ストックホルム条約の制限物質追加勧告

～POPRC20にて協議～

2024年11月12日

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1.　はじめに

残留性有機汚染物質を国際的に規制するストックホルム条約（POPs条約：Persistent Organic Pollutants）における新規規制対象物質について検討を行う「残留性有機汚染物質検討委員会」の第20回会合（POPRC20）が、2024年9月23日～27日（現地時間）に、イタリア・ローマで開催されました。

今回の会議では、下記（1）～（3）の物質について、リスク管理に関する評価及び条約上の位置付け（製造・使用等の「廃絶」）を検討し、条約上の廃絶対象物質（附属書A）への追加を締約国会議に勧告することが決定されました。

（1）クロルピリホス
（2）中鎖塩素化パラフィン（炭素数14～17までのものであって、塩素の含有量が全重量の45％以上のものに限る）
（3）長鎖パーフルオロカルボン酸（LC-PFCA）とその塩及びLC-PFCA関連物質

また、新たに提案された「ポリ臭素化ジベンゾ-p-ジオキシン及びジベンゾフラン」について、リスクプロファイル案を作成する段階に進めることが決定されました。

ストックホルム条約は過去にも本コラムで何回か取り上げましたが、あらためて今回その概要と新規規制対象候補物質の詳細を、また、関連する有害化学物質規制であるバーゼル条約、ロッテルダム条約について概説します。

2.　ストックホルム条約とは

2-1.　概要・目的

ストックホルム条約は2001年に採択され、2004年に発効した国際条約です。この条約は、難分解性であるために環境中に長期間残留し、生態系や人類に蓄積し健康に深刻な影響を与える特定の有害な化学物質の使用および排出を制限または禁止することを目的としています。この条約により、ダイオキシン類やポリ塩化ビフェニル（PCB）などの残留性有機汚染物質（POPs）が規制されています。これらの物質には次のような特徴があります。

（1）毒性が強い
（2）難分解性である
（3）生物蓄積性がある
（4）長距離にわたって環境中を移動する可能性がある

このため、1ヶ国に留まらない国際的な規制が必要とされています。ストックホルム条約の締約国会議で採択された場合、締約国が批准すれば国内法（日本では化審法）に置き換えられますので、対応が必要になります。

2-2.　対象物質

廃絶（附属書A）、制限（附属書B）、意図しない生成物（附属書C）の3段階の規制があります。

（1）附属書A収載物質：PCB、PFOA、ダイオキシン類など30物質（群）
締約国は、附属書Aに列挙された化学物質の生産及び使用を排除するための措置を取らなければならない。特定の適用除外は附属書Aに記載されており、それらに登録した締約国にのみ適用される。
（2）附属書B収載物質：PFOS、DDT（2物質（群））
（3）附属書C収載物質：7物質

※いずれも2024年10月末現在。各附属書収載物質はストックホルム条約ウェブサイト参照。

2-3.　規制内容:

