TNFDが企業の情報開示の枠組みを提言

～企業などの団体に自然保護活動の情報開示を要求～

2023年12月11日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

2023年9月18日、TNFD（自然関連財務情報開示タスクフォース）は、「企業などの団体の活動が気候変動だけではなく、生物多様性や自然全般に対して影響を与える可能性があり、自らがそのことを意識し、機会と脅威などを把握し、どのような対策を取っているか」について開示することが必要であるとして、その報告の枠組みについて最終版を公開しました。

TNFDについては、2020年12月17日付け本コラム「自然関連財務情報開示タスクフォース（TNFD）が発足します　～TCFDの自然版、「TNFD」とは～」にてその発足と目的などを紹介していますので参照願います。

図1　TCFDとTNFDの背景（筆者作成）

企業に気候変動対策に関する情報開示を求めるTCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）に賛同する企業が増えていますが、TNFD（自然関連財務情報開始タスクフォース）は、企業の活動によって影響を受ける環境は気候変動だけではなく、生物多様性、砂漠化や森林の減少、海洋汚染などの自然の崩壊、さらにはこの3年間に世界中に広まった新型コロナ感染症のような人獣共通感染症など多くのものがあり、企業はこれらの環境への影響も気候変動と同様に対応する必要があると訴えています。

TNFDはこれら企業活動による自然環境への対応に関する情報開示の枠組みについて、過去数回ドラフトを公開してきましたが、今回ニューヨーク証券取引所にて「最終版」を公開しましたので、その概要について解説したいと思います。

2.　TNFD （自然関連財務情報開始タスクフォース）とは

TNFDは、図1に示すように、UNDP（国連開発計画）、UNEPFI（国連環境計画金融イニシアティブ）など国連の機関が中心となり2022年に設立されました。

TNFDは自身のウェブサイトにおいて、以下のように自己紹介しています。

私たちは市場主導、科学に基づいた、政府支援による世界的なイニシアティブです。
私たちの推奨事項とガイダンスは、進化する自然関連の依存関係、影響、リスク、機会に対処するためのリスク管理と開示の枠組みを組織に提供します。
この推奨事項は、資本提供者やその他の利害関係者に「意思決定に役立つ情報を提供すること」を目的としています。一方、追加ガイダンスは、組織が自然関連の問題を特定し、評価するのに役立ちます。

3.　TNFD提言の概要

今回公開されたドラフト最終版におけるTNFD提言の概要は次のとおりです。

TNFDの提言はあらゆる規模の企業と金融機関に、自然関連課題を特定し、評価し、管理し、そして適切な場合は開示するためのリスク管理と開示の枠組みを提供する。
自然はもはや企業の社会的責任の問題ではなく、気候変動と並ぶ中核的かつ戦略的なリスク管理の問題である。
2022年3月、125を超える中央銀行と金融監督当局のネットワークである「金融システムのグリーン化のためのネットワーク（NGFS）」は、「自然関連リスクはマクロ経済に重大な影響を及ぼす可能性があり、これらの影響を考慮し、緩和し、適応することができないことは、個々の金融機関だけでなく、金融の安定性にとってもリスクの源泉となる」と結論づけた。

