「REACH規則に関する成形品中の物質に対する要件」の概要（後編）

2018年6月18日

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～ECHAがガイダンス簡易版Ver3.0を公表＃3～

はじめに

本コラム3月度の前編及び5月度の中編に引き続き、2018年1月26日付けでECHA（欧州化学品庁）が公表したREACH規則におけるガイダンス「成形品中の物質の要件」の簡易版（V3.0、2017年12月作成）について解説します。

主な用語

本コラムでは、REACH規則で用いられる用語を以下の和訳で使用します。
Registration＝登録、Evaluation＝評価、Authorization＝認可、Restriction＝制限、Substances of Very High Concern＝高懸念物質、Substance＝物質、Preparation＝調剤、Article＝成形品、Mixture＝混合物、Object＝対象物、Communication of information＝情報伝達、Notification＝届出、Recipients=受領者

注意

今回の本コラムの文章については、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、あくまでも原文を参考に自己責任にて判断願います。

本書の目的及び法的注意事項（ECHAより）

本書は、ユーザーがREACH規則に従う際の手助けとなることを目的に制作されています。しかし、法的基準となるのはREACH規則の条文のみであり、本書に含まれる情報は法的な助言を与えるものではありませんので注意をしてください。
①本書に含まれる情報は、ユーザー個々の責任のもと使用してください。
②ECHAは、本書に記載されている情報の使用に関して、一切の責任を負いません。
③ECHAは、詳細版REACHガイダンスを関係者により接しやすくするために、REACHガイダンス文書の「簡易版」を作成しています。
④簡易版ガイダンスの文書は短い要約であるため、詳細版ガイダンスに含まれる全てを含むことはできませんので、疑義が生じた場合は、詳細版ガイダンスを参照してください。

本文（後編）

5.4　届出義務が免除されるか否かの判断

成形品中の物質の届出には以下2つの特定の適用除外があります。
a）その物質の曝露が排除される場合
b）その物質の用途が既に登録されている場合
第7条（3）に従えば、「処分」を含む「通常または合理的に予見可能な使用条件において、製品の生産者または輸入者がヒトまたは環境への曝露を排除することができる場合」には届出は必要ありません。

注１）「通常の使用条件」および「合理的に予見可能な使用条件」という用語は、5.2項で説明しています。「曝露の排除」を証明したい生産者/輸入者は候補リストのSVHCがヒトや環境と接触しないようにする必要があります。
注2）ここでいう「処分」とは廃棄段階も含んでいます。従って、この段階は、物質のライフサイクルの一部として、曝露評価において「曝露の排除」を実証するために考慮する必要があります。

曝露の排除を評価する際には、全てのライフサイクル段階における全ての曝露経路（製品および廃棄段階の耐用年数）を考慮する必要があります。

第7条（6）に従えば、その物質の用途が既に登録されている場合、成形品中の物質の届出は必要ありません。

このことは、同じサプライチェーンまたは他のサプライチェーン内において、その物質の用途が登録されていることを意味し、届出の適用除外を受けるためには、登録者は必ずしも届出者と同じサプライチェーン内にある必要はないという意味です。

以下の2つの条件が満たされている場合、物質は特定の用途のために既に登録されているものとします。

その「物質」が既に登録されている物質と同じである。
「用途」が、その物質の登録に記載された用途と同じである。すなわち、登録は、その成形品の用途を指します。

その用途において既に登録されている物質の適用除外がなされるかどうかを確認する目的で、2つの用途の同一性について結論を出すためには、ECHAのポータルサイトにあるその物質に関する情報それ自体では十分ではありません。

物質登録の準備や届出を行うよりも、曝露の排除を評価し証明することやその物質がその用途ですでに登録されているかを調べることの方が難しく、より多くの情報を求められる場合があることに注意が必要です。適用除外の正当性は文書によって証明し、執行機関の要求に応じて提示できるようにする必要があります。

成形品中の物質の届出義務に対する適用除外のさらなる留意事項は詳細版ガイダンスの3.3項に記載されています。
筆者注）上記説明はややわかりにくい表現ですので、適用除外について詳しく知りたい場合は詳細版ガイダンスの3.3項を参照してください。

6.　成形品中の物質に関する情報伝達の義務を遵守する方法

EU域内の成形品の生産者と輸入者及びサプライチェーンにおける全ての関係者は、サプライチェーンに候補リスト物質（0.１重量％以上）の存在を伝達することが求められます。その伝達されるべき情報は、上市された成形品を安全に使用するのに十分なものでなければなりません。サプライチェーンの生産/販売の関係者がこの情報を入手するのは当然ですが、消費者もこの情報を要求しなければなりません。もしも成形品中に候補リスト物質が含有しない場合であっても、消費者の要求する回答は常に提供できるように準備することを推奨します。成形品の安全な使用を許容するために収集と伝達する必要な情報を特定する場合、成形品の供給者は成形品のライフサイクルにおける全ての使用を考慮する必要があります。例えば、

