EUのRoHS指令に関する最近の動向

～制限物質の追加、適用除外期限など～

2024年8月16日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

2022年2月14日付け本コラム「RoHS指令における銅合金中の鉛含有量の適用除外～2026年7月21日まで延長の見通し～」にて、銅合金中の4%までの鉛含有量の適用除外が2026年7月21日まで認められたことをお伝えしましたが、継続申請をするためには18ヶ月前（2025年1月20日）までの申請が必要です。

従来RoHSの適用除外に関する協議を請け負ってきたコンサルのOeko-Institut e.VのWebサイトには、2022年12月以降、新たな情報は発信されていませんが、EU委員会のWebサイトには、2023年12月7日付けで「Review : Restriction of the use of hazardous substances in electronics（電子機器における有害物質の使用制限の見直し）」として、RoHS指令の改正が公表されました。これは、まだ決定ではありませんが、今後の方向性を示すものとして重要だと思われますので、今回はRoHS指令に関する現在までの流れと、この報告書の概要を示したいと思います。

2.　RoHS指令に関する現在までの流れ

※以下、米国の銅開発協会の資料などを参照しながら、概要を記します。

（1）RoHS I（非公式な呼称で初期4物質制限）

RoHS指令（Restriction of Hazardous Substances）とは、EU指令2002/95/ECに基づき、2003年にEUで実施された指令（指令とはEU加盟国に対して指令に対応する国内法を整備するように要請するEU法）で、特定の種類の電気・電子機器に含まれる鉛、カドミウム、水銀、六価クロムの含有量を制限します。鉛の制限値は0.1重量％ですが、現在は適用除外が認められており、銅合金の含有量は4%以下となっています。
実際には2006年7月1日以降に上市された電気・電子機器から有効となりました。

（2）RoHS指令の規制を受ける企業

EU加盟国の国内で電気・電子機器を販売する事業者（再販業者、販売業者、組立業者含む）で、RoHS指令で制限されている材料を使用している事業者。
日本企業の場合、日本国内では制限を受けませんが、EU域内に輸出する企業は影響を受けます。

（3）RoHS II（非公式な呼称で第1回制限物質追加）

2008年、EUはRoHSの改訂に着手しました。このプロセスは2011年に完了し、指令2011/65/EU（非公式にはRoHS IIとして知られている）が採択され、2種類の難燃剤（ポリ臭化ビフェニル（PBB）、ポリ臭化ジフェニルエーテル（PBDE））が制限物質として追加されました。RoHS IIは2013年1月に発効し、RoHS Iに取って代わりました。政府が自動的に行うことになっていたRoHS Iの4年間の見直しプロセスは廃止されました。その代わり、RoHS IIでは、適用除外を維持したい当事者（つまり産業界）は、期限切れの18ヵ月前に更新申請を行う義務が課されました。

（4）適用除外

適用除外とは、制限物質に指定されたが、制限を回避する技術や代替物質がなく、かつ社会経済的に大きな影響が想定される場合に、制限の免除が与えられる制度です。ただし、4年ごとに見直す事が義務づけられ、技術的または科学的に適用除外の廃止または代替が可能であり、代替による環境、健康、消費者安全への悪影響がその利点を上回らない場合に適用除外は廃止されます。

※銅合金中の鉛含有量4重量％の適用除外6（c）は、2026年7月21日が見直し期限となりますので、更新申請は2025年１月21日までに提出する必要があります。
※現状の適用除外一覧はこちら

（5）改正RoHS Ⅱ（非公式な呼称で第2回制限物質追加）指令2015/863/EU

2019年7月22日に発効し、医療機器、監視・制御ツールは、さらに2年間の猶予が与えられました。
新たに4種類の可塑剤＝フタル酸ビス（DEHP）、フタル酸ジブチル（DBP）、フタル酸ビスブチルベンジル（BBP）、フタル酸ジイソブチル（DIBP）が追加されました。

（6）RoHS III（非公式な呼称で第3回制限物質追加）

9種類の物質を制限物質とすることを検討。

3.　2023年12月7日付けEU委員会報告書によるRoHS指令見直しの方向性

（1）背景と経緯

・欧州委員会は、RoHS指令の簡素化と効率化を目指して、見直しを行っています。
・2023年12月7日に改定の方向性を示す報告書が公開されました。

（2）評価項目

・有効性：RoHS指令が有害物質の削減に貢献しているが、他の法律との影響もあり、定量化は困難。
・効率性：環境と健康に恩恵をもたらしつつ、利害関係者にコストアップの要因にもなっている。
・一貫性：他の規則（REACH規則、エコデザイン指令など）との整合性に課題がある。
・EUの付加価値：公平な競争条件を作り出し、技術革新を促進している。

