米国のPFASデータの提出を義務付ける規則

～EPAがデータ報告期間の開始を延期～

2024年10月11日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

I.　はじめに

米国環境保護庁（EPA）は2023年10月11日付け米国官報において、「パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質（PFAS）に関する有害物質規制法（TSCA）に基づく報告および記録保存要件」と題する公告を行いました。続いて、2024年9月5日付け米国官報において「有害物質規制法（TSCA）に基づくパーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質（PFAS）データの報告と記録管理。提出期間の変更と技術的な修正」と題する公告を行うと同時に、EPAのウェブサイトにおいて「TSCAセクション8(a)(7)パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質の報告および記録保持要件」と題した発表を行いました。

注1）米国官報は日本の官報と異なり、法令そのものは掲載されず、規則や規制の案や最終版が主に掲載されます。このため、官報対するパブコメ期間が設けられることがあります。
注2）本法律は、米国内で製造、使用、廃棄されるPFAS及び、他国から輸入されたPFASに対して適用されます。

今回は、これらの資料から、「TSCA第8条a項7によるPFASの報告及び記録保持要件」とは何かを解説します。

II.　TSCA第8条a項7によるPFASの報告及び記録保持要件

以下、1～6は米国官報及びEPAウェブサイトからの抜粋・翻訳です。

1.　TSCA第8条a項7とは

米国のTSCA第8条（a）項（7）は、特定の化学物質に関する報告と記録保持の要件を定めています。特に、PFASに関する情報を企業に提供することを義務付けるものです。

この規則により、企業は2011年まで遡ってPFASの製造、加工、使用に関するデータを報告する必要があります。報告はEPAの電子プラットフォームを通じて行われ、成形品輸入業者や中小企業も対象となります。

筆者注）　TSCAは米国の連邦法ですので、日本国内に限定して製造・加工・販売・使用する場合には関係がありませんが、米国に輸出する場合または現地法人がある場合には、適用を受けます。

2.　TSCA第8条a項7に基づくPFASの報告及び記録保持要件とは

EPAは、TSCAに基づくPFASの報告および記録保持要件を最終決定しました。2020会計年度の国防権限法によって改正されたTSCAに基づく義務に従い、EPAは、2011年1月1日以降の任意の年にPFASまたはPFAS含有製品を製造（輸入を含む）する、または製造（輸入を含む）したすべての人に、PFASの使用、生産量、廃棄、曝露、および危険性に関する情報を電子的に報告することを義務付けています。

この規則により、EPAはTSCAに基づく法定義務を履行するだけでなく、米国で製造されたPFASの供給源と量をより適切に特徴付けることができます。

2011年以降の任意の年にPFASを製造（輸入を含む）した事業体（小規模事業体を含む）は、Central Data Exchange（CDX）を通じてデータをEPAに報告する必要があります。提出期間が始まると、製造業者は6か月以内にデータを提供する必要があります。

この規則に基づく報告義務が輸入品のみからのものである小規模製造業者は、PFASをEPAに報告するためにさらに6か月の猶予があります。

3.　EPA、PFASデータの提出を義務付ける規則のデータ報告期間の開始を延期

本日（2024年9月5日）、EPAは、TSCAに基づき、企業にPFASに関する報告を義務付ける2023年10月の最終規則の報告期間を延期する直接最終規則を発表しました。報告期間は2024年11月12日に開始される予定であったが、本日の最終規則では、リソースの制約から報告期間の開始を2025年7月まで延期します。

従って、この直接最終規則は、データ提出期間を2025年7月11日に開始し、FDAがソフトウェア報告アプリケーションが完全に機能することを期待する日に変更します。多くの報告者は、2026年1月11日までにすべての報告を完了する必要があります。PFASの輸入に関するデータのみを報告する中小企業は、2026年7月11日までに報告書を提出する必要があります。

4.　対象となるPFASとは

PFASは、環境中に自然に存在しない合成有機化合物です。この規則の目的上、EPAはPFASを次の3つの構造のうち少なくとも1つを含む化学物質と定義しています。

R-(CF 2)-CF(R′)R″、ここでCF 2とCF部分は両方とも飽和炭素である。
R-CF 2 OCF 2 -R′、ここでRおよびR′はF、O、または飽和炭素のいずれかです。
CF 3 C(CF 3)R′R″、ここでR′およびR″はFまたは飽和炭素のいずれかです。

