企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践　#2

～SDGsをCSRに組込む意義～

2019年2月18日

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はじめに

最近何かと話題になっているSDGsについて、2019年1月21日付け本コラム「企業経営の新たな軸足「SDGs」とは、その実践 #1～SDGsを詳しく知る～」では、「2015年の9月25日～27日、ニューヨーク国連本部において、『国連持続可能な開発サミット』が開催され、150を超える加盟国首脳の参加のもと、その成果文書として作成され採択されたのが『我々の世界を変革する：持続可能な開発のための2030アジェンダ。』で、2016年から2030年までの間において、全世界の地域や国の政府、自治体、企業、団体、個人などを対象とした共通の目標で、言わば「地球憲章」ともいえるものです」と説明しました。

そして、「具体的には『17の目標と169のターゲット』から構成されており、社会・経済・環境に関する目標がバランス良く配置されている」こと、その17の目標と169のターゲットのうち、約1/3を占める環境関連の項目について、具体的に示しました。

この目標及びターゲットを一読すれば「SDGsとは、国連で決議された遠いところの話ではなく、自分の働く企業や自分自身の行動目標にも取り込める項目が意外と多くて近く身近な存在」と気付く方が多いのではないでしょうか。

そこで今回は、さらに先進的な企業がSDGsを自社の経営方針に取入れ、企業活動の新しい軸足にしつつある現状を鑑み、なぜCSRではなくSDGsを企業経営の方針に取入れるのか、何が企業にとってメリットなのか等を解説するとともに、実際にSDGsを経営目標に取り入れ実践している企業の事例などを紹介してみたいと思います。

図1　SDGsロゴ（出典：外務省）

なぜ今、SDGsなのか？CSRとは何が違うのか？

かつて優良企業と呼ばれた企業は「納期、品質、コスト」を企業経営の最重要課題と位置づけ、財務体質を安定させてライバル企業と激しい戦いを繰り広げ、成長を遂げてきました。しかし、マスコミやインターネットなどの発達による情報化社会が形成されるにつれ、顧客や従業員だけでなく、株主、事業所周辺の住民、果ては原料調達先や外注先などサプライチェーン全てにおいて、「法に触れさえしなければ、何をしても良い」とはいえなくなり、「途上国において、未成年を安い労働力で長時間労働させてモノを作っている」、「故障しても『買い替えた方が安い』と修理したがらない」、「原料調達においてテロ支援国家から輸入している」、「鉱物原料の輸入国において鉱毒被害が拡大していることを知りながら、輸入を継続している」等々、世界的な優良企業であっても、このようなスキャンダルが発覚すると大きなダメージとなり、企業ブランドは低下し、不買運動などにも繋がりかねないリスクを負うことになります。

さらには、最近大手企業で頻発している品質偽装問題など、「トップが知らなった」などという言語道断の不祥事を起こした場合には企業の存続が一夜にして危うくなる状況にさえ陥ってしまいます。

このような情報化社会においては、機関投資家、金融機関、顧客などは企業に対する評価を従来の財務指標や納期・品質・コストだけではなく、環境問題に対する対応（E）、企業の社会的責任（S）、企業統治（G）についても評価を行うようになっており、これをESG評価と呼びます。このことは、2018年10月25日付けの本コラム「最近の経営のキーワード「ESG経営」「SDGs」とは～今、経営に求められている方向性～」で述べました。

これらの難しい状況において、企業側は「CSR経営」を軸足にして、サプライチェーンや競合企業からさえも後ろ指を指されないように、そして更なる企業イメージ向上を目指すための方向性を示してきました。

しかし、ここに来て多くの先進企業が「CSRはもう古い、これからはSDGsだ！」とばかりにSDGsに軸足を移しつつあります。

では、「なぜCSRではダメでSDGsなのか？」ですが、筆者の言葉で言い換えると「従来のCSR経営よりSDGsを基準に置いたCSR経営」と言った方がわかりやすいかと思います。即ち、従来のCSR経営とは、各々の企業が独自に「自社の常識」を基に設定した目標であり、自主基準のようなものといえます。しかし、「地球憲章」とも言われるSDGsには2030年までに目指すべきゴールが明確に示されており、しかも国連のお墨付きがありますので、「17の目標と169のターゲット」のうち、自社の経営目標や企業活動に取り込むことが可能な事項については積極的に取り込み、「いわば世界基準に準拠した目標設定を行い活動している企業である」という主張が出来ることになります。

さらには、自社の事業内容の延長線上にSDGsに寄与出来る技術や商品・サービスなどがあれば、それを提供することや、自社の事業の方向性とSDGsの整合性を主張することなどにより企業価値を上げる有効な手段と成りうるものといえます。