（3）今後の方向性

・適用除外プロセスの透明性と効率性の向上が必要。
・制限物質リストの見直しと改正のプロセスの改善が求められている。
※EUの規則は、人間の健康と環境を保護し、域内市場の適切な機能を確保するため、電気電子機器における特定の有害物質の使用を制限しています。この取り組みにより、現行の規則が簡素化され、効率が向上し、施行が改善されます。

（参考）RoHS指令の規制対象10物質＋RoHS III候補9物質

施行	規制物質	最大許容濃度	備考
RoHS I（2006年）	鉛	0.1wt%
	水銀	0.1wt%
	カドミウム	0.01wt%
	六価クロム	0.1wt%
RoHS II（2011年）	ポリ臭化ビフェニル（PBB）	0.1wt%	難燃剤
RoHS II（2011年）	ポリ臭化ジフェニルエーテ（PBDE）	0.1wt%	難燃剤
改正RoHS II（2015年）	フタル酸ビス（2-エチルヘキル）（DEHP）	0.1wt%	主にPVC（ポリ塩化ビニル）などの可塑剤
	フタル酸ブチルベンジル（BBP）	0.1wt%
	フタル酸ジブチル（DBP）	0.1wt%
	フタル酸ジイソブチル（DIBP）	0.1wt%
RoHS III（検討中）	三酸化アンチモン		難燃剤
	テトラブロモビスフェノールA （TBBPA）
	クロロアルカン（中鎖塩素化パラフィン）
	ベリリウム		Be-Cu合金高級導電材
	硫酸ニッケル		メッキ用材料
	スルファミン酸ニッケル		メッキ用材料
	リン化インジウム		半導体基板など
	二塩化コバルト		正極材など
	硫酸コバルト		正極材など

4.　まとめ

（1）EUのRoHS指令は2006年の施行から2回の大きな改正が行われ、現在10種類の化学物質群の使用が制限されています（RoHS I、RoHS II、改正RoHS II）。
（2）現在3回目の改正審議が進んでおり、9種類の制限物質が候補になっています。
（3）また今後のRoHS指令のあり方についての議論も進んでいます。
（4）しかしながら、規制によって代替品がなく、社会経済的に被る損害が多い場合には用途ごとの適用除外申請を行うことにより、現在でも多くの適用除外が認められています。
（5）ただし、適用除外は原則4年ごとに期限が切れますので、延長を希望する場合には18ヶ月前までに適用除外延長申請を行う必要があります。具体的な申請書、ガイダンスなどはEU委員会のWebサイトにあります。
（6）ただし、適用除外申請を行う場合は個社で行うには負荷が多すぎるため、工業会単位で行われることが多いようです。
（7）当工業会会員の関心が高い、銅合金中の鉛含有量に関する適用除外は、2026年7月21日に期限を迎えますので、延長申請を行う場合は2025年1月が延長申請書提出期限となります。
（8）最近の傾向として、延長が認められる可能性を高めるためには「用途を欲張らずにできるだけ限定する」ことが有効と思われます。たとえば「ゲート弁の□□」、「蒸気用〇〇弁の▽▽」など。

引用・参考資料

Review : Restriction of the use of hazardous substances in electronics　（EU委員会、2023年12月7日）
Restriction of Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment (RoHS)　（EU委員会）
RoHS – Restriction of Hazardous Substances in Electrical & Electronic Equipment Directive　（ECHA）
Copper & Brass Alloys – RoHS Frequently Asked Questions　（Cupper Development Association Inc.）
Standard application format and guidance document for RoHS exemption requests on the basis of Article 5(8) Directive 2011/65/EU　（Oeko-Institut e.V）
Implementation of the RoHS Directive　（EU委員会）
第62回_RoHS指令の見直しについて　（月刊化学物質管理、2024年3月15日）
RoHS指令における銅合金中の鉛含有量の適用除外～2026年7月21日まで延長の見通し～　（日本バルブ工業会、2022年2月14日）

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