ハザード比（HQ）とリスク比（RQ）とは

2018年8月27日

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～米環境保護庁が行う環境リスクとその評価方法～

はじめに

EUにおけるRoHS指令（電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についてのEUによる指令）やREACH規則（EUが制定した人の健康や環境の保護のために化学物質を管理する欧州議会及び欧州理事会規則）、我が国における化審法（化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律）や化管法（化学物質排出把握管理促進法）などに代表される有害化学物質の使用制限が、ますます厳しさを増しています。

このため、企業においては原料や副資材、購入部品などに含有される全ての化学物質について管理することが求められてきています。

一般に全ての化学物質は、程度の差はありますが、摂取・曝露量によって生体に対する有害な影響が出ると考えられています。例えば、一般には無害であり生物にとって欠かせない存在の水であっても摂取し過ぎると「水中毒」になりますし、酸素も高濃度酸素を吸入し続けると「酸素中毒」になります。

これら化学物質の有害性を「ハザード」、生体に影響を及ぼす程度を「リスク」と言います。我が国では、あまり知られていませんが、化学物質のリスク評価をする場合には非常に重要な概念であり、米国EPA（環境保護庁）などの規制当局によって化学物質のリスク・カテゴリーを記述するために使用されています。

本コラムでは、米国EPAが「ハザード」及び「リスク」の度合いを表すハザード比（HQ：Hazard Quotient）とリスク比（RQ：Risk Quotient ）の定義を要約するとともに、それらをどのように計算するかについて説明します。またその違いを比較してみたいと思います。

ハザードとリスクの関係

有害化学物質対する規制は、規制物質の追加、適用除外見直しなど常に流動性を有しているため、従来の化学物質固有の毒性（ハザード）ではなく、毒性と曝露量との積であるリスク（ハザード×曝露量）で管理して行くことが重要になってきていると言われています。

環境省の資料では以下のように記載されています。

・「ハザード」とは化学物質が有する固有の有害性を言う。有害性には人の健康影響と生態への環境影響がある。健康影響には急性毒性、慢性毒性、発がん性、生殖毒性などがある。

・「リスク」とは、化学物質による影響の重篤度と曝露量を掛けたもので、どの程度の有害性がどの程度発生するかを示す。重篤度としては、死亡を最も重大なものとし、死亡の確率を表すことが多い。化学物質の場合は、動物実験により曝露量と死亡率や影響の発現率の関係（用量－反応曲線）を調べ、不確実係数を用いて人の健康影響や生態影響を推算する。

リスク＝有害性（ハザード）×曝露量（摂取量）

ハザード比（HQ：Hazard Quotient）とは

ハザード比（HQ）は、物質への潜在的暴露と悪影響がないと予想されるレベルとの比を表します。これは主に、米国EPAが大気中の有害物質の健康リスクを評価するために使用しています。

ハザード比（HQ）が1以下の場合には、悪影響が発生する可能性が低いことを示し、危険性は無視できるとみなすことができます。

HQ（ハザード比）が、仮に１を超えた場合でも、統計的な確率からして「有害である」とは言い切れず、単に曝露濃度が基準濃度（RfC）を超えるか否かを示すものです。

ハザード比（HQ）に関するもう一つの非常に重要な概念は、ハザード指数（HI：Hazard Index）です。これは、同じ標的臓器または臓器系に影響を及ぼす物質に対するハザード比（HQ）の合計になります。ハザード比（HQ）の場合と同様に、標的となる臓器に特異的ハザード比（HQ）を用いて導出されたハザード指数（HI）が1.0以下の総暴露時間では、一生涯における暴露でも発がん性による健康影響をもたらさない可能性が高いと言えます。

では、ハザード比（HQ）はどのように計算されるのでしょう。

項目

説明

計算式

ハザード比（HQ）=暴露濃度÷基準濃度（RfC）

・暴露濃度：mg / Lまたはppm

・参照濃度（RfC）：生涯にわたり有害な影響を及ぼさない可能性が高いヒト集団（感受性サブグループを含む）への連続吸入ばく露の推定値。単位はmg / Lまたはppmです。

RfC = NOAEC ÷UF（不確定要素）

※基準投与量（RfD：reference dose）または基準濃度（RfC：reference concentration）を計算する方法詳細はこちらを参照してください。

※NOAEC：無毒性量（No Observed Adverse Effect. Concentration）

計算例

暴露濃度：0.005mg / L

参照濃度（RfC）：0.01mg / L（ラット亜慢性NOAEC = 1mg / L、UF = 1000）

この条件からハザード比（HQ）を計算すると、0.005÷0.01＝0.5でHQは1以下ですので危険は無視できるレベルと結論できます。

リスク比（RQ：Risk Quotient）とは

リスク比（RQ）は曝露時間推定値（a point estimate of exposure）と影響力推定値（a point estimate of effects）の比です。これは、主に農薬の生態リスクを評価するために、米国環境保護庁（EPA）によって使用されています。

リスク比（RQ）＝曝露量÷有毒性

上式において、曝露量とは推定環境濃度（EEC）を意味します。有毒性とは、LC50（Lethal Dose, 50%＝投与した動物の半数が死亡する用量）またはNOEC（無影響濃度：Non observed effect concentration）などの環境毒性試験から得られた影響レベルまたはエンドポイントを指します。

