EUによるCSDD指令とは

～日本企業も影響を受ける可能性と1.5℃目標設定～

2024年8月16日

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1.　はじめに

多くのマスコミが「2024年3月15日、EU理事会がCSDD（コーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令：Corporate Sustainability Due Diligence Directive）を正式に採択しました」との報道を行いました。

CSDD指令はEU域内企業だけでなく、日本やアメリカ、中国など非EU企業に対しても、サプライチェーン全体を通じてデューデリジェンス（※）を実施し、人権と環境への影響に責任をもつことを義務づけるもので、2026年に発効されます。日本の企業も影響を受ける指令となりますので、主にEU委員会の発表資料などを基に、概要を解説したいと思います。

（※）デューデリジェンスとは、企業や取引において、適切な注意を払うための行動を指します。具体的には、企業の詳細な調査や分析を行うことで、リスクを最小限に抑えるための努力を指します。たとえば、企業の買収や合併に際して、買収先企業の財務状況、法的問題、契約、人事などを詳細に調査することがあります。

2.　CSDD指令とは

EUのCSDD指令は、主に大企業に対して、自社の活動が人権と環境に及ぼす悪影響をデューデリジェンス（特定・予防・緩和）することを義務づけるものです。

この指令は、EU内の約6,000社とEU外の約900社も対象としています。EU域内の企業でも、中小企業は適用外としていますが、サプライチェーンのビジネスパートナーとして位置する場合は、大企業からの対応要請が来ることは避けられない可能性があります。

この指令はEU域内の法規制ですが、なぜEU域外の日本企業なども対象にし、影響が及ぶと言われているのでしょうか。

ところで、EU法であるREACHは「規則」、RoHSは「指令」と呼ばれていますが、この場を借りてEU法について、おさらいしておきたいと思います。

3.　EU法

EU（欧州連合）の法体系には、一次法と二次法の2つの主要なカテゴリがあり、これらがEUの法的規制を構成しています。以下に、規則、指令、決定、勧告、意見の違いを説明します。

EUの法令は、これらのカテゴリに基づいて制定され、EU域内で法的規制を整備しています。

EU加盟国だけを対象とした地域限定の法体系で、域内でのみ効力がありますが、EU域内に輸出したり、EU域内に現地法人があったりすれば、対象となります。

レベル	詳　　細
規則（Regulation）一次法加盟国に直接適用	規則は、EU加盟国の法令を統一するために制定される法令です。 EU域内の国、企業などを直接規制し、EU加盟各国の国内法よりも優先して適用されます。簡単にいえば、EU域内で統一されたルールが適用され、EU加盟各国で同じ規制内容が適用される状態になります。例）REACH規則、CLP規則、CLP規則、BPR規則
指令（Directive）二次法加盟国の国内法に置き換え適用	指令は、EU加盟国間での規制内容の統一（調整）を目的とする法令です。原則として、通常はEU加盟国へは直接適用されず、国内法への置き換えが必要です。加盟国は指令を、指令で定められた期日までに国内法として制定・改正する必要があります。指令の条件以上の国内法を整備するため、各国間で法令が異なる場合もあります。例）RoHS指令、WEEE指令、ELV指令、WFD指令（廃棄物枠組み指令、水枠組み指令）
決定（Decision）	決定は、EU加盟国内の特定の国、企業、個人などに限定して充てられる法令で、直接拘束されます。一般的法規ではなく、個別的かつ具体的な内容を持つ行政手段といえます。
勧告（Recommendation）	勧告は、EU加盟国や企業などに行為や行動を期待することを欧州委員会が表明するものです。法的拘束力はないものの、事実上、EU加盟国内での法令制定・改正などを促すものとされています。
意見（Opinion）	意見は、特定のテーマについて欧州委員会が意思を表明するもので、法的拘束力はありません。これらの法律は、欧州連合理事会、欧州議会、欧州委員会の3つの主要機関が決定します

4.　企業にとってCSDD指令に適合するメリット

※以下、EU委員会資料“Corporate sustainability due diligence～Fostering sustainable and responsible corporate behaviour for a just transition towards a sustainable economy.～”を主な資料とて引用し解説します。

