EUにおける広範囲PFAS規制に関する情報　#1

～提案当局（5ヶ国）による評価の更新方法を説明～

2024年5月14日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

ECHA（欧州化学品庁）は、2024年4月17日付けECHA weeklyに、“PFAS restriction proposal: National authorities share how they are updating their assessment”（PFAS規制案：各国当局が評価の更新方法を説明）と題し、「（本規制の提案国である）ドイツ、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの各当局は、6ヶ月間の協議から得られた情報をどのように利用し、最初の規制案を更新しているかを説明している。リスクアセスメント委員会（RAC）と社会経済分析委員会（SEAC）は、更新された報告書に基づいて意見をまとめた」とする声明を出しました。当該報告書（タイトルは、“現段階における「PFAS規制提案書」に対する規制案提出者の継続的な役割”）の本文はドイツ語ですが、英訳部分がありますので、これを最新情報として紹介したいと思います。

2.　報告書の内容

PFAS制限提案を作成した5つの国家当局が、評価を更新するための協議（パブコメの内容）からの情報をどのように利用しているかを以下のように説明しています。

ECHAは、その2つの科学委員会がパーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質（PFAS）の制限案の評価をどのように進めるかについて概説した。同庁のリスク評価科学委員会（RAC）と社会経済分析科学委員会（SEAC）は、一連の会議を通じて提案された制限案を評価する予定で、それぞれの委員会は提案の影響を受ける異なる部門に焦点を当てている。
ECHAの評価と並行して、提案書を作成した5つの国家当局（オランダ、ドイツ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー）は、2023年3月22日から9月25日まで行われた6ヶ月間の協議で寄せられた前例のない数のコメント（5,642件、10万ページ以上）を考慮し、規制提案の根拠となった評価を更新している。
これらのコメントには、EUおよび欧州経済領域（EEA）におけるPFASの用途に関する広範な情報と、代替物質の適合性および規制案の社会経済的影響に関する情報が含まれていた。PFAS類に関する規制案が、入手可能な最善の情報に基づくものであるか確認し、これらのコメントと提供された裏付け情報が非常に重要である。寄せられたコメントの数が膨大なため、評価の更新には時間がかかり、特に最も多くのコメントが寄せられたPFASの用途については時間がかかる見通し。
※具体的には、各セクターについて、各国当局の（対応）は以下の通りである：

最初の報告書では評価されなかったPFASの用途を特定し、必要に応じてこれらの用途を既存のセクター評価に組み込んだり、新たなセクターを作ったりする；
提案書提出後の他の関連 EU 法規の変更、例えば F-ガス規制の更新が、REACH 制限文書にどのような影響/相互作用を与えるかを検討する；
提案された適用除外及び経過措置期間の妥当性を検討するため、PFASの代替物質について提供された情報を評価する（適用除外は追加、修正又は削除される可能性があり、一方、経過措置期間は増加又は短縮される可能性がある）；
PFASの特定されたリスクに対処するための（ライフサイクル全体にわたる）禁止以外の制限オプションの適切性の評価；
社会経済影響評価を更新し、政策立案者が十分な情報に基づいた政策選択を行えるよう、検討された様々な制限オプション間のトレードオフを明確に提示する。

さらに、5ヶ国の当局は、PFASのライフサイクル全般にわたる危険性とリスクについて、コンサルテーション（パブコメ）で提供された情報も検討する。

このプロセスにより、最初に提出された提案書の更新が行われ、ECHAの2つの科学委員会で評価される。
5ヶ国の当局は、評価の一貫性と質を確保しつつ、可能な限り短期間でこれらの更新を行うことを約束する。
その目的は、PFASグループに関する質の高い科学的根拠に基づく規制の意思決定を支援することに変わりはない。

図1　REACH規則への規制提案と協議フロー概念（筆者作成）

3.　RAC及びSEACの協議状況

RACは2024年3月11日～14日に、SEACは2024年3月12日～15日の各々委員会を開催しました。

SEACは未だ議事録を公開していませんが、RACは議事録を公開していますので、以下RACの議事録RAC68に基づき概略を示します。RACにおいては、非常に多くのテーマがあり、ユニバーサルPFAS（UPFAS）については「附属書XVに関する事項」にて協議が行われました。