この成形品の更なる工業的及び専門的な加工や組立
成形品を（再）包装または在庫
成形品の取り付けや保守を含む工業的、専門的及び消費者の最終使用

さらには、供給者は成形品のリサイクルと廃棄、および特に消費者による予見可能な物品の誤用を考慮する必要があります。

サプライチェーンの最上流に位置する成形品の生産者または輸入者は、そのサプライチェーンの下流における成形品を含む合理的で予見可能なステップと活動を考慮する必要があります。

さらに、関係者はサプライチェーンの下流に向かって、成形品が次のユーザーによってどのように使用されるかをより正確に把握し、利用可能な追加情報を特定し、顧客の活動に関連させる必要性があります。

候補リスト物質の存在及び安産な使用についての情報を受取った全てのサプライチェーン関係者は、サプライチェーンの次の関係者または要求に応じて消費者に対して、上市されている成形品の予想される使用及び使用条件を考慮して関連情報を渡す必要があります。

複雑な対象物の場合、REACH規則第33条による伝達要求は、複雑な対象物の各々の成形品に含まれる候補リスト物質（0.１重量％以上）に適用されます（詳細版ガイダンスの実施例12参照）。

REACH規則では、成形品中の物質に関する情報提供のための特定もフォーマットを指定していません。情報の提供者は、情報の内容とそれを受取る人（例えば、産業または専門的な顧客、消費者）に応じて、情報提供に最も適切な形式を選ぶ必要があります。

標準的な回答書は消費者に情報提供するのに適した媒体ですが、専門家や産業上の顧客にはそれぞれ別々の使用説明書によって、より良い情報を与えることが出来ます。

いくつかの可能なフォーマットの中には、サプライチェーン全体及び消費者に対する情報提供を促進するために利用可能なITシステムやツールもあります。

7. 詳細版ガイダンスの参照先

この簡易版ガイダンスでは成形品中の物質に関するREACH規則での可能性のある義務を特定するために、必要な意思決定支援を提供する必要があります。

しかし、物質に関する要件が適用されるか否かを判断するためには、成形品中の物質の要件に関する詳細版ガイダンスを参照することをお勧めします。

詳細版ガイダンス文書は、本簡易版ガイダンスによって導入された概念と原則、および例をより詳細に説明しています。

成形品を生産、輸入または上市している企業は、成形品中の物質が義務の主体になるか否かを確認するために必要な情報を常に社内に持っている訳ではありません。

成形品中の物質の同定と、その量の定量化することは、多くの場合に、それぞれの情報がサプライチェーンの関係者によって利用可能になった場合にのみ可能です。

従って、サプライチェーンにおけるコミュニケーションは、REACH規則の下での義務を特定し、遵守するために必要な情報を収集する最も重要かつ効率的な方法です。
（個々における）化学分析は、特定の状況（例えば、コンプライアンスのために必要な情報を入手し確認すること）においては有用ですが、曖昧な結果をもたらす可能性もあり、かつ/または非常に高価ですので情報を得るための好ましい手段としては推奨されません。

成形品中の物質の要件に関する詳細版ガイドの5項は、成形品の生産者、輸入者、および他の供給者に対して、成形品中の物質に対する義務を遵守するために必要な情報を入手し、評価するための職務遂行に関する一般的なアドバイスを提供するものです。

このことは、サプライチェーンを通じて情報が供給者に利用可能になっていない場合には特に重要です。詳細版ガイダンスの付録5は、複合対象物の一般的なアドバイスを補完するものです。
※本簡易版ガイダンスは以上です

まとめ

本簡易版ガイダンスの使い方としては、「本書を読み、よく理解できない部分を詳細版ガイダンスで確認する」といった目次的な使用方法が良いかと思われます。

特に複数の成形品より組立てられている複合成形品において、候補リスト物質をどのように扱うのか、どのような場合に適用除外になるのか、など微妙なケースでは詳細版ガイダンスを利用するのがよいと思います。

最後に、成形品中の物質については、個々の関係者が化学分析を行うのではなく、サプライチェーンの最上流の生産者や輸入者が正確な情報を確実に川下へ流して行くことが重要であることが改めて認識されたかと思います。

引用・参考資料

Guidance on requirements for substances　in articles　（ECHA、2017/6/28）
Guidance in a nutshell Requirements for substances in articles　（ECHA、2018/1/26）
Guidance in a Nutshell　（ECHA）
Guidance on substances in articles updated　（ECHA）
Guidance on REACH　（ECHA）
Identify your obligations　（ECHA）
REACH規則に関する成形品中の物質に対する要件」の概要（前編）　（日本バルブ工業会）
REACH規則に関する成形品中の物質に対する要件」の概要（中編）　（日本バルブ工業会）

注意

無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。
本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。
英文による引用・参考資料部分においては、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。