WMOが報告書「アジアの気候状況2024年」を公表

～2024年のアジアは記録的な高温や異常気象が深刻～

2025年8月7日

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1.　はじめに

2025年6月23日付で世界気象機関（WMO）は「Rising temperatures and extreme weather hit Asia hard（気温上昇と異常気象がアジアを直撃）」と題する報告書を公表しました。

これによると、アジア地域の温暖化ペースは世界平均の約2倍であり、異常気象が激化し、経済や生態系、社会に深刻な影響が及んでいる、と警鐘を鳴らしています。

この原因は、アジアという地域が北極まで広がる最大の陸地を持つ大陸であり、陸上の気温上昇が海洋の気温上昇よりも大きいため、地球平均の2倍以上の速さで温暖化が進んでいるとし、アジア地域の気候変動の深刻さを浮き彫りにしています。

2.　WMO報告書の主なメッセージ

（1）アジアは世界平均の2倍の速さで温暖化している

2024年は、アジアの平均気温は1991年〜2020年の平均より約1.04℃高く、観測史上最も暑い年の一つとされました。世界平均の2倍の速さで進む温暖化は異常気象がさらに増加し、同地域の経済、生態系、社会に大きな打撃を与えています。

2024年、アジアでは多くの地域で猛暑が観測され、4月から11月にかけて、特に東アジアは長期にわたる熱波に見舞われ、月平均気温の記録が次々と更新されました。

＜日本、韓国、中国で月平均気温が最高を記録した月＞

日本（4月、7月、10月）
韓国（4月、6月、8月、9月）
中国（4月、5月、8月、9月、11月）

図1　1900～2024年までのアジアの年間陸地気温（出典：WMO）

（2）2024年に海面水温が過去最高に

アジア周辺の海域では、過去数十年にわたり海面水温の上昇が見られ、特にアラビア海北部と太平洋でその速度が急速で、海面温度が過去最高を記録。特に北インド洋や日本近海では、強烈な海洋熱波が発生し、海洋生態系に深刻な影響を与えています。
平均海面水温は10年あたり0.24℃の上昇率で、これは世界平均の10年あたり0.13℃の2倍に相当します。

（3）海洋熱波は記録上最悪

2024年には、アジアの海域のほとんどが、強い、深刻な、または極度の強さの海洋熱波の影響を受けました。これは、1993年に記録が始まって以来、最大の範囲です。インド洋北部、日本に隣接する海域では、黄海と東シナ海が特に影響を受けました。

（4）氷河の融解が加速

チベット高原を中心とする「第三極」では、24の氷河のうち23の質量が減少し、洪水や地滑りのリスクが増加。長期的には水資源の安全保障にも影響が出ると警告されています。
中央ヒマラヤ山脈と天山山脈の大部分における冬の降雪量の減少と夏の猛暑は、ほとんどの氷河の質量減少を加速させました。

（5）洪水と干ばつは命と生活を破壊した

今年最強の台風である熱帯低気圧「ヤギ」は、ベトナム、フィリピン、ラオス、タイ、ミャンマー、中国で広範囲にわたる被害と死傷者を出しました。
中央アジア（主にカザフスタンとロシア南部）では、深刻な雪解けと記録破りの降雨により、少なくとも70年で最悪の洪水が発生し、11万8千人が避難を余儀なくされました。


図2　洪水と干ばつが偏在（生成AIによるイメージです。実際の画像ではありません）

西アジアも豪雨に見舞われ、アラブ首長国連邦では24時間で259.5ミリの雨が降り、1949年に記録が始まって以来、最も激しい降雨現象の一つとなりました。
ミャンマーでは48.2℃の新記録を観測しました。
インド・ケララ州では48時間で、降水量は500mmの豪雨による地滑りで350人以上が死亡しました。
ネパールでは9月の豪雨で246人が死亡、被害額は約94億円と推定されます。
対照的に中国では干ばつにより約480万人が影響を受け、335,200ヘクタールの農作物に損害を与え、農作物被害は推定で400億円以上。

（6）早期警告と行動が命を救う

ネパールの事例では、早期警報システムと事前対応により13万人以上が支援を受け、被害の軽減に成功しました。

3.　今後アジアで予測される気候変動の影響

今後アジアで予測される気候変動の影響は、社会・経済・生態系にわたって広範かつ深刻です。以下は、WMOやIPCC（国連の気象変動に関する政府間パネル）などの報告に基づく主な予測です。

（1）海面上昇と沿岸リスク

太平洋・インド洋側の海面上昇率は世界平均を上回る（WMO）
沿岸都市（特に南・東南アジア）では洪水や高潮の頻度と被害額が増加（IPCC）
サンゴ礁やマングローブの消失により、生態系と漁業が脅かされる（IPCC）

（2）極端な気温と熱波

アジアは世界平均の約2倍の速さで温暖化しており、熱波の頻度と強度が増加（WMO）
都市部ではヒートアイランド現象が悪化し、特に貧困層が健康リスクにさらされる（IPCC）

（3）氷河融解と水資源の不安定化

ヒマラヤやチベット高原の氷河は加速度的に質量を失っており、水資源の供給に影響（IPCC）
氷河湖決壊洪水（GLOF）のリスクが高まり、下流地域の安全保障に脅威（IPCC）

