カーボンニュートラルへの道　#15

～第7次エネルギー基本計画（案）概要～

2025年1月21日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

I.　はじめに

資源エネルギー庁（経済産業省）は2024年12月17日付けで第7次エネルギー基本計画の原案を発表しました。

「エネルギー基本計画」とは、政府（資源エネルギー庁/経済産業省）が中長期的に原子力、火力、水力、再生可能エネルギーなどによる発電の割合をどのようにするかなどを定めたエネルギー供給の基本的な計画です。これは、エネルギー政策基本法に基づき、概ね3年ごとに見直しが行われます。定められた計画は閣議決定され、地方自治体や電力会社は計画の実現に向けて協力する「責務」を追うことになります。また、民間企業も今後のエネルギー需給計画として影響を受けますので、概要についてお知らせしたいと思います。

今回の第7次エネルギー基本計画は第6次計画以降の世界の政治的・経済的な変化を踏まえ、2050年のカーボンニュートラルを目指して2040年までの消費エネルギー量を想定した上で、安定した、かつ脱炭素を進めるためのエネルギーミックスなどを示したものです。

II.　第7次エネルギー基本計画（案）の概要

我が国は石炭や石油、天然ガスなどの化石エネルギー及び原子力エネルギー燃料など天然に産出する資源の乏しい国であり、その多くを輸入に依存してきました。しかし、温室効果ガス排出量増加による気候変動が明確になった現在、安定したベースロード電源をどこに求めて脱炭素を目指すのか、世界も納得する方向性が求められています。
しかし、安定した脱炭素エネルギーとして有力視されていた原子力エネルギーは、2011年の東日本大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所が14年経た現在も廃炉処理に手間取り、他の多くの原子力発電所の再稼働も思うように進んでいません。また、最も有望と言われている太陽光や風力などの再生エネルギーも、設置場所や大量の太陽光パネルの寿命後の廃棄問題など、課題が山積する状況にあると思われますので、どのようなエネルギーミックスによってCO2削減を行うのか、産業界にとっての重要な指針と言えます。
注目されるのは、次の点です。

（1）風力や太陽光などによる再生可能エネルギーをどこまで伸ばすのか
（2）火力発電をどこまで減らすのか
（3）原子力発電の位置付けをどうするのか
（4）その他の新エネルギーの可能性

これらの方向性について、2018年の第5次エネルギー基本計画では「原子力発電の依存度を可能な限り削減する」としていましたが、今回の第７次エネルギー基本計画では、安全性を高めた上で再稼働の加速や次世代革新炉の新設など、原子力エネルギーへの回帰・依存度を高めざるを得ない状況も示されています。

以下、第7次（2024年）、第6次（2021年）、第5次（2018年）エネルギー基本計画、及び、過去の資源エネルギー庁/経済産業省の公的資料などを引用／参考にしながら概説します。

1.　第6次エネルギー基本計画策定以降の世界の社会経済的な状況の変化

ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化などの経済安全保障上の要請が高まる。
DX（デジタルトランスフォーメーション）やGX（グリーントランスフォーメーション）の進展に伴う電力需要増加が見込まれる。
各国がカーボンニュートラルに向けた野心的な目標を維持しつつも、多様かつ現実的なアプローチを拡大。
エネルギー安定供給や脱炭素化に向けたエネルギー構造転換を、経済成長につなげるための産業政策が強化されている。

2.　概要

2040年度に再生可能エネルギーを全体の40～50%程度に拡大し、最大の電源とする。太陽光は全体の22～29%程度、風力は4～8%程度と見込まれている。
2035年以降をターゲットイヤーとして温室効果ガス削減目標を策定する。
資源循環政策との融合を図ることで、エネルギー・経済安全保障のリスクの低減や脱炭素コストの抑制、国内への付加価値還流などの効果を期待する。