【以下、RACの議事録より】

テーマ：制限附属書XV。ユニバーサル・パーフルオロアルキル及びポリフルオロアルキル物質（UPFAS）に関しての消費者混合物、化粧品、スキーワックスの危険性に焦点を当てた次回総会での議論と意見書草案に関する概要

議長は、デンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの文書提出者代表、多くの関係業界団体のオブザーバー、専門家と協議を行った。提案書類は2023年1月に提出され、PFASの製造、上市、使用を制限すること、すなわちユニバーサルPFAS（UPFAS）を提案している。PFASのすべての用途がこの制限提案の対象となる。
PFASのすべての用途は、消火用発泡体におけるPFASの使用を除き、この制限提案の対象となる。
EuChems（EU化学協会）、CEFIC（欧州化学工業連盟）、EEB、Eurometaux（欧州非鉄金属業協会）、FEC（Federation of the European Cookware, Cutlery and Houseware Industries）のオブザーバーとその同行専門家が参加した、MedTech Europe（欧州医療機器工業会）、Plastics Recyclers Europe（欧州プラスチック・リサイクル協会）、Plastics Europe（欧州プラスチック工業会）のオブザーバーは、ハザードアセスメントとリスク特性評価、およびセクター固有の要素（ハザードアセスメントとリスク特性評価に関連する）に関する多くの問題についてコメントした。
ハザードアセスメントとリスク特性評価、および（一般消費者用途とスキーワックスに関連する）セクター特有の要素についてコメントした。

RACは、3月4日に開催された制限作業部会からの物質範囲、危険性、消費者混合物、化粧品、スキーワックスに関するセクター別要素に関する勧告を支持し、暫定的に同意した。
さらに、RACはハザード評価についてさらに議論を重ね、暫定的に合意した：

RAC-68（および RAC-68 REST WG）での議論結果、および RAC 協議中に提出された RAC メンバーの書面コメントに基づき、RAC-68 REST WG で提出された文書提出者の情報を更新された背景文書で扱う。
それからRAC-68（および RAC-68 REST WG）での議論結果、および RAC 協議中に提出された RAC メンバーの書面コメントに基づく。

非重合体PFASはヒトに生物学的に利用される可能性が高い。毒性はPFASによって異なり、低いものもある。高分子PFASの毒性に関する証拠は限られている。
RACは、書類提出者の以下の分析に同意した。
フッ素系ガスの地球温暖化係数
フッ素樹脂は難分解性だが、一般に移動性や生物蓄積性はない。RACは、マイクロサイズやナノサイズのフッ素樹脂粒子が生物学的に利用可能になり、（環境）毒性学的影響をもたらす可能性があると指摘した。しかし、これらの影響に関するデータは限られている。フッ素樹脂のライフサイクル全体を考慮し、特にフッ素樹脂の製造と廃棄段階でのリスクを評価する必要がある。
フッ素系ガスの（環境）毒性はさまざまだが、フッ素系ガス（またはその分解生成物）は非常に難分解性で、移動性が高く、長距離輸送の可能性がある。一部の例外を除き、地球温暖化係数も高い。フッ素系ガスの大気中分解は、地球温暖化係数の上昇に寄与している。トリフルオロ酢酸（TFA）レベルの上昇に寄与している。

さらにRACは、報告者たちのリスクの特徴づけに対するアプローチを支持した：

PFASの非常に高い難分解性、環境中濃度の上昇、偏在性、およびさまざまなPFASの悪影響に関する入手可能な（限定的ではあるが）証拠を考慮し、RACは、環境への放出をもたらすPFASの使用は適切に管理されておらず、対処が必要な潜在的な健康または環境リスクをもたらすと結論づけた。
RACは、（PTFEのような）高分子量フッ素樹脂に関する主な懸念は、製造・加工段階と使用済みサイクルにおけるフッ素系ガスを含む非重合体PFASの排出であることに同意した。さらに、フッ素樹脂は環境中で微粒子やナノ粒子を形成する可能性がある。そのため、RACは、ライフサイクル全体を考慮して、そのリスクを評価する必要があると考えた。

