ECHAがPFAS規制の制限案（第14版）を発表

～ECHAの委員会による最終意見の基盤が確定～

2025年9月18日

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1.　はじめに

ECHA（欧州化学品庁）は2025年8月20日付で「広範囲なPFAS規制に関する提案」を見直した第14版のパーおよびポリフルオロアルキル物質（PFAS）に関する制限提案を発表しましたので、その概要をお伝えします。

特に、バルブ産業にとって関心の深いフッ素樹脂（フルオロポリマー）に関する部分については、詳細にお伝えしたいと思います。ただし、以下の情報は、デンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの当局が2023年1月に提出したPFASの広範な規制提案を、パブリックコメントや公聴会の情報などから修正した提案書であり、規制を決定する最終的な文書ではありませんので、注意願います。

2.　提案の背景

2023年1月にデンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの規制当局が共同で、フルオロポリマーを含む約10,000種類のPFAS類を対象とした広範な制限提案を提出しました。

この提案に対して、世界の50ヶ国から5,642件という過去に類を見ないほどの多くのパブリックコメントが寄せられました。

提案国は、これらを基に2023年3月から9月まで6か月間に渡り、複数回の公聴会を実施しました。その結果、当初予想していたよりも遥かに多くの用途があることが判明したため、それらを考慮して当初のPFAS規制案を修正して、今回の第14版規制案に至り、これを公表しました。

主な改訂ポイントとしては、PFAS規制により代替品が入手不可能となった場合の各産業における経済損失やコストへの影響が考慮され、8つの新たな評価対象分野が追加されたことがあげられます。

3.　全体概要：第14版PFAS制限提案のポイント

当初の提案の目的と背景

(1) 約10,000種以上のPFASを対象に、製造・使用・販売の原則禁止を提案。
(2) 規制の目的は、環境残留性・人体影響・代替困難性を踏まえた予防的措置。
(3) 制限案は、REACH規則第68条に基づくもので、加盟国・産業界・市民団体からの意見を反映。

第14版における主な変更点

(1) 用途別適用除外の明確化
医療機器、半導体、航空宇宙、バルブ、シール材などに関する除外条件を精緻化。
(2) フルオロポリマーの分類見直し
一部の高分子PFAS（PTFEなど）について、「低懸念PFAS」としての扱いを検討。
(3) 猶予期間の延長提案
最大12年の移行期間を用途別に設定。

4.　第14版で追加された8つの産業分野

(1) 印刷用途
インク、トナー、印刷基材へのPFAS使用（特に耐水性・耐摩耗性目的）
(2) シーリング用途
ガスケット、パッキン、Oリング、バルブシールなどの密封部材（フルオロポリマーが多用）
(3) 機械用途
潤滑剤、軸受け、摺動部材などの機械部品（耐摩耗性・耐熱性が求められる）
(4) 医薬品の即時包装および賦形剤などのその他の医療用途
錠剤コーティング、注射器部材、医療用フィルムなど
(5) 軍事用途
防衛装備、特殊コーティング、電子機器の保護材など（極限環境対応）
(6) 爆発物関連用途
火薬、起爆装置、推進剤などに含まれるPFAS（安定性と制御性が重要）
(7) 機能性繊維
防炎・防水・耐薬品性を持つ繊維（消防服、産業用ユニフォームなど）
(8) 溶剤・触媒などの広範な産業用途
化学合成、精製工程、表面処理などで使用されるPFAS系溶媒・触媒

5.　フルオロポリマーに関する記述（抜粋と解説）

(1) 定義と分類
PTFE、PVDF、PFA、ETFE、FKMなどの高分子フルオロポリマーは、PFASの定義に含まれる。
※ただし、環境中での分解性が極めて低い一方で、生体蓄積性や毒性が低いとされ、「低懸念PFAS」として別枠で評価。　

