マイクロプラスチックが人体に与える悪影響

～マイクロプラスチックからナノプラスチックへ～

2025年3月10日

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1.　はじめに

海洋に流出した廃棄プラスチックの量は年間800万トンとも言われ、その増加による汚染が世界的に深刻な問題になってきています。そこで、2022年に国連環境総会決議で採択されたプラスチック汚染に関する条約の策定については、2024年末までに作業を完了することを目指すとして5回の国際会議が開催され、各国の代表者による議論が行われました。しかしながら、現在まで国際条約にするための議論は残念ながら煮詰まっていません。

これらのプラスチック海洋ゴミを海洋生物が餌と間違えて飲みこんだり、身体に巻き付いたりするなどの問題が起こっています。さらには、紫外線や波などにより粉砕され、マイクロプラスチック（一般的に5mm以下の大きさのプラスチック片を言いますが、さらに微細化され目では見えないほどの大きさのナノプラスチックと呼ばれるものもあります）を魚介類が意図せず摂取し、これを食物連鎖の頂点に位置する人類が間接的に摂取すると言われています。

最近の研究によれば、例えば富士山の山頂で採取した空気からマイクロプラスチック（以下「MP」）が検出されるなど、広範囲にMPが拡散していることがわかってきました。

これらのMPが人間の体内に入った場合の悪影響については、未だはっきりしたことはわかっていませんが、最も新しい研究では、血管内に侵入したMPが原因で脳梗塞や心筋梗塞を引き起こしたり、認知症になった患者の脳内からMPが発見されたとする論文が科学雑誌に発表されました。
今回は、最近わかってきたMP汚染に関する情報について記したいと思います。

（図1、図2とも筆者がImageFXにより作成した画像。実際の風景ではありません）
※ImageFXはGoogleが提供する画像生成AIツールです。

2.　マイクロプラスチック（MP）とは

MPとは、一般的には大きさが5mm以下の微細なプラスチック粒子を指しますが、一部の海洋学者や環境の専門家の間では、1mm以下の顕微鏡サイズ、あるいは海洋での微細物質採取用ネットの目開きである0.333mmを意識する場合もあります。さらに微細な数10μm〜数μm、ナノサイズまであるとも言われており「ナノプラスチック」と呼ばれています。プラスチック製品が紫外線や波、風雨などの影響で劣化・破砕され、小片化して生成されます。

MPには、次のような種類があります。

（1）一次MP：生産段階で5mm以下の大きさのプラスチック。洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤、研磨剤などに使用されているマイクロビーズなどが該当します。
（2）二次MP：外的要因によって5mm以下になったプラスチック。ペットボトルや発泡スチロールなどの大きなプラスチック製品が紫外線や風雨、波などにより劣化・破砕されて生成されます。

MPは、海洋、土壌、大気などさまざまな環境中に存在し、海洋プラスチック汚染の大きな原因の一つとされています。海洋生物や人体に与える影響が懸念され始めており、解決に向けた取り組みが早急に必要と思われます。

※マイクロプラスチックのうち、ナノサイズの粒子はナノプラスチックとも呼ばれています。
（図3、図4とも筆者がImageFXにより作成した画像。実際の写真ではありません）

3.　マイクロプラスチック（MP）が人体に与える影響

MPが人体に与える影響は、まだ完全には解明されていませんが、消化器系や内分泌系、免疫系に悪影響を与える可能性があります。
MPが人体に与える影響の例としては、次のようなものが報告されています。

腸内毒素の影響：MPは重金属や農薬などの有害化学物質を吸着し、消化管に入るとこれらの物質を放出します。これにより、腸壁にダメージを与え、炎症を引き起こします。
内分泌系や免疫系の乱れ：MPが体内で蓄積されると、消化器官や血液中に入り込み、内分泌系や免疫系の乱れを招きます。
肺への影響：肺に関する研究では、MPが肺炎症、めまい、頭痛、喘息、癌などの症状を引き起こす可能性があることが示唆されています。
心臓発作や脳卒中のリスク：MPが血管内にたまることで、心臓発作や脳卒中、死亡のリスクが高まる可能性があります。

MPは食品や水、空気を通じて人体に摂取される可能性があり、体内で蓄積されるとさまざまな健康問題を引き起こす恐れがあります。

4.　マイクロプラスチック（MP）が有害物質を吸着

元々多くのプラスチックは油剤や脂溶性物質を吸収・吸着する性質を持っています。これが微細化することによって表面積が大きくなりますので、MPはそれ自身の物理的な有害性に加えて、多くの有害化学物質を吸収・吸着している可能性があります。

これらの有害化学物質は生体内に入り込んだ場合、消化管内で放出されると言われています。

5.　最近の研究により、MPが血管内に侵入することがわかってきました

最近の研究により、MPがどのような経路で血管内に侵入したかは未だわかっていませんが、血管内や臓器内に侵入したMPによって重大な疾患が起こったとする研究結果が報告されました。

心臓発作や脳卒中が関連

2024年4月16日付けナショナルジオグラフィックは、「マイクロプラスチックは環境の至る所にあって、私たちの体内にも入り込んでいる」として、医学誌「The New England Journal of Medicine」を引用する形で、「新たな研究により、血管内にたまった微小なプラスチック粒子と、心臓発作（心筋梗塞）、脳卒中、死亡のリスクの高さが初めて関連づけられた」とする記事を掲載しました。

