明治時代に始まった我国の産業革命から昭和30~40年代の高度経済成長期にかけ、工場から排出された有害化学物質を含む排水や排気によって「公害」が多く発生し、工場近隣住民の健康を害してきました。今日では、水質汚濁防止法、大気汚染防止法、土壌汚染対策法などの整備によって、工場周辺における有害化学物質による汚染はほぼなくなったといえます。また、労働安全衛生法の改定など、工場の現場で働く人々に対しての有害化学物質による弊害を防止するための法整備も進められてきました。
これらにより、製造業における有害化学物質管理は十分だと認識されていましたが、2001年12月ソニー製のゲーム機がオランダにおいて部品の電線に同国の規制基準の20倍ものカドミウムが含まれていると指摘され、税関で足止めされてしまいました。これによって、ソニーは数十億円ともいわれる損害を被ったとされています。この事件以来、我国の製造業では、自社製品に含有する化学物質の管理を厳格化するようになっていきました。
現在では、EUにおけるRoHS指令(電気電子製品に含まれる有害化学物質規制)やREACH規則(総合有害化学物質規制)に始まり、各国がこれらを手本に製品含有化学物質を管理するための法整備を進めてきました。
しかし、一口に「自社製品に含まれる全ての化学物質を把握し管理する」というのは大変な作業であり、種々の課題があります。
特に、バルブは部品であるため、汎用バルブでも電気電子製品に組込まれたり、自動車や船舶に搭載されたりしており、色々な可能性を考えると、全ての国の全ての産業を対象にして対応する必要が生じる場合があります。
しかし、有害化学物質の法整備は途上にあり、時々刻々と規制物質や規制内容が変化しているため、情報の効率的な入手が必須となります。
そこで筆者は、2019年4月16日(火)に機械振興会館で行われた日本バルブ工業会主催の環境セミナーで、製品含有化学物質管理において効率的に情報収集するための主要なウェブサイトを紹介しましたが、本コラムでは、上記セミナーで紹介したサイトに加えて、筆者が日常的に情報源としているサイトの一覧を提供させて頂きます。
化学物質検索サイト(CAS番号、化学物質名、法規制名など)
一般に、化学物質は同じ物質であるにも関わらず複数の名称を有しています。このため、規制物質を特定し、どんな性質を有し、どんな規制を受けているのか知るための情報が必要です。
化学物質を識別するため、各国では番号を付けて管理しており、我国では化審法番号(MITI番号)、EUではEC番号を使用していますが、米国化学会が使用している「CAS番号」が広く利用されています。
以下、CAS番号や化学物質名で検索できるサイトを列記します(リンク先URLはすべて2019年4月17日現在のものです)。
J-CHECK化審法データベース
運営: 独立行政法人 製品評価技術基盤機構
取得できる情報: CAS番号または化学物質名称入力⇒化学物質情報や該当化審法分類などの情報
J-GLOBAL
運営: 国立研究開発法人 科学技術振興機構
取得できる情報: CAS番号、化学物質名称など入力⇒種々の情報が得られるが、情報量が多いので使い方が難しい
化学物質総合情報提供システム
運営: 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE-CHRIP)
取得できる情報: 化学物質名、CAS番号または法規制からの逆引きも可能、比較的使いやすい
CAS(Chemical Abstracts Service)
運営: CAS本家の米国化学会
取得できる情報: 有料サイトですが、CAS番号から多くの情報が得られる模様
SciFinder
運営: 化学情報協会
取得できる情報: CAS本家の日本代理店
CAS番号によるデータ検索
運営: NIST アメリカ国立標準技術研究所
取得できる情報: 化学物質の別名や基本的な情報
法規制情報サイト
(国内法)
化審法対象物質一覧
運営: 経済産業省
取得できる情報: 化審法対象物質一覧及び規制内容
化学物質排出把握管理促進法
運営: 経済産業省
取得できる情報: 化管法のPRTR制度及びSDS制度の制度概要と対象物質一覧
資源有効利用促進法
運営: 経済産業省
取得できる情報: 日本版RoHSであるJ-Mossなどを含む
(海外法)
電気電子機器における有害物質の規制(RoHS指令)
運営: EU委員会環境局
取得できる情報: RoHS公式サイトで、RoHS指令に関する最新情報
RoHS Evaluation
運営: Öko-Institute(EU委員会の委託を受けたRoHS改定の検討機関)
取得できる情報: RoHS指令の新規規制物質、適用除外などの検討情報、パブコメ・情報提供可能
RoHS Guide
運営: RoHS Guide.com (公的機関なのか民間機関または個人か不明)
取得できる情報: RoHSに関する最新情報更新
J-net21「ここが知りたいRoHS指令」
運営: J-net21、独立行政法人中小企業基盤整備機構
取得できる情報: RoHSの基本から最新情報まで。他国版のRoHSも解説、質問も受け付け
Candidate List of substances of very high concern for Authorisation
運営: ECHA, EU化学品庁
取得できる情報: 最新版REACH規則の認可対象候補物質一覧
Substances of very high concern identification
運営: ECHA, EU化学品庁
取得できる情報: 追加SVHC物質として審議のテーブルに上がっている物質を公開、パブコメ
