カーボンニュートラルへの道　#7

～政府が進めるGX政策とは～

2023年1月18日

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1.　はじめに

2022年7月27日に最初に開催された「GX（グリーントランスフォーメーション）実行会議」は、12月22日までに5回開催され、12月23日付けで内閣官房より「GX実現に向けた基本方針」に対する意見募集が開始されました。

経済産業省は2022年4月27日付けで「GXリーグについて」を発表し、また環境省は10月18日付けで脱炭素ポータルにおいてGXについての記載を行っています。いずれもGX実行会議に関係した内容となっています。

今回は、岸田首相が先頭に立って進めている、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた工程表とも言えるGX 実現に向けた基本方針～今後10 年を見据えたロードマップ～について、解説してみたいと思います。

2.　GX（グリーントランフォーメーション）とは

まずは、経済産業省、環境省、内閣官房など公的機関の資料、及び、マスコミの報道資料などから、GXの概要、目的、具体的な施策などについて解説します。
環境省は、「産業革命以来の化石燃料中心の経済・社会、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革、すなわち、GX（グリーントランスフォーメーション）を実行するべく、必要な施策を検討するため、GX実行会議を官邸に設置しました。（令和4年7月27日）」と述べています。

また、経済産業省は「GXリーグについて」において、「趣旨は2050年のカーボンニュートラル実現を見据えて、経済と環境の好循環を作り出す観点から、脱炭素にいち早く移行するための挑戦を行い、国際ビジネスで勝てる企業群を生み出すための産官学の仕組み」と記しています。この趣旨に賛同し、参加する企業群（2022年2月1日時点で440社、日本の温室効果ガス排出量の28%）をGXリーグと定義しており、2023年4月以降に本格稼働を予定しているとしています。

図1　GX（グリーントランスフォーメーション）リーグの概要
（出典：経済産業省）

過去、幾度となくエネルギーの安定供給の危機に見舞われてきた我国にとって、産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する、「グリーントランスフォーメーション」（以下「GX」（Green Transformation）という。）は、戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味する。（経済産業省「GX実現に向けた基本方針」）

3.　GX実現に向けた基本方針の骨子

2023年12月23日付けで内閣官房が公表した「GX実現に向けた基本方針」からの抜粋を図2に示します。

図2　内閣官房「GX実現に向けた基本方針」の骨子
（筆者作成）

特徴的なポイントとしては、原子力発電所の再稼働、稼働時間の上限延長、次世代原子炉などが政策としては目を引きます。今後10年間で150兆円の投資を行うための、カーボンプライシングをもう少し詳しく解説したいと思います。

4.　カーボンプライシングとは

政府として2050年のカーボンニュートラル達成のため、金融機関を含めた事業者や、さまざまな団体、国民などに対して自主的な温室効果ガス排出量削減を促し、種々の補助金・支援政策、優遇税制、投資の誘導などを進めています。
上述したGXリーグに賛同し行動しようとしている企業の温室効果ガス排出量は日本全体の28％であり、家庭部門等への電力供給に伴う排出を加味すると約40％強が見込めます。また、さらに我国の雇用の70％を占める中小企業が排出する温室効果ガスは約20％と推定されており、中堅・中小企業による排出の削減が重要と位置付けられています。
この状況に対応し、温室効果ガス排出者の行動を変容させる政策の1つに、炭素に価格を付けるカーボンプライシングがあります。カーボンプライシングには大別すると以下の5つがあります。

図3　カーボンプライシングのおおまかな類型
（出典：環境省資料を筆者が編集）

政府としては、GXリーグのように企業の自主的な活動を促す一方で、化石燃料の輸入業者や電力事業者のCO2排出量に課税する方向を狙っているものと思われます。岸田首相は「企業の経済活動に配慮し、当初の負担は低く抑えて段階的に価格を引き上げていく方針」とし、また「「炭素に対する賦課金と排出量取引市場の双方を組み合わせるハイブリッド型を検討する」とも発言しています。

いずれにしても、企業は今後異次元の「化石エネルギーの消費抑制」を行わない限り、温室効果ガス排出量に対応して間接的または直接的な賦課金を支払うことになることが予想されます。さらには、目標以上の温室効果ガス排出削減が達成されれば、これをクレジットとして売却することも可能であり、一刻も早くカーボンニュートラルに向けた脱炭素経営に取組む必要があるといえます。

図4　GXリーグにおけるカーボンクレジット市場イメージ
（出典：経済産業省、2022-4-27）

5.　まとめ

（1）2022年12月23日付けで内閣官房より、カーボンニュートラルに向けた今後10年を見据えたロードマップと言える「GX実現に向けた基本方針」に対する意見募集が行われた（意見提出期限は2023年1月22日）。
（2）目新しい事項としては、原子力発電所の最大限利用、廃炉跡地の次世代型原子炉建設、10年間150兆円の投資などがあるが、カーボンプライシングの考えが強調されている。
（3）カーボンプライシングにはいくつかの方式があり、図2に示した。
（4）政府はカーボンプライシングとしてCO2排出量に応じた課税と、排出権取引（排出量削減目標以上に達成した企業はその分をクレジット化して販売、目標未達の企業がその分を買う）の2つの方法の導入を示唆している。
（5）排出量に伴う課税は、化石燃料輸入・販売業者や電力事業者に割当てる計画であるが、間接的に個々の企業に対して価格に上乗せされてくる。
（6）クレジット取引にしても、目標が達成できない場合は、他の企業から排出権を購入する必要が出てくる。
（7）すなわち、企業はカーボンニュートラルに向けた脱炭素経営に一刻も早く取組み、加速しない限り、温室効果ガス排出に伴う賦課金を支払うことになると予想される。
（8）このコラムが脱炭素経営を始める、または、加速する契機になることを期待したい。

引用・参考資料

GX実行会議　（内閣官房、2022-07-27～2022-11-29）
GX 実現に向けた基本方針～今後 10 年を見据えたロードマップ～　（内閣官房/GX実行会議、2022-12-22）
カーボンプライシングの活用に関する小委員会/議事・配布資料など　（環境省、2018～2022年）
カーボンプライシング　（環境省）
インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン～企業の脱炭素・低炭素投資の推進に向けて～　（環境省、2022-3）
GXリーグについて　（経済産業省、2022-04-27）
GX（グリーントランスフォーメーション）　（脱炭素ポータル/環境省、2022-10-18）
GXを実現するための政策イニシアティブの具体化について　（経済産業省/クリーンエネルギー戦略検討合同会合事務局、2022-11-24）
来年度から本格稼働するGXリーグにおける排出量取引の考え方について　（GXリーグ設立準備事務局、2022-09-06）
GXリーグの取組について　（東京証券取引所/経済産業省、2022-06）
二酸化炭素の「排出量取引」2026年度に本格稼働へ経産省案　（NHK、2022-12-13）
炭素価格付け、段階的に導入＝企業の負担増に配慮―岸田首相「次回、10年間の工程表」・実行会議　（時事通信、2022-10-26）

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