提案者は、書類提出者から提供された情報を引き続き検討する。
提案者は、背景文書の更新において、書類提出者から提供された情報を引き続き考慮する。
適宜、意見書草案を更新する。

SECRは、以下の通り、今後の議論を保留する：

2024年6月のRAC-69会合：

金属めっきおよび金属製品の製造
危険有害性と適用範囲（関連する場合）に関する追加議論
化粧品、消費者混合物、スキーワックスに関する意見の更新

2024年9月にRAC-70を開催：

繊維製品、椅子張り、皮革、アパレル、カーペット（TULAC）；
食品接触材料と包装
石油および鉱業

各委員会の計画に関する詳細は、作業が進むにつれて発表される。この情報は、委員会の会合と連動して伝達される。

4.　まとめ

＜提案国の報告＞

今回のPFS規制提案に対して2023年3月22日から9月25日の協議期間中に寄せられたパブリックコメントは過去に類を見ないもので、5,642件、10万ページ以上に及んだ。これを考慮して規制提案の根拠となった評価を更新している。
上記パブリックコメントにはEUおよび欧州経済領域（EEA）におけるPFASの用途に関する広範な情報と、代替物質の適合性および規制案の社会経済的影響に関する情報が含まれていた。
寄せられたパブリックコメントの情報が最新で確実なものか、それを裏付ける情報を慎重に得ることが重要。ただし、寄せられた情報量が膨大なため、評価の更新に時間がかかる。特に用途に関する情報が多く、提案時には想定していなかったものが多く時間が掛かる見込み。提案時に想定していなかった用途は既存のセクターに組み込む、または新規のセクターを作って組み込む。
他のEU法規制の改定に対する整合性があるかの確認（例：F－ガス規制）。
寄せられた適用除外及び経過措置期間の妥当性、代替物質に関する情報の正当性を検証する。
PFASのライフサイクル全般にわたる危険性とリスクについて、コンサルテーションで提供された情報も検討する。
PFASグループに関する質の高い科学的根拠に基づく規制の意思決定を支援することに変わりはない。

＜RAC及びSEACの3月度協議概要＞

RACでは当該PFAS規制をUniversal per- and polyfluoroalkyl substances（UPFAS）と呼称している。本コラムにおいても以降は「UPFAS」と呼ぶ。
RACは2024年3月11日～14日に、SEACは2024年3月12日～15日に各々委員会を開催したが、SEACの議事録はまだ公開されていない（※2024年5月8日現在）。
RACの議事録では、提案国の代表のほかに、多くの関連業界の代表や専門家などもオブザーバーとして参加し、注目される点としてPFASは難分解性であるが毒性は限定的である。フッ素樹脂は難分解性だが、一般に移動性や生物蓄積性はない。但しマイクロプラスチック化した場合などを含め、製造段階と廃棄段階を含めたライフサイクルでの評価が重要。
次回の委員会は2024年6月。

引用・参考資料

PFAS restriction proposal: National authorities share how they are updating their assessment　（ECHA weekly、2024年4月17日）
Next steps for PFAS restriction proposal　（ECHA、2024年3月13日）
Rolle und Aktivitäten der Dossier Submitter in der derzeitigen Phase des Beschränkungsverfahrens zu PFAS　（REACH – CLP – Biozid Helpdisk） ※本文はドイツ語ですが、英語版も含まれています。
Submitted restrictions under consideration　（ECHA）
Minutes of the 67th Meeting of the Committee for Risk Assessment　（ECHA、2024年1月22日）
Minutes of the 68th Meeting of the Committee for Risk Assessment (RAC-68)　（ECHA、2024年3月14日）
Highlights from March RAC and SEAC meetings　（ECHA, All News、2024年3月21日）

注意

無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。
本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。
英文による引用・参考資料部分においては、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。

EUにおける広範囲PFAS規制に関する情報 #1

～提案当局（5ヶ国）による評価の更新方法を説明～

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