2030年温室効果ガス排出量26％削減への道　#12

～「カーボンプライシング」の在り方とは～

2018年4月23日

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はじめに

環境省は、2018年3月15日付けで「『カーボンプライシングのあり方に関する検討会』の取りまとめについて」と題する報道発表を行いました。

環境省によると「環境省では、平成29年6月に『カーボンプライシングのあり方に関する検討会』（座長：神野直彦　日本社会事業大学学長・東京大学名誉教授）を設置し、有識者、経済界等からの意見も聴取しつつ、長期大幅削減と経済・社会的課題の同時解決に資するような我が国のカーボンプライシングの活用のあり方について、大局的な見地から論点を整理し、様々な方向性について検討いただいてまいりました。これまでの御議論を踏まえ、今般、検討会における検討結果が取りまとめられましたので、公表いたします」と述べています。

カーボンプライシングとは、直訳すると「炭素の価格付け」となり、具体的には炭素税や排出権取引などを意味しますが、今回環境省が発表した資料に基づき、その内容の概要をお伝えしたいと思います

カーボンプライシングとは

カーボンプライシングとは、地球温暖化の要因とされる二酸化炭素などの温室効果ガス排出量に対して課金するシステムであり、具体的には排出量に応じて課税する炭素税や排出権取引などがあります。この制度を導入することによって、排出量が多ければ費用負担が増大するため、企業や家庭で温室効果ガス排出を抑制する動きにつながると考えられています。

この制度はパリ協定推進の有力な方法として欧州などで先行して導入されており、我国でも環境省が2017年6月に設置した「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」において有識者や経済界等から意見を聞き、温室効果ガスの長期大幅削減と経済的・社会的課題を同時に解決することを目的として検討が続けられてきました。

その結果、大局的な見地から方向性が定まったとして、我国におけるカーボンプライシングの在り方が今回公表されたようです。

世界の気候変動問題対応と我国の現状

気候変動問題の現状と世界の動き

我国の経済・社会的課題

■「気候変動問題への対応はビジネスリスクであると共にビジネスチャンスでもある」という事を企業や投資家が認識。

■米国のパリ協定離脱宣言後も世界の脱炭素化の流れは不変。

■1人当たりの温室効果ガス排出量推移は欧州先進国では減少傾向だが我国は横ばい。

■少子高齢化による人口減少でも継続的な経済成長を図るため生産性向上等が必須。

■気候変動対応でも高い付加価値を生むビジネスモデルへの変革とイノベーションが必要。

気候変動問題への対応と経済・社会的課題を同時に解決するために

■温室効果ガスの排出量を長期に渡り大幅に削減するためのイノベーションは革新的な財・サービスを生み出すチャンスであり、また社会全体の変革にも及ぶ。既に世界の企業や投資家は動きだしている。

■我国においても、気候変動対策を通じて投資機会の創出や高付加価値ビジネスモデル変革を促し、気候変動対策を持続的な経済成長のドライバーとして活用するべき。

気候変動問題に対する我国の方向性

■パリ協定の目標である「２℃以内の気温上昇に留める」の実現に向けて、具体的な目標である温室効果ガス排出量削減「2050年80%削減」は現状施策の延長線上での実現は不可能に近い。

■世界のビジネス界は脱炭素社会をビジネスチャンスと捉えて舵を切っており、我国もこの潮流に乗り遅れないようにする必要がある。しかし、我国では気候変動対応と経済・社会問題の同時解決を考えることが重要。

■社会の隅々で経済社会システムと技術イノベーションを起こし、脱炭素社会構築に向けた円滑な移行を行う為の手段として「カーボンプライシング」が有効。

⇒温室効果ガス排出コストや対策の費用対効果を「見える化」し、長期大幅削減を費用効率的に達成することが可能となる。

⇒温室効果ガス削減に向けた「共通の方向性」を企業や投資家に示すことが出来る。脱炭素社会に向けた市場の活性化の推進力となり、経済・社会的問題との同時解決にもつながる。

我が国のカーボンプライシングを巡る状況
■我国の「地球温暖化対策のための税」の税率は289円/ｔCO2であり、諸外国と比べて低い。 ■OECDによる実効炭素価格（炭素税、排出量取引、エネルギー課税の合計）は特にEU諸国と比較して低い水準。図１　主要国の実効炭素価格<合計>（出典：環境省/OECD2016Effective Carbon Rates）
明示的カーボンプライシングと暗示的炭素価格
明示的カーボンプライシング	炭素税、排出量取引制度など、排出される炭素に対し、トン当たりの価格をつける。温室効果ガスの対策費用が「見える化」される。削減に向けた「共通の方向性」を企業や投資家に示すこともできる。
暗示的カーボンプライシング	エネルギー課税やエネルギー消費量に関する基準などは、間接的に炭素排出にコストを課すが、対策の費用対効果は明らかにされない。また、排出削減以外の目的で導入されている等の理由で炭素比例にならない。このため、効率的な削減を促すことはできない。
（参考）エネルギー本体価格	需要家が直面する全体の価格の一部ではあるが、温室効果ガス排出に係る社会的費用は反映されておらず、エネルギーの需要と供給のバランスで決定されるため、「炭素価格」の要素はない。

図2　カーボンプライシングの見える化イメージ（出典：環境省）

世界のカーボンプライシングの導入状況、効果

■中国・韓国を含む世界42の国・25の地方政府が導入又は導入を検討するなど、世界中に拡大。
■カーボンプライシングの導入が排出削減に寄与するという経済理論を確認する実証研究も進みつつある。
■導入国・地域において、排出を削減しつつ経済成長する（デカップリング）事例が観察される。

