労働安全衛生法の大幅改正

～新たな化学物質規制が導入されました～

2024年6月17日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

2024年4月1日付けで労働安全衛生法の大幅改正が施行されました。今回の改正においては、新たな化学物質規制が基軸として導入されました。今回はその概要について、厚生労働省の資料を基に説明します。

2.　改正の理由

（1）化学物質による休業4日以上の労働災害のうち、特定化学物質障害予防規則等の特別規則の規制対象外の物質による労働災害が約8割。
（2）特定化学物質等に追加されるとその物質の使用をやめ、危険性・有害性を十分に確認、評価せずに規制対象外の物質に変更し、その結果、十分な対策が取られずに労働災害が発生。
（3）企業の規模が小さいほど、法令順守状況が不十分な傾向にあり、労働者の有害作業やラベル・SDS（安全データシート）に対する理解が低い。
（4）特定化学物質障害予防規則等に基づく作業環境測定の結果が、直ちに改善を必要とする第三管理区分と評価された事業場の割合が増加傾向。
（5）化学物質のリスクアセスメントの実施率は50%強（2017年）。実施しない理由は「人材がいない」、「方法が分からない」などが多い。

3.　改正のポイント

3-1.　ラベルとSDSの伝達強化:

リスクアセスメント対象物質について、ラベルとSDS (安全データシート）の伝達が重要となります。
物質の危険性や有害性情報を適切に伝えるため、事業者はラベルとSDSの内容を確認し、労働者に適切に伝達する必要があります。

3-2.　リスクアセスメントの実施と、ばく露低減措置:

リスクアセスメント結果に基づき、労働者がリスクアセスメント対象物に「ばく露される程度」を最小限にするための措置が求められます。
厚生労働大臣が定める物質（濃度基準値設定物質）については、ばく露を基準値以下とすることが義務付けられます。

3-3.　自律的な管理体制の確立:

化学物質を製造・取り扱う労働者に対して、適切な保護具の使用やリスクアセスメントの実施が求められます。
皮膚への障害防止のため、保護具の適切な着用が重要です。

これらの改正により、事業者はより主体的な取り組みが求められ、労働者の安全と健康を守るための対策を適切に実施することが重要です。

4.　改正の概要

この改正では、従来の「法令遵守」から「リスクアセスメントを軸とした自律的管理」へと化学物質管理のあり方が大きく変わりました。以下、厚生労働省のリーフレットより引用します。

ラベル・SDSの伝達や、リスクアセスメントの実施義務対象物質が大幅に増加します。

国によるGHS分類で危険性・有害性が確認された全ての物質が順次対象に追加。

※GHS（Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals）とは、化学品の危険有害性（ハザード）ごとに分類基準及びラベルや安全データシートの内容を調和させ、世界的に統一されたルールとして提供するものです。

リスクアセスメント

リスクアセスメント結果を踏まえ、労働者が「ばく露」される濃度を基準値以下とすることが義務付けられます
厚生労働大臣が定める物質（濃度基準値設定物質）が対象。

化学物質を製造・取り扱う労働者に、適切な保護具を使用させることが求められます
皮膚への刺激性・腐食性・皮膚吸収による健康影響のおそれがないことが明らかな物質以外の全ての物質が対象。

自律的な管理に向けた実施体制の確立が求められます
（化学物質管理者の選任、リスクアセスメント結果等の記録作成・保存等）

SDSの記載項目の追加や、定期確認・更新が必要になります

自立的管理に向けた実施体制の確立が求められます

5.　まとめ

（1）新しい化学物質規制を基軸とする労働安全衛生法の大幅改正が行われ、2024年4月1日付けで施行された。
（2）従来の法律による規制から自社管理者を選任し自立管理を行う方式に転換。
（3）化学物質管理者の新設。業種、規模、量に関わらず、リスクアセスメント対象物を製造、取扱う事業場の全てに選任義務（会社でなく工場や営業所ごとに選任が必要）。
（4）保護具着用管理責任者の新設。リスクアセスメント結果に基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場の全てに選任義務（会社でなく工場や営業所ごとに選任が必要）。
（5）これにより、ラベル・SDS通知、リスクアセスメント実施対象物質が大幅に増加。改正前=674物質、改正後＝約2,900物質（以後新規追加あり）。
（6）健康診断も変更。改正前は対象外だった事業場も対象になる可能性がある。労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付の義務化対象物質リストは以下参照（厚生労働省/化学物質による労働災害防止のための新たな規制について～労働安全衛生規則等の一部を改正する省令（令和4年厚生労働省令第91号（令和4年5月31日公布））等の内容～中の「対象物質の一覧」より）

※上記一覧には、令和7年3月31日以前からラベル表示・SDS交付の義務対象物質となっている物質を含みます。

引用・参考資料

職場における新たな化学物質規制が導入されます　（厚生労働省、2023年5月8日）
化学物質による労働災害防止のための新たな規制について　（厚生労働省、2022年5月31日）
労働安全衛生法の新たな化学物質規制について～ラベル・SDS・リスクアセスメントを中心に　（厚生労働省、2023年2月）
ケミガイド　（厚生労働省）
ケミサポ「職場の化学物質管理が変わります」　（厚生労働省）
リスクアセスメント対象物健康診断のしくみが始まります　（厚生労働省）
リスクアセスメント対象物健康診断に関するQ＆A　（厚生労働省、2024年3月28日）
化学物質による労働災害防止のための新たな規制について～労働安全衛生規則等の一部を改正する省令（令和4年厚生労働省令第91号（令和4年5月31日公布））等の内容～　（厚生労働省）

注意

無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。
本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。
英文による引用・参考資料部分においては、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。