PFASの強力な炭素－フッ素結合により、一部のPFASは分解に耐性があり、環境中で非常に持続性があります。これらの化学物質の一部は、何十年にもわたってさまざまな消費者製品や工業製品に使用されてきました。一部のPFASは、高等栄養生物を含む野生生物から検出されており、少なくとも一部のPFASが生体内蓄積能力を持っていることを示しています。一部のPFASはヒトに蓄積し、長期間（数か月から数年など）人体に留まる可能性があります。商業におけるPFASの広範な使用と環境中に残留する傾向のために、米国のほとんどの人々はPFASにさらされています。その結果、ヒトの血清中にいくつかのPFASが検出されました。

TSCA第8条（b）に基づき、EPAはTSCA化学物質インベントリ（以下「インベントリ」）を維持しており、これには、米国で製造、加工、または輸入された既存の化学物質のうち、TSCAに基づく免除または除外の対象とならないすべての既存の化学物質が含まれています。EPAは、2023年2月現在、TSCAが対象としているPFASのうち、少なくとも1,462種類がこの規則の対象となる可能性があるものを特定しており、そのうち770種類がアクティブ（登録だけではなく、実際に商業化されている）なインベントリ（つまり、米国の商取引）に載っています。活性化学物質のリストには、2006年6月以降に商業的に販売されていることが知られているものが含まれています。

一般的に良く知られるPFASとしては低分子物質であるPFOS, PFOAなどの界面活性剤がありますが、上記3つの構造を有する化学物質としてはPTFEやPFAなどの高分子物質も対象となります。

（参考）EPAが提示しているリストに含まれる主な高分子PFAS

下表の内容を利用する場合は8（a）（7）ルール（xlsx）のTSCA PFASの公開リストより再確認下さい。

略称	名称	CAS RN	EPA LIST No.
PTFE	Ethene, 1,1,2,2-tetrafluoro-, homopolymer	9002-84-0	601
PFA	Propane, 1,1,1,2,2,3,3 –heptafluoro -3-[（1,2,2-trifluoroethenyl）oxy]-, polymer with 1,1,2,2-tetrafluoroethene	26655-00-5	190
FEP	1-Propene, 1,1,2,3,3,3-hexafluoro-, polymer with 1,1,2,2-tetrafluoroethene	25067-11-2	174
ECTFE	Ethene, 1-chloro-1,2,2-trifluoro-, polymer with ethene	25101-45-5	175
CTFE	2024/9末現在収載なし	79-38-9	収載なし
PVDF	Ethene, 1,1-difluoro-, homopolymer	24937-79-9	170
FKM	1-Propene, 1,1,2,3,3,3-hexafluoro-, polymer with 1,1-difluoroethene and 1,1,2,2-tetrafluoroethene	25190-89-0	177
FPM	2024/9末現在収載なし	9010-79-1	収載なし

5.　実際の報告方法

TSCAセクション8（a）（7）に基づくPFASの報告手順（PDF）
TSCA 8a7 Small Entity Compliance Guidance （英語）（PDF）
8（a）（7）ルール（xlsx）のTSCA PFASの公開リスト　※対象となるPFASのリスト

6.　まとめ

（1）EPAはTSCA第8条a項7により、PFASに関す事業者に対し報告及び記録保持を義務付ける。
（2）報告要件は2011年1月1日以降にPFASの製造、加工、使用を行った事業者は物質名、用途、生産量、副産物情報、環境・健康リスク、職場におけるばく露情報、廃棄方法などの詳細な情報とする。
（3）データ提出期間は2025年7月11日に開始し、FDAがソフトウェア報告アプリケーションが完全に機能することを期待する日に変更する。多くの報告者は、2026年1月11日までにすべての報告を完了する必要がある。
（4）対象となるPFASはPFOA、PFOSなどの低分子物質からPTFE、PFAなどの高分子物質まで含まれる。報告方法、対象物質リストなどは上記に示した。

引用・参考資料

米国環境保護庁（EPA）、ようやくPFAS報告規則の最終版を公開　（Regal wire、Vol. 154 / 2023年11月号）
Toxic Substances Control Act Reporting and Recordkeeping Requirements for Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances　（米国官報、2023年10月11日）
Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances （PFAS） Data Reporting and Recordkeeping Under the Toxic Substances Control Act （TSCA）; Change to Submission Period and Technical Correction　（米国官報、2024年9月5日）
TSCA Section 8(a)(7) Reporting and Recordkeeping Requirements for Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances　（EPA, 2024年9月8日）
PFAS Strategic Roadmap: EPA’s Commitments to Action 2021-2024　（EPA）

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