これによると、「血中の脂質などが血管壁に付着して、血管壁が厚くなることによる動脈硬化が原因で起こる心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、狭心症、閉塞性動脈硬化症」と同様に、何らかの原因で血管に侵入したMPを免疫細胞が排除しようとしますが、MPは血管外に排除できないため、血栓として血管壁に付着し動脈硬化と同じ現象を引き起こしたり、血栓として流出して心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす可能性があり、実際に血栓からMPが発見されたとのことです。

ヒトの脳内にMPが蓄積し認知症に関与か？

ニューメキシコ大学健（UNM）康科学部の研究者たちは、2025年2月3日付で同大学の公式ウェブサイトに「UNMの研究者らが、ヒトの脳内に驚くほど高濃度のマイクロプラスチックが存在することを発見－しかもその濃度は時間とともに増加し8年間で50%も増加している」とする論文を掲載しました。

この論文では、次のようなことが述べられています。

「2024年12月、ニューメキシコ大学の神経病理学者エレイン・ベアラー医学博士が、死亡した2人の認知症患者の脳組織サンプルを綿密に調べていたところ、奇妙なことに気づいた。UNM病理学教室の特別教授であり、UNMアルツハイマー病研究センター（ADRC）の神経病理学コアのディレクターであるベアラ氏は、“顕微鏡で見ると、何だかわからないものが見えるんです。奇妙な茶色い塊のようなものです”。

この異物を電子顕微鏡や焼却したガスを分析するなどの手法で解析した結果、これらがナノメータースケールのマイクロプラスチックであることが判明した。

今まで肝臓、腎臓、肺などから検出されたMPよりも脳内で発見されたMPの量は数倍もあることがわかったが、これらのMPがどこから来たのか、認知症の原因に関与しているかは未だ解明されていない。」

6.　EUの海洋戦略枠組み指令

EUでは、他の地域や国に先駆けて海洋ごみの問題を重視して、海洋戦略枠組み指令の1項目に海洋ごみ削減政策を盛り込みました。その結果、「2015年から2021年に掛けて海岸に漂着する海洋ゴミがほぼ3分の1に減少した」として、人間の努力により、海洋プラスチックごみを減量することが可能であることが証明できたとしています。

7.　まとめ

OECDによると、世界中で1年間に廃棄されるプラスチック類は、2019年では3億5300万トンで、うち800万トンが海洋に流出している。
海洋に流出したプラスチックは海上で浮遊し、一部は海岸に漂着するが、海洋生物が誤飲したり、身体に巻き付いたりして、海洋生物に悪影響を与えることが問題となっている。
いずれの場合にも、海洋に流出したプラスチックごみは、長い年月を経て紫外線、波、風など自然の力によって砕かれ、やがて5mm以下のマイクロプラスチック（MP）となり、さらには目視できないほどの大きさにまで粉砕され続け、数μm、nmサイズまで微細化し、40-200nmのモノをナノプラスチックと呼ぶ。
これらのMPの一部は空中に舞い上がり、富士山の山頂で採取された空気中にも含まれるほど拡散していると報告されている。
海洋生物が意図せずに体内に取り込んだMPは、食物連鎖の頂点に位置する人間の体内に間接的に取り込まれることになる。
生体内に取り込まれたMPが及ぼす健康被害については、未だ明確なことはわかっていないが、元々プラスチックは親油性物質のため、有害な化学物質を吸着しやすく、微細化により大きな表面積を有することになるため、多量の有害化学物質を吸収・吸着する可能性がある。
微細化したMPはより小さなナノサイズの方が拡散しやすいため、より危険性が高い可能性があるが、未だ実証されてはいない。
最新の研究では、超微細なMPが血管内や臓器内で発見され、脳梗塞や心筋梗塞の原因物質となる可能性や、認知症の患者の脳からMPが発見されたなどの論文が発表されている。
海洋プラスチックごみ対策に関して国連も動き出しているが、各国の合意形成は難航している。
EUでは2015年から対策を実施し、2021年までに1/3までに減量することに成功しており、早急に世界各国が合意して対策を進めることが重要と思われる。

引用・参考資料

プラスチック環境汚染防止きょうから国際条約案の政府間交渉　（2024年11月25日、NHK）
プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書（条約）の策定に向けた第５回政府間交渉委員会の結果概要　（2024年12月2日、環境省）
解説：マイクロプラスチックと心臓発作や脳卒中が関連、初の証拠　（2024年4月16日、ナショナルジオグラフィック）
血液や肺にも侵入、マイクロプラスチックはどれほど有害なのか　（2022年4月28日、ナショナルジオグラフィック）
人体にマイクロプラスチック、初の報告　（2018年10月24日、ナショナルジオグラフィック）
UNM Researchers Find Alarmingly High Levels of Microplastics in Human Brains – and Concentrations are Growing Over Time　（ニューメキシコ大学）
European Coastline Macro Litter Trends 2015 – 2021　（EU委員会/欧州委員会共同研究センター(JRC)）
EU沿岸海洋ごみの傾向2015-2021　（EU委員会）
ナノプラスチックを食べたら？模擬消化管における小さなプラスチック破片の運命　（ECHA）
洗顔料や歯磨きに含まれるマイクロプラスチック問題　（2016年1月23日～24日、環境省/大妻女子大学）
マイクロプラスチックって何だ？　（2016年2月7日、東京農工大学農学部環境資源科学科）
地球表層を巡るプラスチック－アースドクターの診断－　（2020年8月、早稲田大学）
マイクロプラスチックによる海洋汚染～増え続ける見えないゴミの問題点とは～　（日本バルブ工業会、2016年6月17日）

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