（4）農業と食料安全保障への影響

干ばつや豪雨の増加により、作物収量の減少（例：インドの米は最大30%減）（IPCC）
害虫の分布拡大（例：ジャンボタニシ）により、主要な稲作国が脅威に直面（IPCC）

（5）都市インフラと経済への打撃

洪水・台風・熱波によるインフラ損傷が増加し、経済損失が拡大（IPCC）
エネルギー需要の急増（冷房・水供給）により、電力供給の安定性が課題になる（IPCC）

（6）早期警戒と対応策の重要性

ネパールなどでは早期警報と事前対応により被害軽減に成功（WMO）
WMOは「科学は希望であり、行動の原動力」と強調（Climate Impacts Tracker Asia）

4.　アジアの中で特に気候変動の影響を受け易いと想定される地域

以下の地域は、地理的条件・人口密度・経済構造・インフラの脆弱性などが複合的に絡み合い、気候変動の影響を受けやすくなっています。

（1）ヒマラヤ・チベット高原（高山アジア）

世界最大級の氷河地帯であり、氷河融解が加速
洪水・地滑り・水資源の不安定化が深刻
ネパール・ブータン・北インド・西中国などが影響を受けやすい

（2）南アジア（インド・バングラデシュ・パキスタン）

熱波・洪水・干ばつ・海面上昇の複合リスク
バングラデシュは世界で最も海面上昇に脆弱な国の一つ
パキスタンでは2022年の洪水で国土の1/3が浸水

（3）東南アジア（ベトナム・ミャンマー・フィリピン・インドネシア）

台風・豪雨・海面上昇・マングローブ消失などの影響
メコン川流域では水資源と漁業への打撃が深刻
フィリピンは世界最大級の台風被災国

（4）都市部・沿岸部（東京・ムンバイ・ジャカルタなど）

ヒートアイランド現象・高潮・インフラ損傷のリスク
ジャカルタは沈下と海面上昇の影響で首都移転を決定
東京や上海などのメガシティは経済損失リスクが高い

（5）中央アジア（ウズベキスタン・カザフスタン・トルクメニスタン）

干ばつ・水不足・砂嵐が増加傾向
アラル海の縮小により地域生態系が崩壊

5.　WMO報告書2023年版と2024年版の違い

WMOの2023年版報告書と2024年版報告書の内容をまとめてみました。
2024年版は「記録的な温暖化」「海洋熱波の拡大」「災害の激甚化」「対応策の進展」という点で、2023年版よりもさらに深刻かつ具体的な内容になっています。

	2023年	2024年
気温と温暖化傾向の違い	アジアの平均気温は1991–2020年平均より高く、特に日本や東南アジアで熱波が顕著	アジア全体の平均気温は1.04°C上昇し、史上最も暑い年または2番目に暑い年と記録。温暖化の速度は世界平均の2倍
海洋の変化	海面温度の上昇が報告され、漁業や海洋生態系への影響が懸念	海洋熱波の範囲と強度が過去最大。アジアの海域の大部分が「強度・極端」レベルの熱波に覆われ、記録開始以来最大の影響範囲（約1500万km²）
氷河と水資源	ヒマラヤや天山山脈の氷河後退が進行	24の氷河のうち23の氷河の質量が減少。特に中央ヒマラヤと天山で過去最大の融解量を記録し、水資源の安全保障に深刻な影響。
極端気象と災害	台風モカやドクスリなどによる甚大な被害	熱波：インドで45℃〜50℃の猛暑、450人以上が死亡。雷：インドで1300人以上が落雷で死亡、1日で72人が亡くなる事例も。洪水・干ばつ：中央アジアや中国四川省で70年ぶりの洪水や数百万人の干ばつ被害
政策と対応の進展	早期警報システムの整備状況が課題として指摘	ネパールの事例など、早期警報と予防的支援の成功例が紹介され、「すべての人に早期警報を」イニシアティブの成果が強調。

6.　まとめ

（1）2025年6月23日付で世界気象機関（WMO）が「Rising temperatures and extreme weather hit Asia hard（気温上昇と異常気象がアジアを直撃）」と題する報告書を公表した。
（2）この報告書によると、アジア地域の温暖化ペースは世界平均の約2倍であり、異常気象が激化し経済や生態系、社会に深刻な影響が及んでいる、と警鐘を鳴らしている。
（3）この原因はアジアという地域の特異性によるもの。北極まで広がる最大の陸地をもつ大陸であり、陸上の気温上昇が海洋の気温上昇よりも大きいため、地球平均の2倍以上の速さで温暖化が進んでおり、異常気象が多発し、今後もこの傾向は強まると警告している。

引用・参考資料

Rising temperatures and extreme weather hit Asia hard　（WMO、2025年6月23日）
State of the Climate in Asia 2023　（WMO、2023年4月23日）
IPCC第六次報告書（第10章アジア）　（IPCC）
Asia’s Economies, Ecosystems, Societies Hit Hard By Climate Change in 2024, WMO Says　（Earth.org）
How Is Climate Change Affecting Asia: WMO’s State of Climate Change 2024 Report　（Climate Impacts Tracker Asia）

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