以下、主にTNFDの提言のエグゼクティブサマリー、バージョン1.0日本語版より抜粋して示します。

表1　TNFDの提言と開示提言

ガバナンス	戦略	リスクとインパクトの管理	測定指標とターゲット
自然関連の依存、インパクト、リスク、機会に関する組織のガバナンスを開示する。	自然関連の依存、インパクト、リスク、機会が、組織の事業、戦略、財務計画に与える実際および潜在的なインパクトを、そのような情報が重要である場合に開示する。	組織が自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を特定し、評価し、優先付けし、監視するために使用するプロセスを記載する。	自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を評価し、管理するために使用される測定指標とターゲットを開示する。
開示提言	開示提言	開示提言	開示提言
自然関連の依存、インパクト、リスク、機会に関する取締役会の監督について説明する。自然関連の依存、インパクト、リスク、機会の評価と管理における経営者の役割について説明する。自然関連の依存、インパクト、リスク、機会に対する組織の評価と対応において、先住民族、地域社会、影響を受けるステークホルダー、その他のステークホルダーに関する組織の人権方針とエンゲージメント活動、および取締役会と経営陣による監督について説明する。	組織が短期、中期、長期にわたって特定した、自然関連の依存、インパクト、リスク、機会について説明する。自然関連の依存、インパクト、リスク、機会が、組織のビジネスモデル、バリューチェーン、戦略、財務計画に与えた影響、および移行計画や分析について説明する。自然関連のリスクと機会に対する組織の戦略のレジリエンスについて、さまざまなシナリオを考慮して説明する。組織の直接操業において、および可能な場合は優先地域に関する基準を満たす上流と下流のバリューチェーンにおいて、資産や活動がある場所を開示する。	直接操業における自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を特定し、評価し、優先付けするための組織のプロセスを説明する。上流と下流のバリューチェーンにおける自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を特定し、評価し、優先付けするための組織のプロセスを説明する。自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を管理するための組織のプロセスを説明する。自然関連リスクの特定、評価、管理のプロセスが、組織全体のリスク管理にどのように組み込まれているかについて説明する。	組織が戦略およびリスク管理プロセスに沿って、重大な自然関連リスクと機会を評価し、管理するために使用している測定指標を開示する。自然に対する依存とインパクトを評価し、管理するために組織が使用する測定指標を開示する。組織が自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を管理するために使用しているターゲットと目標、それらと照合した組織のパフォーマンスを記載する。

4.　TNFD推奨事項を開始するためには

組織が TNFD 推奨事項の導入を開始するのに役立つ実践的なガイドとリソース一式は以下に示されています（資料はTNFD推奨事項の開始からダウンロードできます）。

すべての組織は異なるので、TNFD推奨事項を採用するための独自の道筋がそれぞれにあります。

組織が開始できるよう、さまざまなパートナー組織と協力して簡潔な入門ガイドを作成しました。

これは、組織が自然関連の問題の特定、評価、管理、開示を開始するのに役立つ一連の追加ガイダンス、便利なツール、能力構築資料と併せて使用できます。

TNDF推奨事項を開始するためには、以下の6つの方法が紹介されています。※パネルをクリックすると、出典元のそれぞれの方法紹介ページに移動します。

5.　まとめ

（1） UNDP（国連開発計画）、UNEPFI（国連環境計画金融イニシアティブ）など国連の機関が中心となり2022年に設立されたTNDF（自然関連財務情報開始タスクフォース）は、企業などの活動が気候変動だけではなく、生物多様性、森林の減少、砂漠化、海洋汚染、水不足、新型コロナウイルスの流行など様々な地球環境に影響を与えていることを認識し、そのことをどのように認識し、対策を打っているかなどについて気象変動と同様に非財務情報として開示するべきと主張。これらの情報は金融機関や機関投資家も興味を示している。
（2）地球上の様々な自然環境9つ（気候変動、生物圏の一体性、生物地球化学的循環（窒素・リン）、海洋酸性化、土地利用の変化、淡水利用、オゾンホール、大気エアロゾル粒子、新規化学物質による汚染）のうち、6つがプラネタリーバウンダリー（地球の限界）に対する安全圏を越えている。
（3）今回、これら気象変動以外の非財務情報開示に関して枠組みを提言した。
（4） TNFD提言に賛同し、行動を起こすために6つの入口を準備した。種々の提案は全く新規のものばかりではなく、TCFD（気候関連財務情報開示タスクフォース）とISSB（国際サステナビリティ基準審議会）、生物多様性条約、CDP、IPBES（生物多様性及び生態系サービスに関する政府間プラットフォーム）、IPCC（気候変動に関する政府間パネル）など国際的な組織の活動と整合性があり、企業が大きな負担を負うことなくスタートできるように仕組んだ。
（5）現在、企業活動において、気象変動に対応するための脱炭素経営が推進されているが、今回TNFDが提案したように、企業活動によって多くの地球環境が影響を受けていることを自覚して、将来的に気象変動と同様の対応が求められることになると思われる。

引用・参考資料

TNFDウェブサイト（TNFD）
TNFDの提言のエグゼクティブサマリー、バージョン1.0日本語版（TNFD、2023年9月18日）
TNFDの枠組みを公表、企業に自然のリスクや機会の開示求める（日経ESG、2023年10月5日）
859. 9つのプラネタリーバウンダリーのうち6つが危険領域に　（国立研究開発法人国際農林水産業研究センター）
自然関連財務情報開示タスクフォース（TNFD）が発足します～TCFDの自然版、「TNFD」とは～　（日本バルブ工業会、2020年12月17日）

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