2030年温室効果ガス排出量26％削減への道　#5

～再生可能エネルギー有効利用のための新しいエネルギー蓄積技術～

2017年6月23日

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はじめに

2017年5月11日付け朝日新聞朝刊27ページに「再生エネ電気ためる新技術、圧縮空気や液体で進む研究」と題する記ことが掲載されました。

温室効果ガスの排出量削減のために、太陽光、風力、地熱あるいは波力などを利用した再生可能エネルギーの開発が世界各国で進んでいますが、これらのエネルギーは季節、天候、時間などの自然現象に頼るため、従来の化石燃料や原子力による発電と異なり、需要に合わせて供給量を人為的にコントロールすることが極めて難しいという難点を抱えています。このため、発電量の多い時に、電気を貯め、少ない時にこれを取り出して使えるように、エネルギーロスの少ない蓄電またはエネルギー蓄積技術の開発が重要な課題としてあげられます。

従来の一般的な方法としては、まずは第一に蓄電池に貯める方法があり、種々の安価で大容量かつエネルギーロスの少ない蓄電地の開発が進められてはいます。しかし、発電所規模の大容量電力を蓄えるには、コストや容量などの点において限界があります。そこで、種々の大規模なエネルギー蓄積技術が模索されています。前月（2017年5月）にも書きましたが、生成した電力で水を分解し、水素として蓄え、必要時に燃料電池により再び電気として取り出す方法も、一つの有力な方法として検討が進められています。今回、本コラムにおいては、上述の朝日新聞が報道した圧縮空気や液体を利用したエネルギー蓄積技術も含めた現状の開発状況について紹介したいと思います。

図1　2013年度「我国の発電電力量の構成」（出典：電気事業連合会/資源エネルギー庁）

畜電池の目指す方向性

電気エネルギーの蓄積方法として最もポピュラーな方法は蓄電池によるものと思われますが、蓄電池（注1）には、電力の受給バランスを取るための電力系統用の他にも、従来からの自動車用、防災用、家庭用などがあって総合的にみると大きな市場があり、成長産業と見られています。一方で蓄電池の用途が多様化しているため、経済産業省としても、省内各部局とメーカーが、エネルギー政策、情報政策、ものづくり産業政策などが連携して戦略的に開発を進める必要性を認め、2012年１月に「蓄電池戦略プロジェクトチーム」を発足させ、７月に概略をまとめ公表しました。

（注1）蓄電地は充電により繰り返し使うことが出来る電池で二次電池または充電式電池とも呼ばれます。これに対して一度放電してしまうと充電して繰り返し使うことが出来ない通常の電池を一次電池と言います。

その、「蓄電池戦略プロジェクトチーム」の報告の中では、今後の再生可能エネルギーとの関わりについて「東日本大震災を受け、エネルギー政策の方向性として、クリーンエネルギーへの重点シフトが打ち出された。すなわち、原発依存度を低減し、化石燃料依存度を下げるべく、省エネルギーを進めるとともに、再生可能エネルギーや蓄電システム等にエネルギー構造の重点を大きくシフトしていく。その際、エネルギー需給においても、需要家自らが重要な役割を担うこととなる。すなわち、国民一人一人がエネルギーの需要家であると同時に、エネルギーの生産者として再生可能エネルギーや蓄電システムを駆使することで、従来の『集権型エネルギー』から『分散型エネルギーシステム』に転換にして行く」とし、再生可能エネルギーの受給バランスを蓄電池で行う方向性も述べられています。しかしながら、蓄電池においてはその蓄積容量の問題から、従来の大規模な発電所から分散型の電力システムへの転換が必要とし、例えば、風力発電装置1基に1台の蓄電池を備えることを想定した実証実験を行っていることも報告されています。しかし、やはりコスト問題において、他のエネルギー蓄積方法に劣るため、電気自動車などを動く蓄電池として活用する方法などを併せて検討して行くようです。