(2) 除外の検討対象
以下の用途では、無期限除外または長期猶予の対象として記載

バルブ・ガスケット・パッキン・シール材（特に化学プラント・水処理・半導体製造）
医療機器（カテーテル、人工血管など）
航空宇宙・原子力分野（極限環境での使用）

(3) 技術的根拠

代替素材（PEEK、PAEK、シリコーンなど）では、耐薬品性・耐熱性・耐圧性が不十分。
ルオロポリマーは、漏洩防止・長寿命・安全性確保に不可欠と明記。

6.　バルブ・シーリング部材・パッキン・ガスケット類の記述（詳細）

記述箇所の要点（第14版より）
「Section 7.3.2.4」および「Annex D-3」にて、バルブ・ガスケット・シール材用途の詳細評価が記載。
主なポイント

化学薬品・高温・高圧環境下での使用が多く、産業安全・環境保護の観点から代替困難。
EU加盟国の産業団体から、「代替不可」、「社会的必要性が高い」との意見が多数提出。
一部用途では、最大12年の猶予期間が提案されている。

表1　バルブのシール材に関する用途分野別の適用除外（案）（出典：ECHA）

用途	適用除外提案	備考
化学プラントのバルブ・ガスケット	無期限除外	代替不可、漏洩リスク高
半導体製造のシール材	12年猶予	高純度薬品の取り扱いに不可欠
飲料水処理のパッキン	5年猶予	公衆衛生上の必要性あり

7.　フルオロポリマーのシーリング用途での主な適用除外

フルオロポリマーのシーリング用途での主な適用除外（案）は表2のとおりです。

表2　フルオロポリマーのシーリング用途での主な適用除外（案）（出典：ECHA）

用途カテゴリ	適用除外内容	除外期間・条件
高温・高圧環境でのガスケット・Oリング	PTFEやFEPなどのフルオロポリマー製シール部材	最大12年の猶予、または無期限除外（用途による）
腐食性薬品を扱う化学プラントのシール部材	耐薬品性が不可欠なフルオロポリマー製品	無期限除外が検討対象
医療機器・製薬設備の密封部材	滅菌性・耐薬品性が求められる部材	5〜12年の猶予付き除外
航空宇宙・防衛用途のシール部材	極限環境での信頼性が必要	無期限除外の候補

これらは、ECHAのRAC（リスク評価委員会）およびSEAC（社会経済分析委員会）での議論を経て、フルオロポリマーの代替が技術的・経済的に困難であると判断されたケースです。

<参考>
以下はECHAが8月22日に発表した改訂版制限案で、フルオロポリマー関連の適用除外件数が従来の6件から25件に拡大されたとされる具体的な25の用途・製品カテゴリです。

これらはすべて「高分子量を有し、抽出可能フッ素含有物が極めて低い」フルオロポリマー製品として、最終物質（最終製品段階）の使用面での環境放出リスクがほぼ皆無と評価されたものです。

(1) 電線・ケーブル向け絶縁被覆材
(2) 半導体製造装置用プロセスチューブ
(3) 化学プラント配管の内面ライニング
(4) バルブ・ポンプ用シート／シール／Oリング
(5) ガスケットおよびパッキン
(6) ダイアフラム（隔膜）
(7) スライディングベアリング・ブッシュ
(8) ロータリシール（シャフトシール）
(9) 膜分離フィルターモジュール
(10) ポンプ部品（インペラー、ケーシング内面コーティングなど）
(11) 医療機器用カテーテル・ステント部材
(12) 呼吸器・人工肺用ダイアフラム／シール
(13) 医薬品製造装置部品（連続流反応器ライニングなど）
(14) 食品包装フィルム・シート
(15) 太陽電池封止材（ポッティング／エンキャプスレーション）
(16) 航空宇宙向け高耐熱シール／シート
(17) 自動車用燃料ホース・ブレーキホース
(18) 防食・耐薬品性ウェアライニング（リアクタ容器内面など）
(19) ヒートエクスチェンジャー用ガスケット
(20) 圧縮ガス制御バルブ用シール部材
(21) HVAC機器向けダクトシールストリップ
(22) 建築用フッ素樹脂フィルム（外装・内装材）
(23) 化学分析装置用シール・ライニング
(24) 放射線治療装置・核医学機器部品
(25) 電力設備向け絶縁・耐フラッシュオーバー部品