第7次エネルギー基本計画の策定時期は、国内外のエネルギー情勢の急速な変化に対応するために選ばれました。具体的には、ウクライナ危機以降の世界的なエネルギー供給の不安定化や、再生可能エネルギー技術の進展、日本国内の原子力発電所の再稼働状況などが考慮されています。また、AI（人工知能）の普及やデータセンターの市場規模拡大による電力需要の増加が見込まれるなか、温室効果ガス削減目標と電力の安定供給をどのように両立するのかが大きな課題となっています。

表1　2040年度におけるエネルギー需給見通しとエネルギーミックス（出典：資源エネルギー庁）
※数値は全て暫定値で、今後変動しうる

			2023年度（速報値）	2040年度（見通し）
エネルギー自給率			15.2％	30%～40%
発電総電力			9,854億kW/hr	1.1兆～1.2兆kW/hr
電源構成	再エネ	（内訳）	22.9％	40～50%程度
		（太陽光）	（9.8 %）	（22%～29%程度）
		（風力）	（1.1 %）	（4%～8%程度）
		（水力）	（7.6 %）	（8%～10%程度）
		（地熱）	（0.3 %）	（1%～2%程度）
		（バイオマス）	（4.1 %）	（5%～6%程度）
	原子力		8.5％	20 %程度
	火力		68.6％	30%～40%程度
最終エネルギー消費量			3.0億kL	2.6億～2.8億kL
温室効果ガス削減割合（2013年度比）			22.9％（2022年度実績）	73％（注）

（注）中環審・産構審合同会合において直線的な削減経路を軸に検討するとされていることを踏まえた暫定値。

3.　第7次エネルギー基本計画における課題と対応策

3.1　エネルギー安全保障

国際情勢の変化やエネルギー価格の高騰により、エネルギーの安定供給が重要な課題となっています。対応策として、再生可能エネルギーの導入拡大やエネルギー効率の向上が推進されています

3.2　経済効率性

化石燃料の価格高騰により、エネルギーコストが増加しています。対応策として、再生可能エネルギーのコスト削減やエネルギー効率の向上が求められています

3.3　環境適合性

カーボンニュートラルの達成に向けて、温室効果ガスの排出削減が課題となっています。対応策として、再生可能エネルギーの導入拡大や原子力発電の活用が検討されています

3.4　技術革新

新しいエネルギー技術の開発と導入が必要です。対応策として、次世代型の太陽電池や風力発電の拡大が進められています。

4.　重要課題

4.1　火力電の削減

4.1.1　再生可能エネルギーの導入拡大
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを積極的に導入し、火力発電の依存度を減らします。

4.1.2　エネルギー効率の向上
エネルギー効率を向上させることで、全体のエネルギー消費量を削減し、火力発電の必要性を減らします。

4.1.3　新技術の導入
水素やアンモニアなどの新しい燃料を利用することで、火力発電のCO2排出量を削減します。

4.1.4　カーボンキャプチャー技術の活用
火力発電所から排出されるCO2を回収・貯留する技術（CCS）を導入し、環境への影響を最小限に抑えます。

4.2　原子力発電の位置付け

4.2.1　安定供給の確保
原子力発電は、再生可能エネルギーの導入が進む中で、安定した電力供給を支える重要な役割を担っています。特に、再生可能エネルギーの出力変動を補完するために必要とされています。

4.2.2　カーボンニュートラルの達成
2050年までにカーボンニュートラルを達成するためには、原子力発電の活用が不可欠とされています。原子力発電は、CO2排出が少ないため、温室効果ガスの削減に寄与します。

