米国カリフォルニア州で飲料水等に関する規制を改定

～Propsition65の重要な改定～

2025年8月7日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

2025年1月1日付で米国カリフォルニア州政府は“Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986”（1986年安全飲料水および有害物質執行法）に関して重要な改定があったと発表しました。

“Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986”は、通称Propsition65と呼ばれており、日本でもよく知られた法律で、ご存じの方も多いと思われます。また、水栓や水道関連の継手を米国に輸出されている会員企業はすでに影響を受けているかと思われます。

Proposition65はカリフォルニア州法ですが、米国でも先端を行くカリフォルニア州における有害物質の制限法です。他の州に与える影響が大きいとされていますので、今回は当工業会に影響のありそうな改定のポイントについてお知らせしたいと思います。

今回注目されたのは、「Short Form（短縮版）」の警告表示の要件強化です。

2.　Proposition65とは

Propisition65（正式名称：1986年安全飲料水および有害物質施行法）は、1986年11月に住民投票により成立しました。この法律は、州の飲料水源が、がん、先天性欠損症、その他の生殖への悪影響を引き起こすことが知られている化学物質による汚染から保護されるよう定めており、企業に対しては、カリフォルニア州民にそのような化学物質への曝露について通知することが義務付けられています。

Proposition65 では、州が法律の要件の対象となる化学物質のリストを維持し、更新することを義務付けています。

Proposition65についてご質問がある場合は、提案65に関する警告のウェブサイトをご覧ください。

3.　2025年の主な改定ポイント（2025年1月1日発効）

Proposition65の2025年改定の主なポイントをまとめてみました。

表1　Proposition65の2025年改定の主なポイント

項目	改定内容
Short Form警告の要件強化	短縮版の警告表示でも少なくとも1つの化学物質名の明記が必須に。従来は“WARNING: Cancer – www.P65Warnings. Ca. gov” など簡易な表記で済んでいましたが、今後は “WARNING: Cancer risk from exposure to ［化学物質名］” のように具体的な物質名を含める必要があります。
適用猶予期間	既存製品の在庫については2028年1月1日までの移行期間が設けられます。
対象製品の拡大と判例の追加	2024年から2025年にかけて「雨具、バッグ、食品（ドライマンゴー、クッキーなど）に関する新たな判例が追加され、PFOAや鉛、アクリルアミドなど物質に対する警告表示が義務化されました。
オンライン販売への対応の強化	ECサイトやカタログ販売でも、購入前に警告表示が確認できるようにする義務が明確化されました。

※Proposition65は、発がん性や生殖毒性のある化学物質に関するばく露のリスクを消費者に警告することを目的とした州法です。
※規制対象物質は1000種類以上あり、毎年更新されています　→　プロポジション65のリスト
※OEHHA（カリフォルニア州環境保健有害性評価局）がリストや警告要件を管理しています。

4.　水栓・バルブ・継手に関する主な制限内容

Proposition65は、タイトルの通り飲料水に関する安全に関する法律であるため、配管機材や水道機材にも明確な影響を及ぼしています。これらの製品に含まれる鉛（Lead）やニッケル（Nickel）などの有害化学物質が、警告表示の対象となることが多いです。

＜よく問題となる製品例＞
（1）真鍮製の水栓やバルブ（鉛含有の可能性）
（2）クロムメッキされた継手（六価クロムのリスク）
（3）ゴム製パッキンやシール材（可塑剤やニトロソアミン類）
＜対応策の一例＞
（1）鉛フリー合金の使用（例：低鉛真鍮）
（2）セーフハーバーレベル以下であることの証明（ばく露評価）
（3）Short Form警告の適切な表示（2025年改定により物質名の明記が必要）

項目	内容
対象物質	鉛、ニッケル、六価クロム、PFOAなど
ばく露評価基準	セーフハ-バーレベル（NSRL/MADL）を超える場合、警告表示が義務
飲料水接触製品	NSF/ANSI61などの飲料水安全基準との整合性が求められる
警告表示の形式	2025年以降、Short Formでも化学物質名の明記が必須

セーフハーバーレベルとは、Proposition65で、特定のリスク（がんや先天性欠損症など）を引き起こす可能性が低いとされる化学物質の曝露レベルのことです。

NSRL（No Significant Risk Level）：発がん性物質に関するセーフハーバーレベルで、70年間このレベルで曝露した場合、発がんリスクが10万分の1以下となるレベルを指します。