リスク比（RQ）は計算された後、米国環境保護庁（EPA）の懸念水準（LOC）と比較されます。 RQがLOCより小さい場合は、リスクが許容できると一般的にみなされます。

下の表は、水生生物種と米国環境保護庁（EPA）の懸念水準の異なる種類のリスク指数を組み立てる方法を示しています。

懸念水準（LOC）は、米国環境保護庁（EPA）がリスク比（RQ）を解釈し、非標的生物に対する潜在的なリスクと規制措置を検討する必要性を分析するために使用する政策的なツールです。

リスクの推定	リスク比（RQ）	懸念水準（LOC）
急性高リスク	推定環境濃度（EEC）÷（最低LC50またはEC50）	0.5
急性制限使用	推定環境濃度（EEC）÷（最低LC50またはEC50）	0.1
急性絶滅危惧種	推定環境濃度（EEC）÷（最低LC50またはEC50）	0.05
慢性的なリスク	推定環境濃度（EEC）÷（最低LC50またはEC50）	1.0

※EC50. 50%効果濃度（EC50）または半数効果濃度とは、薬物や抗体などが最低値からの最大反応の50%を示す濃度のこと。生態毒性試験とエンドポイント（LC50、EC50、NOEC）の詳細はこちら

リスク比（RQ）の計算の詳細は以下の通り。

まずリスク比（RQ）を計算するには、環境毒性試験から得られた推定環境濃度（EEC：estimated environmental concentration）と毒性エンドポイントの両方にアクセスする必要があります。推定環境濃度（EEC）は、通常、化学物質の使用シナリオ、物理化学的特性および環境的成り行きを考慮に入れたモデリングによって得ることができます。

リスク比（RQ）は、様々な摂取経路（すなわち、飲食、皮膚、呼吸など）および曝露期間（すなわち、急性または慢性）について計算することができます。リスク比（RQ）を計算するには、適切な生態毒性エンドポイントを選択する必要があります。

モデル化からEEC（= 5mg / L）を計算で得たと仮定して水生生物のリスク比（RQ）は以下のように計算することができます。

リスク

利用可能なエンドポイント

結論

慢性的なリスク

・NOEC（藻類成長阻害）：30mg /L

・NOEC（ミジンコ生殖）：10mg /L

・NOEC（魚）：20mg / L

EEC /最低NOEC = 0.5

RQ（0.5）<LOC（1）

慢性的なリスク懸念はない。

急性リスク

・ErC50（藻類増殖阻害）：50mg /L
・LC50（魚への急性毒性）：60mg /L

EEC /（最低EC50またはLC50）= 0.1

RQ（0.1）<LOC（0.5）

高い急性のリスク懸念はない

ハザード比（HQ）とリスク比率（RQ）の違い

項目	ハザード比（HQ）	リスク比（HQ）
評価対象	空気中に浮遊する物質または工業用化学物質	農薬
リスクアセスメントのタイプ	健康リスク評価	生態リスク評価
計算式	ハザード比（HQ）=暴露濃度÷基準濃度（RfC）	リスク比（RQ）=推定環境濃度（EEC）/生態毒性エンドポイント
リスクの説明	HQ> 1か<1かどうか	RQが> LOCか<LOCかどうか

まとめ

（1）生体にとって必要不可欠で無毒と思われている水でさえ、過剰に摂取すれば「水中毒」（低ナトリウム血症）と言う症状を引き起こし、重篤になれば死に至る場合もあると言われていますし、酸素でさえ高濃度分圧で吸引し続けると「酸素中毒」になってしまいます。この世の中に存在する物質は全てが化学物質で構成されておりますが、程度の差こそあれ、全ての化学物質には何らかの毒性があると言っても過言ではありません。

（2）現在世界的に有害化学物質規制の動きが加速していますが、これは微量で摂取すると生体に対して有害な作用をもたらす可能性がある物質の使用を制限するもので、多くの化学物質は人間にとって便利で有益な物質として使用されていますので、無闇に使用禁止にすると言うものではありません。

（3）有害化学物質を規制する動きをマクロ的に見ると、昔からの手法「ハザード管理」から「リスク管理」と言う考え方に変化してきていることがわかります。

ISO 31000 に「リスクとは目的に対する不確かさの影響」と定義され、化学物質管理において、

リスク＝ハザード（有害性）×曝露量</p

と表されます。別の言葉で表現すると、リスク＝結果の重大性×可能性（頻度）と言われ、化学物質によって図1に示すような固有の数値があると考えられますので、製品を設計する場合は含有する特定の化学物質に対してはその製品のライフサイクルにおける最大の曝露シナリオを想定することが重要と言えます。

（4）今回は、米国EPA（環境保護庁）などが用いている化学物質のリスク・カテゴリーを記述するために使用しているハザード比（HQ：Hazard Quotient）とリスク比（RQ：Risk Quotient ）とその計算方法について述べました。実際の計算を実用的に用いるのは難しいデータが必要ですが、考え方として参考にして頂けたらと思います。