炭素税導入によるミクロ的な効果例

カナダのブリティッシュ・コロンビア州で2008年に炭素税を導入した結果一人当りの燃料消費量が、導入後他州よりも減少したがGDPは他州と同等に推移。

炭素税導入によるマクロ的効果例

炭素生産性（＝付加価値額÷エネルギー起源二酸化炭素排出量（t-CO2））の推移をフィンランド、スウェーデン、ノルウエー、デンマーク、ドイツ、イギリス、スイスなど我国より高い実効炭素価格を持つ国と我国を比較した場合、炭素税を導入した時点では我国と同等または低い状態で有ったが2015年時点で全ての国が我国より高い炭素生産性を有する様に変化。

図4　BC州とカナダ他州における燃料消費量/人の推移（出典：環境省）

図5　炭素税導入時期と炭素生産性（出典：環境省）

我国のカーボンプライシングの在り方

＜基本的な考え方＞

■価格シグナルを通じてあらゆる主体の創意工夫を促し、長期大幅削減に向けたイノベーションを喚起
■我が国の経済・社会的課題との同時解決に貢献。投資機会を創出し経済成長へ。収入も活用。
■他の施策とのポリシーミックス（先進技術補助金や脱炭素社会に向けたインフラ整備等と連携）

＜考慮すべき事項とその対応策＞

■企業のコスト負担の増加に対する懸念を踏まえ、経済への負の負担をできるだけ緩和しつつ、将来的な脱炭素社会への円滑な移行を促す仕組みとする必要。
■国際競争力への影響や炭素リーケージの問題（エネルギー効率の高い日本製品の供給量が減少し、世界全体の排出削減につながらないとの懸念）について、制度設計で対応する必要。
■逆進性への対応は、カーボンプライシング以外も含めた政策全体で議論。
■長期大幅削減につながる十分な価格水準、段階的な上昇が必要。

※検討会では、化石燃料（石炭、LNG等）間の価格差を埋めるような水準、再エネの普及につながる水準、排出削減目標達成に必要な水準等が提案された。

手法と対象

＊検討に当たっては、長い時間軸の中で何から手を打ち、最終的にどのような形態にすべきか、という議論も必要。

手法	対象と理念
◆炭素税	社会の隅々に対して、行動変容を促す安定した価格シグナルを付与。
◆排出量取引＋炭素税	多量排出事業者に対して、確実な排出削減を求める。小規模な排出主体に対しては炭素税により、行動変容を促す。
◆直接規制上記カーボンプライシング手法の代替手法としても併用手法としても検討可	長期大幅削減の達成に向けて、部門ごとに強い強制力をもって確実な削減を目指す。

カーボンプライシング収入の活用方法

諸外国の事例も参考にしつつ、我が国の気候変動対策や経済・社会的課題の同時解決、そして脱炭素社会への円滑な移行に資する収入の活用方法について、今後、さらに検討を深めていく必要がある。

まとめ

■パリ協定の目標である「2050年までに温室効果ガス排出量を80％削減し、世界の平均気温上昇を2℃以下に抑える」を達成するには、現状の施策の延長線上では無理がある。
■欧州や先進国では温室効果ガス排出量は減少傾向にあるが、我国は横ばい。
■温室効果ガス排出量削減により社会的・経済的に負担を与えず、むしろビジネスチャンスへと転換することが重要。
■温室効果ガス排出量削減には幾つかの手法が考えられる。直接的な方法は法的な強い強制力で確実に削減を測る手法であるが、企業や家庭において「排出量の見える化」を行い、各自の自主的な工夫に任せる「カーボンプライシング」が有効な手法と考えられ、先進国では既に導入されている。
■具体的には温室効果ガス排出量に対して課金する炭素税や排出量取引制度の導入などがある。
■欧州の炭素税導入例を見ると炭素生産性（＝付加価値額÷エネルギー起源二酸化炭素排出量（t-CO2））は着実に向上しており、また一人当たりGDPも成長しており、カーボンプライシングの効果は実証されつつある。
■導入に当たっては脱炭素社会への円滑な移行の為の種々の条件や環境作りと導入時期、その他を更に検討する必要がある。
■カーボンプライシングは万能ではなく一長一短があるのも事実です。例えば国際的な価格差が生じるため、他国より高めに設定すれば国内企業の海外移転など空洞化のリスクが生じる一方、他国より安めであれば、排出量削減の活動が停滞または他国の排出権買い取りなど効果が上がらない可能性もあり、安易に進められないと言う事実もあります。しかし、どのような形になるかわかりませんが、今後炭素税、排出量取引の導入は避けられない状況にあると予想されますので、出来るだけ早い備えが必要と思われます。

引用・参考資料

カーボンプライシングのあり方に関する検討会　取りまとめ概要　(環境省)
「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」取りまとめ　(環境省)
カーボンプライシングのあり方に関する検討会　(環境省)
「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」の取りまとめについて　(環境省)
カーボンプライシング（炭素価格付け）とは？　(国際環境経済研究所)
カーボンプライシングについて　(環境省、2017年1月13日)
資源生産性革新計画　（経済産業省）
カーボンプライシングとその動向　（Bright Innovation Co.,Ltd.、2016年9月7日）

注意

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