MADL（Maximum Allowable Dose Level）：生殖毒性物質に関するセーフハーバーレベルで、人の生殖機能に影響が出ないレベルの1000分の1とされるレベルを指します。
製品に含まれる化学物質の量ではなく、人への曝露量を規制するProposition65において、このレベルを下回れば、警告表示などの義務が免除される場合があります。

5.　関連する判例・和解事例（抜粋）

近年の事例をまとめてみました。

裁判年	製品	問題となった物質	結果・対応
2018年	真鍮製水栓	鉛	鉛のばく露量がNSRL（0.5μｇ/日）を超えたとして訴訟。警告表示と罰金支払いで和解。
2020年	クロムメッキ継手	六価クロム	表面処理からのばく露が問題視され、警告表示義務と製品改良を条件に和解。
2022年	真鍮製バルブ	鉛	GhostWipe試験（製品表面をふき取り、鉛などの表面残留物を測定する方法でProp65訴訟ではよく使われる試験法）で1μg超の鉛が検出され、100ppm以下への削減と警告文表示が義務付けられた。

6.　実務上の対応策

次のような対応策が求められます。
（1）鉛フリー合金（例：低鉛真鍮、C69300など）への切り替え
（2）ばく露評価レポートの作成と保管
（3）警告文の更新（例：WARNING :This product can be expose you to lead, which is known to the State of California to cause cancer and girth defects.）
（4）類似製品の判例調査によるリスク評価

7.　水道機材に対する警告文例

カリフォルニア州環境保護局のChemical Exposure Warnings (Proposition 65 Warnings)［化学物質への曝露に関する警告（提案65の警告）］より抜粋します。
（1）鉛などに対する発がん性物質
WARNING: This product can expose you to chemicals including lead, which is known to the State of California to cause cancer. For more information go to www.P65Warnings.ca.gov.
（2）生殖毒性
WARNING: This product can expose you to chemicals including lead, which is known to the State of California to cause birth defects or other reproductive harm. For more information go to www.P65Warnings.ca.gov
（3）発がん性と生殖毒性
WARNING: This product can expose you to chemicals including lead, which is known to the State of California to cause cancer and birth defects or other reproductive harm. For more information go to www.P65Warnings.ca.gov.

8.　表示のポイント

表示場所：製品本体、パッケージ、またはオンライン商品ページ
表示タイミング：購入前に確認できるようにする必要あり（ECサイトを含む）
対象製品例：真鍮製の水栓、クロムメッキ継手、ゴム製パッキンなど

注意書き

マーク

図1　警告文例と警告シンボル（出典：カリフォルニア州環境保護局）

9.　まとめ

（1）2025年1月1日付で、米国カリフォルニア州政府は「1986年安全飲料水および有害物質執行法（通称Propsition65）」の重要な改定を行ったと発表した。
（2）カリフォルニア州は環境や有害化学物質規制に関して先進的な州であるため、州法であっても他の州に与える影響は大きいと言われている。
（3）Propsition65（またはProp65）は、正式名称が示すように飲料水の安全を担保することを目的としている。飲料水や水道水に接触する可能性のある継手やバルブ及び水栓に関係する重要な法律の一つである。
（4）今回の改定のポイントは、有害化学物質の名称も記載することが義務付けられたこと。有害物質としてPropsition65のリストに収載された約1000の物質を規制値以上に含有または溶出する場合は、従来から、がん、先天性欠損症、その他の生殖毒性などのリスクを製品、パッケージなどに警告文として表示する必要があったが、改定により有害化学物質の名称も記載することが義務付けられた。
（5）バルブ、継手、水栓などに関しては、鉛、ニッケル、六価クロム、PFOA、ゴム類の可塑剤やニトロソアミン類などに関して注意が必要。
（6）製品在庫を考慮し、2028年1月1日まで猶予される。

引用・参考資料

プロポジション65　（カリフォルニア州環境保護局）
Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986 (proposition65)　（カリフォルニア州行政法局）
Sample Warnings and Compliance Assistance（警告例とコンプライアンス支援）　（カリフォルニア州環境保護局）
Sample Warnings and Translations For Businesses（企業向け警告書と翻訳例）　（カリフォルニア州環境保護局）
Warning Symbol (proposition65)　（カリフォルニア州行政法局）
カリフォルニア州プロポジション65（Prop 65）における警告表示要件の改定について（2025年1月1日発効）　（UL Solution Japan）
Chemical Exposure Warnings (Proposition 65 Warnings)　（カリフォルニア州環境保護局）
プロポジション65のリスト　（カリフォルニア州環境保護局）

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