これらの物質の製造、使用、輸出入、廃棄を厳しく規制し、段階的に削減または廃止することを目指しています。

2-4.　加盟国

180以上の国が参加しており、各国は自国内での法を整備し、管理体制を整えています。

2-5.　評価と更新

新たな物質の評価や既存の規制物質の再評価が定期的に行われ、必要に応じてリストが更新されます。

3.　POPRC20（第20回「残留性有機汚染物質検討委員会」）での新規規制勧告物質（群）

POPRC20で、廃絶対象物質（附属書A）への追加勧告が決定された3物質（群）の詳細は下表のとおりです。

1	物質名	英名	Chlorpyrifos
		和名	クロルピリホス
	CAS RN		2921-88-2
	物質の詳細		毒性の強い有機リン系の化合物で、防蟻剤や農薬として広く使用されてきました。シックハウス症候群の原因物質の一つと指定されており、居室のある建物への使用は2003年の建築基準法改正により禁じられています。
	構造式		出典：ウィキペディア
	提案理由		難分解性、生体蓄積性があり発がん性、神経毒性があります。分解して塩化水素、ホスゲン、リン酸化物、窒素酸化物、硫黄酸化物を含む有毒で腐食性の蒸気が生成します
	主な用途など		防蟻剤や農薬など
	備考		出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）化審法：既存化学物質化審法：旧第二種監視化学物質及び旧第三種監視化学物質化管法：排出量等の把握及SDS提供対象安衛法：名称公表化学物質、ラベル表示・SDS交付義務対象物質、不浸透性の保護具等の使用義務物質毒物及び劇物取締法：劇物水質汚濁防止法：対象物質建築基準法：規制対象物質 EU、韓国、台湾など規制対象その他
2	物質名	英名	Medium-chain chlorinated paraffins
		和名	中鎖塩素化パラフィン（MCCP）（炭素数14～17までのものであって、塩素の含有量が全重量の45％以上のものに限る。）
	CAS RN		85535-85-9
	物質の詳細		炭素チェーンの長さが 14～17、塩素含有率が 40～70% の塩素化炭化水素の混合体で、単一の化合物ではなく物質グループです。
	構造式		混合物のため、構造式は示しません。
	提案理由		難分解性や高蓄積性が懸念されます。繰り返し被ばくすると、皮膚の乾燥やひび割れ、目への刺激が起こる可能性があります。
	主な用途など		金属加工油剤・難燃性樹脂原料等塩化ビニルポリマーの可塑剤として、拡張特性や耐老化性の改善に用いられます。そのほか、防燃性、撥水性に優れているため、塗料添加剤、ゴム配合剤、布地の防炎・防水剤に、潤滑剤、冷却剤、ポリマーの添加剤など用途は幅広い。
	備考		出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）化審法：優先評価化学物質化管法（令和5年度分以降の排出量等の把握や令和５年度以降のSDS提供の対象） EU REACH：高懸念物質（SVHC）米国：有害物質規制法（TSCA）、重要新規利用規則（SNUR）、Flag PMN; S; 5E 韓国：化評法（K-REACH）／化管法：有害化学物質、重点管理物質台湾：TCCSCA/OSHA：既存化学物質その他
3	物質名	英名	Long-chain Per and Polyfluoroalkyl Substances
		和名	長鎖ペルフルオロカルボン酸（LC-PFCA）炭素数：9～21とその塩及びLC-PFCA関連物質
	CAS RN		炭素数により異なります。以下、炭素数＝9～14の例を示す
			375-95-1	パーフルオロノナン酸　（炭素数=9）
			335-76-2	パーフルオロデカン酸　（炭素数=10）
			2058-94-8	パーフルオロウンデカン酸　（炭素数=11）
			307-55-1	パーフルオロドデカン酸　（炭素数=12）
			72629-94-8	パーフルオロトリデカン酸　（炭素数=13）
			376-06-7	パーフルオロテトラデカン酸　（炭素数=14）
	物質の詳細		PFASの1グループ
	構造式		CH3-（CH2）n－COOHの構造式で表される直鎖構造を有しています。
	提案理由		難分解性、生体蓄積性が懸念され、PFOA、PFOSなどと同様の発がん性、生殖毒性などの懸念があります。
	主な用途など		フッ素ポリマー加工助剤、界面活性剤等交換用部品として設計された半導体や自動車の交換用部品は適用除外
	備　考		出典：製品評価技術基盤機構NITE 化学物質総合情報提供システム（NITE-CHRIP）炭素数9～21までの直鎖PFAS物質群なので省略 ※個別の規制などは、NITE-CHRIPで検索されたい

