在し異性体を混合したHBCDDのCAS No.は25637-99-4となりますので含有/非含有調査を行う場合は注意が必要です。また名称・略省もHBCD, HBCDs, 1,2,5,6,9,10-ヘキサブロモシクリドデカンなどと呼ばれることも有ります。
- 短鎖塩素化パラフィン
2007年6月時点で全国工作油剤工業組合が経済産業省製造産業局化学物質管理課にヒアリングした情報によりますと
- 現在、短鎖塩素化パラフィンは日本の化審法で第一種監視化学物質に指定されており、2009年以降の条約締結国会議で条約対象物質への追加登録される可能性が高い。
- 日本の化審法で定義される「短鎖塩素化パラフィン」は炭素数が11、塩素数が7〜12の範囲に有りますが、POPsが対象としている「短鎖塩素化パラフィン」は日本で「中鎖塩素化パラフィン」と定義されている範囲の一部までを含む炭素数10〜13、塩素数1〜13まで、かなり広範囲の塩素化パラフィンを規定していますので注意が必要です。
- POPs条約での追加物質に指定された場合は化審法の第一種監視化学物質から第一種特定化学物質に変更されますので、炭素数13の中鎖塩素化パラフィンも製造・輸入の禁止処置が取られます。
もっとも、注目を要するのは当該物質の用途に有ります。塩素化パラフィンは難燃性、可塑性、金属加工の潤滑性・疎水性を有することから様々な金属加工時における用途に多く使用されていますが、難分解性で高生物蓄積性を有する物質と言われています。EUでは2004年に金属加工と皮革産業用途での使用を禁止、米国では1995年よりToxic Release Inventory(TRI)のリストに追加して、事業者に排出移動量の報告を義務付けています。
一方、国内ではこれまで規制が無く、PRTRの物質リストにも登録されていませんでした。しかし、短鎖塩素化パラフィンを含む金属のリサイクルが難しいこと、焼却によるダイオキシンの発生などの理由から短鎖塩素化パラフィンを含んだ金属加工油剤の自主削減が進んで来ていますが、前述したとおり日本における短鎖塩素化パラフィンとPOPsで定義された短鎖塩素化パラフィンでは炭素数と塩素数が大幅に異なるため、その使用の実態はまだ掴めていないと思われます。
POPsの対象物質に指定された場合の影響
上述のとおり、上記3物質が規制された場合に一番影響を受けると思われる物質は金属の切削やフォーミングなどの使用される短鎖塩素化パラフィンと言えると思います。前述したとおり2007年6月時点で全国工作油剤工業組合が経済産業省にヒアリングをしており、問題点は把握していると思われますので、代替品の開発など必要な手は打たれていると期待したいものですが、各自取引先の油剤メーカーに含有の有無を早めに確認された方が良いと思われます。
POPRC5の結果(2009年10月22日 経済産業省報道資料より)
- スクリーニング段階の審議にかかっていた、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDD)については、スクリーニング基準を満たすとされたため、リスクプロファイル案を作成する段階に進めることが決定されました。
- リスクプロファイル案の審議にかかっていた2物質のうち、エンドスルファンについては、当該物質が長距離移動の結果重大な悪影響をもたらすおそれがあるとの結論に達し、リスクの管理に関する評価案を作成する段階に進めることが決定されました。
- 同じくリスクプロファイル案の審議にかかっていた短鎖塩素化パラフィンについては、議論が収束しなかったため、リスクの管理に関する評価案を作成する段階に進めるかどうかの結論を次回会合へ持ち越すこととされました。また、次回会合までに、関連する情報をさらに収集することとされました。
- 次回POPRC6開催は2010年10月予定
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