以上の25用途は、すべて最終製品としての使用段階においてフルオロポリマーの特性（高耐熱・耐薬品性・低摩擦性・耐久性）を技術的に“不可欠”と判断し、かつ代替困難であることから、例外として長期的な使用継続が認められるものです。

8.　「全体がフルオロポリマーで構成されるバルブ」に関する記載

特にバルブ本体・シール・ライニングすべてがフルオロポリマーで構成される製品については、以下のような議論がなされています。

消費者向け・産業向けのバルブ用途において、PTFEやPFAなどのフルオロポリマーが使用されるケースが多く、腐食性流体・高温・高圧環境での信頼性確保に不可欠とされています。
規制提案当初は除外対象ではなかったが、2024年11月のRAC会議で「代替困難性が高く、社会的必要性がある」として、無期限除外の検討対象に追加されました。
特に化学プラント・半導体製造・医薬品製造ラインなどで使用される「フルフルオロポリマー構成バルブ」は、漏洩リスク低減と安全性確保のために不可欠と評価されています。

9.　今後事業者がなすべきこと

非PFAS代替材料の性能評価結果を文書化し、当局へ提出すること。※用途別に「代替不可性」、「社会的便益」、「リスク管理可能性」が証明されれば適用除外を認める方句にある。
シール部材としての機能を維持する上で必要最小限のPFAS使用に留めること。
製品寿命終了時の回収・リサイクルまたは適正処理の仕組みを整備すること。
例外申請時には、代替技術の検討状況や社会経済的影響の資料を添付すること。
ECHAの最終決定スケジュールを注視。
米EPAのTRI報告義務や米国市場動向を確認。
日本国内の飲料水基準・化審法改正に備え、代替材料や排出削減策の検討を早めに開始といった対応。

10.　まとめ

ECHAは2025年8月20日付で、2023年1月に提出された「広範囲なPFAS規制に関する提案」を見直して第14版のパーおよびポリフルオロアルキル物質（PFAS）に関する制限提案を発表した。
2023年1月にデンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの規制当局が共同でフッ素樹脂を含むPFASの広範な制限提案を提出したが、その後予想を超える多くのパブリックコメントが寄せられ、これらを基に2023年3月から9月まで6か月間において公聴会を開催した結果、提案国当局者が当初予想していた用途をはるかに上回る、特にフルオロポリマーの用途が判明した。
このような状況において、種々検討を行った結果、フルオロポリマー自体は安定で毒性も認められていないため、他のPFASとは別枠で評価するべきとする意見もあったが、フルオロポリマーの製造段階及び燃焼廃棄段階において、有害なPFASの発生、生成が認められたため、原則としては使用制限する方向で進んでいる。
しかしながら、代替品がないことによる経済的な損失が予想以上に大きな用途・分野もあることがわかったため、特定の用途に関しては無期限の適用除外または猶予期間の延長を認め、製造・廃棄段階の管理を十分に行うこととする。
改訂提案の具体例は表１、表2に記載した。
現在もRAC（リスク評価委員会）およびSEAC（社会経済評価委員会）による審議中で、最終意見は2025年末～2026年初頭、正式な制限措置は2026～2027年の実施を見込む。
ECHAは用途別に「代替不可性」、「社会的便益」、「リスク管理可能性」が証明できれば、適用除外を認める方向にあるので、適宜「情報提供」、「適用除外申請」を行う必要があると思える。

引用・参考資料

Committee for Risk Assessment (RAC) Committee for Socio-economic Analysis (SEAC)　 -Background Document-　（ECHA、2025-08-20）
【ニュース】ECHA、PFAS規制案を改訂・EU REACHの下で規制強化へ　（Different GER、2025-08-22）
EU及び米国におけるPFAS規制情報　欧州ECHAと米国EPAからの最新情報～　（日本バルブ工業会、2025-01-21）
白書PFAS とは何か、また何故シール装置に不可欠なのか?　（Chesterton）

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