4.　POPRC20（第20回「残留性有機汚染物質検討委員会」）での新規制限検討物質

今回、新たにリスクプロファイル案作成が決定された2物質の概要は以下のとおりです。

4-1.　検討対象物質：

（1）ポリ臭素化ジベンゾ-p-ジオキシン
（2）ポリ臭素化ジベンゾフラン

4-2.　検討理由

残留性、濃縮性、長距離移動性及び毒性等がある可能性が高い。

4-3.　用途

非意図的生成物でダイオキシンの一種。

5.　有害化学物質に関する他の2つの条約（ロッテルダム条約とバーゼル条約）

有害化学物質を規制する条約はストックホルム条約以外にも、ロッテルダム条約とバーゼル条約があります。

5-1.　ロッテルダム条約

ロッテルダム条約（正式名称：有害化学物質及び農薬の国際貿易における事前通報・同意手続に関する条約）は、2004年2月に発効しました。
＜主な目的＞
特定の有害な化学物質や農薬の国際貿易を規制し、輸出国と輸入国の間で情報を共有することにあります。これにより、輸入国がこれらの物質の輸入を事前に承認するかどうかを決定できるようにします。特に、開発途上国への無秩序な輸出を防止することを狙いとしています。

5-2.　バーゼル条約

バーゼル条約（正式名称：有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約）は、1992年5月に発効しました。
＜主な目的＞
有害廃棄物の越境移動、特に途上国への不正な輸出を規制し、その処分を環境的に適正に行うことにあります。条約は、廃棄物の発生を最小限に抑え、安全かつ効率的に処理するための枠組みを提供します。

有害廃棄物の越境移動

残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約、及び、国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約の締約国会議は、有害な化学物質及び廃棄物を規制し、これらが環境及び人の健康に与える影響を防ぐという共通の目的を有しており、相互に連携した取組を実施する必要があることから、条約間のさらなる連携を促進し、効果的にその目的を達成していくため、3条約の締約国会議が連続して開催されるようになっています。

6.　まとめ

（1）残留性有機汚染物質を国際的に規制するストックホルム条約の本会議に先立ち、専門家による「残留性有機汚染物質検討委員会」（POPRC）の第20回会合が、2024年9月23日～27日にイタリアのローマで開催された。
（2）ストックホルム条約は、毒性が強く、難分解性と生体蓄積性があり、長距離移動する物質の使用を制限することを目的としており、今回、クロルピリホス、中鎖塩素化パラフィン（MCCP）、長鎖ペルフルオロカルボン酸（LC-PFCA）の3種類の物質について、「廃絶」が必要として本会議に勧告されることが決定された。3物質のうち、中鎖塩素化パラフィン（MCCP）は金属加工から樹脂やゴムの添加剤などに幅広く使用されている油剤である。長鎖ペルフルオロカルボン酸（LC-PFCA）はフッ素ポリマー加工助剤、界面活性剤等に使用されている。
（3）我が国はストックホルム条約締約国であるので、上記3種類の物質が制限物質として採択された場合は、批准すれば国内法（化審法）に規定されるので、自社における使用有無を確認し、使用している場合は代替物質への切り替えが必要になる可能性が高いので、注意が必要。

引用・参考資料

ストックホルム条約の対象物質の追加に関する別表1、2　（環境省）
中央環境審議会「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約の附属書改正に係る化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく追加措置について（第三次答申）」及び「同（第四次答申）」について　（環境省、2024年9月20日）
ストックホルム条約残留性有機汚染物質検討委員会第19回会合（POPRC19）が開催されました　（経済産業省、2023年10月20日）
Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants (POPs)、Twentieth meeting of the Persistent Organic Pollutants Review Committee (POPRC.20)　（POPs条約公式ページ）
ストックホルム条約残留性有機汚染物質審査委員会第20回会合(POPRC-20)、サマリーレポート(2024年9月23-27日)　（IISD）
ストックホルム条約残留性有機汚染物質検討委員会第20回会合（POPRC20）が開催されました　（経済産業省、2024年10月2日）
残留性有機汚染物質検討委員会第20回会合（POPRC20）の結果について　（環境省、2024年10月2日）
クロルピリホス　（環境省化学物質情報検索支援システム）

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