SDGsの企業活動への取り込み状況

企業経営に何らかの形でSDGsを関連付けている企業や団体（地方自治体、教育機関・学術団体、NPO・NGO、医療機関、その他団体）はここ1年ほどで急激に増加していると思われますが、SDGsとの関わりのレベルについては未だ大きな差異があるようで、NPOジャパン・フォー・サステナビリティの調査結果を載せた2017年3月ニュースレターによると以下6つのレベルに分類しています。

表1 企業のSDGsへの取組みレベル

レベル	取組みの状況
0	SDGsについて記載なし。
1	SDGsについて記載がある。（キーワードとして登場している）
2	SDGsが事業活動に関わりがあるものだと示している。
3	SDGsを重要項目として捉えている。（CSR戦略やマテリアリティの策定に使用している）
4	SDGsのテーマをピックアップし、具体的な取り組みを述べている。
5	SDGsに関する具体的な取り組みを述べるとともに、具体的な成果や目標値を記載している。

（出典：NPOジャパン・フォー・サステナビリィ：略称JFS）
注1）調査の詳細はわかりませんが、国内外の企業が公表している報告書やHPなどより判断したと推定。

図2　SDGsへの取組みグループ（出典：NPO_JFS）

SDGsを企業経営に取り入れるために

このような状況において、SDGsを正しく企業経営に取り入れるためにはどのようにすれば良いのでしょうか。

唯一良い方法が知られています。国際的に普及しており多くの企業で活用されているSDGsを取入れるためのバイブルとして「SDGs Compass」があり、日本語訳が2016年3月に公開されていますので、日本企業もこれを参考にSDGsへの取組みを始めているようです。

SDGs　CompassにはSDGsを企業活動に取り込む場合の道筋が示されていますので、是非ダウンロードして一読することをおすすめします。

概要は以下の通りです。

表2　SDGsを企業活動に取り込むためのステップ（レイアウト確認）

Step1	SDGsを理解する	・SDGsとは何か・企業がSDGsを利用する理論的根拠・企業の基本的責任
Step2	優先課題を決定する	・バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する・指標を選択し、データを収集する・優先課題を決定する
Step3	目標を設定する	・目標範囲を設定し、KPI （主要業績評価指標）を選択する・ベースラインを設定し、目標タイプを選択する・意欲度を設定する・SDGsへのコミットメントを公表する
Step4	経営へ統合する	・持続可能な目標を企業に定着させる・全ての部門に持続可能性を組み込む・パートナーシップに取り組む

（出典：SDGs Compass by Global Reporting Initiative）

「SDGsとは、何か。」「SDGs は、なぜ企業にとって重要か。」の初歩から経営に統合するまでの道筋が丁寧に解説されていますので、これからSDGsを経営に取り入れて行く場合には、重要な指針となると思われます。

企業が企業経営にSDGsを取入れている具体例

SDGsの精神を一早く理解し、自社（または他の団体）の活動や運営に深く関連付け「持続可能な開発」を目指している具体例を以下に示したいと思います。

外務省のWebページ“JAPAN SDGs Action Platform”上には、2019年1月末現在SDGsを企業経営に何らかの形で反映している企業119社が紹介されています。

外務省はその他にSDGsの達成に向けて、優れた取組を行う企業・団体等を表彰する「ジャパンSDGsアワード」を2107年に創設し、2018年末に247の企業・団体が参加して第2回が開催されました。この結果15団体（うち企業が９団体）が受賞し、各々

【SDGs推進本部長（内閣総理大臣）表彰】…1団体（うち企業1/1）
【SDGs推進副本部長（内閣官房長官）表彰】…3団体（うち企業0/3）
【SDGs推進副本部長（外務大臣）表彰】…3団体（うち企業2/3）
【特別賞「SDGsパートナーシップ賞」】…8団体（うち企業6/8）

が表彰を受けました。

当会会員企業では、(株)LIXILが、【SDGs推進副本部長（外務大臣）表彰】されました。

審査基準の項目は「SDGsのどの目標に対して貢献しようとしているのか？普遍性、包摂性、参画型、統合性、透明性と説明責任は？」などです。

具体的な優秀団体の活動状況は、上述した第2回ジャパンSDGsアワードの結果（外務省）に概要が示されていますので、こちらを参照して頂きたいと思いますが、最高賞の【SDGs推進本部長（内閣総理大臣）表彰】を受けた、(株)日本フードエコロジーセンターは、資本金1,000万円、従業員はパートを含めて30名の企業でした。