（1）EUにおける調和のとれた法的枠組みにより、法的確実性と公平な競争条件が創出されます。
（2）顧客の信頼と従業員のコミットメントの向上。
（3）企業の人権や環境への負の影響に対する認識が高まり、責任リスクが軽減されます。
（4）人材、持続可能性を重視する投資家、公的調達者にとっての魅力が高まります。
（5）イノベーションに対するインセンティブの増加。
（6）金融へのアクセスの改善。

5.　企業に対する義務

CCDD指令は、企業のデューデリジェンス義務を定めています。この義務の中核となるのは、自社の事業、子会社、およびバリューチェーンに関連する場合はビジネスパートナーの事業における潜在的および実際の人権および環境への負の影響を特定し、対処することです。また、パリ協定の2050年気候中立目標や欧州気候法の中間目標に沿った気候変動緩和のための移行計画を、大企業が最善の努力を通じて採用し、実施する義務を定めています。

6.　対象とする企業

（1）EU域内企業
約6000社、全世界の従業員数1,000人以上、売上高（純額）4億5,000万ユーロ以上
（2）EU域外の大企業
約900社、EU域内での売上高（純額）4億5,000万ユーロ以上。
（3）中小企業
（4）零細企業や中小企業は、この規則案の対象外です。しかし、この指令は、バリューチェーンのビジネスパートナーとして間接的に影響を受ける可能性のある中小企業に対する支援および保護措置を提供します。

7.　EUのCSDD指令が、EU域内の法規制である一方で、域外の企業にも影響を及ぼす理由

理由はいくつかあります。

（1）グローバルサプライチェーン:
多くの企業はグローバルなサプライチェーンを持っており、EU域内での活動だけでなく、他国での活動も含まれています。CSDD指令は、企業のサプライチェーン全体にわたって人権と環境への影響を評価することを求めているため、域外の活動も対象となります。

（2）国際的な責任
環境と人権の問題は国境を越えて影響を及ぼします。EUは、企業が持続可能な方法でビジネスを行うために国際的な責任を果たすことを促進しています。そのため、EU域外の企業も影響を受けることになります。

（3）国際基準の強化
指令案は、国際的な人権と環境に関する指導原則を、法的拘束力を持つものとして位置づけています。これにより、EU域外の企業も同様の基準を遵守する必要があります。

（4）市場アクセス
EU域内でビジネスを行うためには、CSDD指令に準拠する必要があります。したがって、域外の企業もEU市場にアクセスするためには、指令に従う必要があります。
総じて、CSDD指令は企業の持続可能性に対する国際的な取り組みを推進し、人権と環境に対する負の影響を最小限に抑えることを目的とし、グローバルな影響を考慮しています。

8.　CSDD指令に対して日本企業が準備するべき課題

日本企業が具体的に準備すべきポイントは以下のとおりです。

（1）サプライチェーンの評価
自社のサプライチェーンを評価し、人権と環境に関連するリスクを特定します。どの部分が影響を受ける可能性が高いかを把握する。

（2）人権・環境デューデリジェンスの遵守体制の整備
CSDD指令は「指令」ですので、発効しても直ちに適用されるものではなく、加盟国の国内法が整備されて初めて効力が発生します。指令が発効してから加盟国は2年以内に国内法を整備するように求められていますので、適用されるまでに、人権と環境に対するデューデリジェンスの遵守体制を整備しておくことが重要です。内部プロセスやガバナンスを整備することが必要です。
ただし、この指令は、欧州連合の官報に掲載されてから20日後に発効します。加盟国は、指令を国内法に置き換え、関連するテキストを委員会に伝達するために2年間の猶予が与えられます。1年後には、この規則は企業にも適用され始め、発効後3年から5年の間に段階的に導入されます。

（3）移行計画の策定
CSDD指令は企業に対し、自社の戦略とビジネスモデルを「1.5℃目標（気温上昇を1.5℃に抑えること）」に整合させる「移行計画」の策定を義務づけています。これを準備しておくことが重要です。