図2　太陽光発電設備の認定量と運転開始量推移（出典：資源エネルギー庁）

図3　風力発電の導入量推移（出典：NEDO風力発電設備実績/資源エネルギー庁）

電気二重層キャパシタ

蓄電地と似て非なるものに、電気二重層キャパシタがあります。蓄電地は電気が化学反応を経て蓄積される方法であるのに対して、電気二重層キャパシタは化学反応なしに“電気のまま”貯蔵する方法と言えます。化学反応を経ず電荷の吸着・脱離によって充電・放電を行うため、充放電時間が短いことと、利用の繰り返しによる劣化が少なく、重金属などを使用することもないため、環境に対する安全性が高いことが特徴ですが、現状では、蓄積容量が小さいことが短所です。

種々の新しいエネルギー蓄積方法

エネルギーの蓄積を述べる前にエネルギーの形態を理解する必要があります。エネルギーの形態としては以下のようなものがあります。

電磁気エネルギー
- 電荷・電流・電磁波などがもつエネルギー。一般に「電気」や「磁気」と呼ばれるものです。

化学エネルギー
- 化学結合によって物質内に蓄えられるエネルギー。酸素と反応し熱エネルギーを出す化石燃料、蓄電池など。

光エネルギー
- 太陽光など。光は波長によりエネルギーが決まります。

熱エネルギー
- 太陽熱、地熱、蒸気、湯など。物体のもつ内部エネルギーあるいはエンタルピー、あるいは物体に出入りする熱など。

力学的エネルギー
- 運動エネルギーと位置エネルギーの和で、
  - 位置エネルギー：高い位置にある物質が、重力によって落下して発生するエネルギー。
  - 運動エネルギー：モノが運動しているときのエネルギー。
- 位置エネルギーは、モノが高い位置から落下すると、運動エネルギーに変換されますが、その位置エネルギーと運動エネルギーの総和は常に一定です。ダムなど。

核エネルギー
- 原子核の変換や核反応に伴って放出される多量のエネルギーのこと。

その他
- これらのエネルギーは、核エネルギーを除き、互いに変換することが理論的には可能です。

図4　各種エネルギーの相互変換イメージ

本コラムでは、主に風力発電や波力発電（力学的エネルギーから得た電気エネルギー）や太陽光発電（光エネルギーから得た電気エネルギー）、地熱発電（熱エネルギーから得た電気エネルギー）などの再生可能エネルギーから得た電気エネルギーを、他のエネルギーに変換して蓄積する方法について述べます。

（1）揚水による蓄積（力学的エネルギー）

水力発電は、貯水池に貯まった水の位置エネルギーや流れのエネルギー（力学的エネルギー）を利用して発電機を作用させ電気エネルギーを得る方法ですが、深夜などに余剰電力を利用し、下部調整池の水を揚水ポンプを用いて貯水池に揚水し、必要時に備え力学的エネルギーとして蓄える方法です。100年ほど前より実用化されています。蓄積容量が大きいことと変換効率も70％程度と高いことが長所です。

（2）圧縮空気として蓄積（空気電池）

余剰電気で空気を圧縮してタンクや地下の坑道などにため込んだ後、必要な時に空気を取り出してタービンを回して発電する空気電池と呼ばれる方法は「圧縮空気エネルギー貯蔵」（CAES）と呼ばれ20年ほど前から研究されています。

長所は、廃坑道や地下空間などをタンクとして利用するなど設備費を安価に抑えられる可能性があります。空気を圧縮する課程で発熱ロスがあり、現状では変換効率が50％と低効率ですが、空気の圧縮時に発生する200℃にも達すると言われる廃熱を利用することによって、将来は変換効率を70％程度まで高められる可能性があります。我国では神戸製鋼所とNEDOが、外国でも英国やドイツなどで研究開発を行っています。