4.2.3　技術革新と安全性向上
原子力発電の安全性向上と技術革新が進められており、これにより国民の信頼を回復し、原子力発電の活用を推進しています。

4.2.4　バックエンド問題の解決
使用済み核燃料の処理や廃棄物管理などのバックエンド問題に対する取り組みも進められています。

4.3 再生可能エネルギーのコストダウン

4.3.1　技術革新
太陽光発電や風力発電の技術が進化し、効率が向上しています。これにより、発電コストが低減しています。

4.3.2　大量生産
再生可能エネルギー設備の大量生産が進むことで、単価が下がり、コストが削減されています。

4.3.3　政府の支援
固定価格買取制度（FIT）やプレミアム額交付制度（FIP）など、政府の支援策が再生可能エネルギーの普及を後押しし、コスト削減に寄与しています。

4.3.4　国際協力
国際的な連携や技術共有が進むことで、再生可能エネルギーの導入コストが低減されています。

4.4　エネルギーの安全保障施策

4.4.1　エネルギー源の多様化
特定のエネルギー源に依存しすぎないように、再生可能エネルギーや原子力、天然ガスなど多様なエネルギー源を活用しています。

4.4.2　エネルギー輸入先の多様化
エネルギーの輸入先を多様化することで、特定の国や地域に依存しないようにしています。

4.4.3　省エネルギーの推進
エネルギー効率を向上させるための技術開発や、省エネ家電の普及促進などが行われています。

4.4.4　エネルギー備蓄
石油や天然ガスなどのエネルギー資源を備蓄することで、緊急時に備えています。

4.4.5　国際協力
他国との協力を強化し、エネルギー資源の安定供給を確保するための取り組みを行っています。

III.　第6次エネルギー計画（2021年）と第7次エネルギー計画（2025年）の違い

第6次計画と第7次計画の違いをまとめると、下表のようになります。これらの違いを通じて、日本のエネルギー政策は持続可能なエネルギー利用とカーボンニュートラルの達成を目指しています。

	第6次エネルギー基本計画	第7次エネルギー基本計画
計画期間	2021年から2030年までの期間を対象	2040年までの長期的な視点
再生可能エネルギーの目標	比率を36%～38%に引き上げることを目標	比率を40%～50%に引き上げることを目標
原子力エネルギーの位置付け	比率を20%～22%に維持することを目標	比率を20%程度に設定次世代革新炉の開発・設置
火力発電	LNGと石炭・石油を合わせて41%	火力発電の比率を30%～40%に削減液化天然ガス（LNG）火力を「移行電力」として位置付け
エネルギー安全保障	エネルギーの安定供給を重視し、エネルギー自給率の向上を目指す	ロシアによるウクライナ侵略などの状況変化を反映し、エネルギー安全保障の要請が高まっている

IV.　まとめ

（1）2024年12月17日付けで資源エネルギー庁/経済産業省は2040年までのエネルギー政策「第7次エネルギー基本計画（原案）」を公表した。
（2）第6次エネルギー基本計画（2021年）以降、ロシアのウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫など、エネルギー資源の多くを輸入に依存している我が国にとって、エネルギーの安定的な確保が重要。
（3）2050年のカーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギー比率の引き上げ、火力発電はLNG火力を移行電力とし、比率の削減を目指す。
（4）原子力エネルギーは脱炭素エネルギーとして重要であり、安全性の向上、次世代革新炉の開発・設置などを含め20％程度を確保。

引用・参考資料

（第7次）エネルギー基本計画（原案）の概要　（資源エネルギー庁、2024年12月）
（第6次）エネルギー基本計画　（資源エネルギー庁、2021年10月）
第5次エネルギー基本計画　（資源エネルギー庁、2018年）
今後の火力政策について　（資源エネルギー庁/経済産業省、2022年1月25日）
なっとく！再生可能エネルギー　（資源エネルギー庁）
再エネのコストを考える　（資源エネルギー庁、2017年9月14日）
エネルギー危機の今、あらためて考えたい「エネルギー安全保障」　（資源エネルギー庁、2023年3月16日）
第四次エネルギー基本計画を閣議決定～原発を重要なベースロード電源と位置づけ～　（日本バルブ工業会、2014年6月25日）

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