Public consultations
運営: ECHA, EU化学品庁
取得できる情報: REACH規則、CLP規則などのコンサルテーション状況のお知らせ
Authorisation List
運営: ECHA, EU化学品庁
取得できる情報: REACH規則附属書XIV認可対象物質リスト
Substances restricted under REACH
運営: ECHA, EU化学品庁
取得できる情報: REACH規則附属書XVII制限物質リスト
J-net21, ここが知りたいREACH規則
運営: J-net21、独立行政法人中小企業基盤整備機構
取得できる情報: REACH規則の基礎から最新情報に関するコラム、質問コーナーなど
EU、中国及び韓国の化学物質規制
運営: 環境省/化学物質国際対応ネットワーク
取得できる情報: EU、米国、中国及び韓国など各国における化学物質管理制度に関する情報を収集 ・翻訳
Reviewing New Chemicals under the Toxic Substances Control Act (TSCA)
運営: 米国環境保護庁(EPA)
取得できる情報: 米国有害化学物質規制法(TSCA)に関する公式サイト
米国Proposition65
運営: カリフォルニア州環境保護庁(CalEPA)
取得できる情報: 安全な飲料水と毒性の執行法として癌、先天性欠損症または他の生殖機能を引き起こすそのような化学物質への暴露情報
Laws and Executive Orders
運営: 米国環境保護庁(EPA)
取得できる情報: 米国における環境関連法と大統領執行令一覧とそのリンク
Environmental Information by Location
運営: 米国環境保護庁(EPA)
取得できる情報: 米国の地域的な環境規制と各州の環境保護庁と環境関連州法へのリンク
条約及びその他
Guidelines for Drinking-water Quality
運営: WHO(世界保健機構)
取得できる情報: 飲料水質ガイドライン(第4版)及びその他の情報
シップリサイクル条約
運営: 日本海事協会
取得できる情報: シップリサイクル条約(船舶版WEEE/RoHS)の情報、船舶の構造及び機器に含まれる有害物質
ELV指令(廃自動車指令)
運営: EU委員会環境局
取得できる情報: 自動車版WEEE/RoHSと言われる廃自動車含有の有害化学物質規制情報
ストックホルム条約(POPs)
運営: 環境省
取得できる情報: 生体内に残留蓄積する有害化学物質を規制する条約に関する情報
chemSHERPA by JAMP
運営: アーティクルマネジメント推進協議会/経済産業省
取得できる情報: 製品含有化学物質管理ガイドライン、情報伝達に関するガイドラインの発行、chemSERPA(情報伝達共通フォーマット)などの情報
水銀条約
運営: 環境省
取得できる情報: 水銀条約に関する情報
メールマガジン(申し込み、バックナンバーなど)
化学物質国際対応ネットワークマガジン
運営: 一般社団法人海外環境協力センター(環境省)
取得できる情報: 化学物質の国際対応に関する最新動向やイベント情報など(海外の化学物質規制更新情報など)バックナンバーあり
【NITEケミマガ】NITE化学物質管理関連情報
運営: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 化学物質管理センター
取得できる情報: 化学物質規制に関し政府、独立行政法人等の公的機関等のホームページから発信された情報をリンクとともに掲載
環境省新着情報メール配信サービス
運営: 環境省
取得できる情報: 化学物質規制に限らず、環境問題全般の報道資料リストを配信
ChemseftyPRO
運営: Chemseftypro.com (化学規制専門家グループにより自主運営)
取得できる情報: 世界各国における化学物質規制に関する情報発信
ECHA NewsLetter
運営: ECHA, EU化学品庁
取得できる情報: REACH規則やCLP規則などに関する最新情報やトピックスの配信
まとめ
かつては企業における化学物質管理とは、工場からの排水や排気に含まれる有害化学物質によって引き起こされる公害対策でしたが、近年では自社製品に含有する化学物質の管理へと軸足が移ってきています。しかし、製品含有化学物質管理においては自社が購入する川上企業から自社が販売する川下へとサプライチェーン全体を通しての情報管理体制の構築や世界の各地域や国別の法規制に適合して行くための情報収集が必要となってきます。
さらには、各国の化学物質法規制は対象物質や規制内容が逐次変化しているため、リアルタイムでの正確かつ信頼できる効率のよい情報収集が望まれるようになります。
このような状況において、ネット上の信頼できるサイトを効率よく使うことが有用と思われます。
なお、自社製品に含まれる化学物質組成を正確に把握することは、有害化学物質規制への対応の他、コンプライアンス及びPL法(製造物責任)の観点からも企業が避けて通れない問題と認識するべきと思われます。
今回は、筆者が日頃より定期的に利用しているサイト及びメールマガジンのうち、会員の皆様に有用と思われる主要なサイトを紹介させて頂きました。少しでもお役に立てれば幸甚です。
(追記)
海外サイトについては、昨今の機械翻訳が各段に進歩してきていますので、ブラウザ“Google Chrome”と自動翻訳機能を使用すると便利です。但し、重要な情報として使用する場合は、翻訳の専門家に委ねることが必要です。