（3）フライホイールによる蓄積（力学的エネルギー）

余剰電力を使いモータでフライホイールを回転させて運動エネルギーとして蓄積し、フライホイールで発電機を回して電気を得るもので、これまでもエネルギー蓄積や系統安定化、無停電電源装置（UPS）などで実現事例があります。エネルギー蓄積量としてはあまり大きくありませんが、電力容量が大きく、比較的短時間の蓄積に向いています。

（4）超電導電力貯蔵（SMES：Superconducting Magnetic Energy Storage）

超電導電力貯蔵（SMES）は、電気抵抗がゼロという特性を持つ超電導コイルを利用し、電磁エネルギーに変換してエネルギーを貯蔵・放出します。エネルギー効率が高く、外部との電気的接続もシンプルなため大出力を短時間に放出できます。ただし、現状では蓄積容量は小規模です。

まとめ

2017年6月1日に米国のトランプ大統領がパリ協定の離脱を表明し、さらには、パリ協定の親条約である気候変動枠組み条約からの脱退まで視野に入れていると言われ、世界に大きな衝撃を与えました。

しかし、米国国内における動きを見ると、2017年6月6日付け朝日新聞デジタルでは「米国の9州や125都市などが共同で6月5日、連邦政府に代わって米国の温室効果ガス削減の責任を果たすとする声明を国連に提出した。加えて、902の企業・投資家、183の大学が署名。企業では、アップル、グーグル、ナイキなどが名を連ねた。」と報じ、またトランプ大統領が保護しようとしているピッツバーグなどの石炭火力発電ですが、電力会社は今後、コストの問題から天然ガスや再生可能エネルギーにシフトして行くことを表明しており、連邦政府に代わり、各州や市政府、民間企業などが連邦政府に代わって独自の動きを加速して行くものと思われます。

世界第2位の米国がパリ協定を離脱するということは確かに衝撃ではありますが、地球温暖化防止及び循環型社会の構築という世界の潮流は今後も止まることはなく、中国及びEU諸国を中心とし加速されて行くことは間違いないと思われます。

資源の枯渇問題は廃棄物の再資源化を突き詰めることによって、解決しうるともの思われますが、一度使ってしまえばやがては枯渇してしまう化石エネルギー問題は、早期に再生可能エネルギーへの転換を急ぐとともに、再生可能エネルギーの最大の問題点とも言われる「自然現象に依存する発電量」と「需要量」のアンバランスを解決するためのエネルギー蓄積技術の開発は重要な意味があると言えます。

現状においては、未だ蓄積容量、コスト、エネルギー損失（変換効率）など一長一短があり万能な方法は開発されていませんが、電力の系統問題を含めて最適を求めて行くことが、再生可能エネルギーへのシフトを考える上で重要な課題だと言えます。

引用・参考資料

再生エネ　電気ためる新技術　（朝日新聞、2017年5月11日朝刊13版27ページ）
再生可能エネルギーの利用拡大に向けたエネルギー蓄積技術の動向　（NTTファシリティーズ総研）
IRENAによる再生可能エネルギー蓄電の概要　（Institute for Sustainable Energy Policies）
蓄電池戦略　（経済産業蓄電池戦略プロジェクトチーム2012年7月）
［空圧電池］　空気で電気蓄える技術　再生エネ普及を後押し　（ネオマグ(株)/日本経済新聞電子版2015年11月30日配信）
再生可能エネルギー各電源の導入動向について　（資源エネルギー庁、2015年3月）
電力貯蔵技術　（国立研究開発法人国立環境研究所）
圧縮空気エネルギー貯蔵（CAES）システムの実証試験を開始　（NEDO 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、2017年4月20日）
パリ協定「政権抜きで果たす」　米国の企業や大学で動き　（朝日新聞デジタル、2017年6月6日）
2030年温室効果ガス排出量26％削減への道　#4　経済産業省「CO2フリー水素ワーキンググループ報告書」を公表　（日本バルブ工業会2017年5月22日）

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