（4）金融機関との連携
サプライチェーンの上流に位置する場合は、企業活動についてはデューデリジェンスの順守が求められます。金融機関は情報を多く持っていますので連携を強化し、情報共有を進めることが有用です。
いずれにしても、CSDD指令は将来的に国際標準化を目指していますので、企業の持続可能性を向上させるという意味では、重要なステップであり、上記の課題に対応するよい機会と思えます。
今後、エコデザイン指令やデジタル製品パスポートとも関係してくることも十分考えられますので、継続して情報収集することが重要と言えます。

9.　まとめ

（1）EUの「規則」や「指令」はEU法ですので、EUに現地法人を持たず、輸入も行わない場合には関係のない法律です。しかし、バルブや水栓などは部品であるため、自社のコントロールされないルートで、EU域内で販売されてしまう可能性があるため、注意が必要です。
（2）EUのCSDD指令は、主に大企業に対して、自社の活動が人権と環境に及ぼす悪影響をデューデリジェンス（特定・予防・緩和）することを義務づけるものです。
（3）特に環境面では、自社の戦略とビジネスモデルを「1.5℃目標（気温上昇を1.5℃に抑えること）」に整合させる「移行計画」の策定を義務づけています。これを準備しておくことが重要です。
（4）今後、エコデザイン指令やデジタル製品パスポートとも関係してくることも十分考えられますので、今後継続して情報収集する必要があります。

引用・参考資料

Corporate sustainability due diligence～Fostering sustainable and responsible corporate behaviour for a just transition towards a sustainable economy.～　（EU委員会）
The EU Corporate Sustainability Due Diligence Directive is final. What now for your organisation?　（Deloitte Legal）
CSDDD, explained: the Corporate Sustainability Due Diligence Directive　（Normative）
Summary of the CSDDD text as approved by the EU Council　（Business Human Rights Resource Centre）
EUによる企業サステナビリティデューデリジェンスに関する指令（CSDDD）　（ecovadis）
EUで「骨抜き」改正のCSDDDが施行へ前進　日本企業も対象　（日経ESG、2024年4月26日）
欧州の企業持続可能性DD指令（CSDDD）の正式採択と日本企業に与える影響　（長島・大野・常松法律事務所、2024年6月）
欧州サステナビリティ・デューデリジェンスの義務化に関する動向と日本企業への影響　（EY、2022年5月19日）
企業サステナビリティ報告指令（CSRD）投資家に質の高いESGデータを提供するEUサステナブルファイナンス戦略の第一歩　（デロイトトーマツ）

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レベル	詳　　細
規則（Regulation）一次法加盟国に直接適用	規則は、EU加盟国の法令を統一するために制定される法令です。 EU域内の国、企業などを直接規制し、EU加盟各国の国内法よりも優先して適用されます。簡単にいえば、EU域内で統一されたルールが適用され、EU加盟各国で同じ規制内容が適用される状態になります。例）REACH規則、CLP規則、CLP規則、BPR規則
指令（Directive）二次法加盟国の国内法に置き換え適用	指令は、EU加盟国間での規制内容の統一（調整）を目的とする法令です。原則として、通常はEU加盟国へは直接適用されず、国内法への置き換えが必要です。加盟国は指令を、指令で定められた期日までに国内法として制定・改正する必要があります。指令の条件以上の国内法を整備するため、各国間で法令が異なる場合もあります。例）RoHS指令、WEEE指令、ELV指令、WFD指令（廃棄物枠組み指令、水枠組み指令）
決定（Decision）	決定は、EU加盟国内の特定の国、企業、個人などに限定して充てられる法令で、直接拘束されます。一般的法規ではなく、個別的かつ具体的な内容を持つ行政手段といえます。
勧告（Recommendation）	勧告は、EU加盟国や企業などに行為や行動を期待することを欧州委員会が表明するものです。法的拘束力はないものの、事実上、EU加盟国内での法令制定・改正などを促すものとされています。
意見（Opinion）	意見は、特定のテーマについて欧州委員会が意思を表明するもので、法的拘束力はありません。これらの法律は、欧州連合理事会、欧州議会、欧州委員会の3つの主要機関が決定します