筆者は、先日(株)日本フードエコロジーセンターの工場を見学し、社長の髙橋巧一さん（獣医師）の話を聞く機会がありました。以下、社長の高橋さんのレクチャーの概要です。

「現在、地球上では食料不足による飢餓が多く発生していますが、日本においては『食品ロス』が社会問題になるほど、多くの余剰食品が排出され、焼却廃棄されています。この廃棄食品の償却費は4～5万円/トンで、年間約2兆円もの費用が掛かり、多くの税金が投入されています。反面、家畜は輸入飼料が高騰し畜産農家は疲弊状況にあります。このような状況において、廃棄される余剰食品（残飯とは言わず、『食品循環資源』と呼ぶ）を殺菌・発酵させて豚用の液体肥料化して、畜産農家に販売。さらには、畜産農家の豚肉を余剰食料排出元のスーパーやコンビニで販売することで、Win-Winの資源循環を回しています」ということで、この会社は事業自体がSDGsに多々関与していますが、派遣障害者の雇用などにも寄与しています。

写真は個人、固有名詞が特定されなければ一般公開可能との事ですので、以下何枚か掲載します（撮影：筆者）。

野菜くず

図2　スーパーマーケットからの野菜くず

春巻きの皮

図3　弁当工場からの春巻きの皮

米飯類

図4　コンビニ弁当工場からの米飯類

パンくず

図5　パン工場からのパンくず

その他の受賞企業には、(株)LIXIL、(株)ヤクルト本社、(株)フジテレビジョンの大企業も入っていますが、中古車販売会社、和菓子屋、印刷屋など資本金数千万円、従業員数十名規模の企業も名を連ねています。

このことからもわかるように、SDGsは決して大企業だけの取組みではなく、「地球憲章」として、「持続可能な開発」のために「自分たちに何ができるか？」を考え、できることから取り組むものであり、大企業よりも中小企業の方が取組みやすいといえます。

＜参考＞出典：外務省

第1回ジャパンSDGsアワード受賞結果	第2回ジャパンSDGsアワード受賞結果
【SDGs推進本部長（内閣総理大臣）表彰】
・北海道下川町	・株式会社日本フードエコロジーセンター
【SDGs推進副本部長（内閣官房長官）表彰】
・特定非営利活動法人しんせい・パルシステム生活協同組合連合会・金沢工業大学	・日本生活協同組合連合会・鹿児島県大崎町・一般社団法人ラ・バルカグループ
【SDGs推進副本部長（外務大臣）表彰】
・サラヤ株式会社・住友化学株式会社	・株式会社LIXIL ・特定非営利活動法人エイズ孤児支援（NGO・PLAS）・会宝産業株式会社
【特別賞「SDGsパートナーシップ賞」】
・吉本興業株式会社・株式会社伊藤園・江東区立八名川小学校・国立大学法人岡山大学・公益財団法人ジョイセフ・福岡県北九州市	【特別賞「SDGsパートナーシップ賞」】・株式会社虎屋本舗・株式会社大川印刷・SUNSHOW GROUP （三承工業株式会社・N.SUNSHOW株式会社）・株式会社滋賀銀行 • 山陽女子中学校・高等学校地歴部 • 株式会社ヤクルト本社 • 産科婦人科舘出張佐藤病院 • 株式会社フジテレビジョン

まとめ

（1）SDGs経営とはCSR経営を進化させた延長線上に位置づけられ、CSR経営とは別物ではありません。
（2）従来のCSR経営は自社独自の基準による自主的な目標設定により運営されてきたのに対して、SDGsを取り込んだCSR経営（SDGs経営）は世界共通の明確な基準と目標を最終ゴールとして運営されるもので、新しいCSR経営といえます。
（3）SDGs経営は決して大企業だけのものではなく、企業や団体の規模に関係なく取り組まれており、大企業よりもむしろ中小企業の方が取組み易いテーマともいえます。
（4）SDGsを企業経営に正しく取り組むには国連が関与したGRI発行の「SDGs Compass」の和訳版をガイドラインとして用いる事が推奨されています。
（5）SDGsを経営とリンクさせるには、ステップを踏んで一人一人がこの精神を理解して動くことが重要といえます。
（6）2017年より外務省主催のジャパンSDGsアワードが開催されています。当工業会会員の（株）LIXILさんが、第2回ジャパンSDGsアワードにおいて【SDGs推進副本部長（外務大臣）表彰】を受賞しました。
（7）これを機会に、まずは「SDGs Compass」をダウンロードしてみましょう。