カーボンニュートラルへの道　#6

～中長期排出削減目標の設定～

2022年11月14日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

1.　はじめに

企業がカーボンニュートラルを目指して脱炭素経営を進めて行くためには、まず自社の事業活動による温室効果ガス排出量（Scope1、Scope2、Scope3）の算定を行った上で、ホットスポットを見つけて中長期排出量削減目標を定め、具体的な行動計画を策定する必要があります。

その場合、個々の企業が独自の手法で目標や計画の策定を行うのではなく、国際的に認められた手法に従って行うことによって、投資家や金融機関、その他のステークホルダーなど第三者に対して公平な情報を提供し評価を受けることができます。

主な脱炭素経営取組・イニシアティブにはSBT、RE100、WMBなどがあり、今回はこれらの概要について説明します。

SBTは大企業版だけではなく、要件の簡単な中小企業版も用意されており、国内で認定を受けている企業も大企業よりも中小企業の方が多くなってきています。RE100についても、参加要件の簡易で国内で運用されている「再エネ100宣言RE Action」があります。

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2.　中長期排出削減目標設定に関する主なイニシアティブについて

以下、環境省・経済産業省の資料を引用して解説します。

2-1.　SBTとは

狙い
SBT （Science Based Targets）は、パリ協定（世界の気温上昇を産業革命前より2℃を十分に下回る水準＝Well Below 2℃に抑え、また1.5℃に抑えることを目指すもの）が求める水準と整合した、5年～15年先を目標年として企業が設定する、温室効果ガス排出削減目標のことで、WMB：We Mean Business（気候変動対応を推進する国際機関やNGOなどが構成メンバーとなって2014年に設立されたグローバルな非営利団体））の取組の1つです。

運営母体
SBTは以下の4団体により共同運営されています。

CDP（Carbon Disclosure Project）　企業や自治体の活動が環境に与える影響についての情報開示システムを運用するイギリスの非営利団体。
UNGC（国連グローバル・コンパクト）　1999年の世界経済フォーラムにおいて、当時国連事務総長であったコフィー・アナンが企業に対して提唱したイニシアティブ。企業に対し、人権・労働権・環境・腐敗防止に関する10原則を順守し実践するよう要請。
WRI（World Resources Institute：世界資源研究所）　1982年に設立された世界的な研究非営利団体。食品、森林、水、エネルギー、都市、気候、海洋の7つの分野に焦点を当てて活動。
WWF（World Wildlife Fund）　世界自然保護基金：世界自然保護基金は、世界最大規模の国際NGOの自然環境保護団体。

SBTに取組むメリット
SBTは「パリ協定に整合する持続可能な企業であること」をステークホルダーに対して分かりやすくアピールできます。SBTに取り組むメリットを図1に、要件を図2に示します。

図1　SBTに取組むメリット（出典：環境省）

図2　SBTの要件（一部）（出典：環境省）

参加要件を満たせない中小企業に対しては、図3に示す中小企業版SBTがあります。

図3　通常SBTと中小企業版SBTの概要（出典：環境省）

SBTに関する詳細は、SBTウェブサイト（中小企業（SME）向けの SBTi ターゲット検証アプリケーション）を参照してください。

2-2.　RE100とは

狙い
RE100は、事業を100％再エネ電力で賄うことを目標とする取組みのことです。2014年に結成した、事業を100%再エネ電力で賄うことを目標とする企業連合です。

運営母体
CDPとのパートナーシップのもと、The Climate Groupが運営しています。
The Climate Groupは世界中の企業や政府の指導者と協力して気候変動に取り組む非営利団体。グループは、再生可能エネルギーと温室効果ガス排出量の削減に焦点を当てたプログラムを実施。 2004 年に発足したこの組織は、英国、米国、インドにオフィスを構え、グローバルに事業を展開。日本ではJCLP（Japan Climate Leader’s Partnership）が担当。SBT同様We Mean Business（WMB）の取組の1つとして実施。

RE100に取組むメリット
リスク回避・コスト削減・ESG投資の呼び込み・コネクション拡大などが挙げられます。取り組むメリットと要件を図4～図6に示します。

図4　RE100に取組むメリット（出典：環境省）

図5　RE100参加要件1/2　（出典：環境省）

図6　RE100参加要件2/2　（出典：環境省）

参加要件を満たせない企業に対しては、日本版「再エネ100宣言　RE Action」が用意されています。再エネの定義は図7のとおりです。

図7　再エネの定義・上記8種類　（出典：環境省）

2-3.　SBT及びRE100参加方法について

SBTとRE100の取組み手順を図8に示します。各ステップの詳細は環境省資料「中長期排出削減目標等設定マニュアル」を参照ください。

図8　SBT・RE100の取組手順（出典：環境省）

2-4.　SBT及びRE100参加企業

SBT参加企業
2022年3月までの、世界のSBT参加企業数の推移と日本企業数の推移を図9、図10に示します（図中にある「コミット」とは2年以内にSBT認定を取得すると宣言することです）。日本企業は2021年度に69社が認定取得し、認定企業数は世界3位を維持しています。
2022年11月1日現在では、認定企業は世界で1,885社、コミット企業は2,052社まで増加しています。

参加日本企業359社（2022年11月1日現在）
認定取得295社（うち中小企業151社：54.5%）
当工業会会員企業：アズビル、TOTO、ミズタニバルブ工業、水生活製作所、LIXILの5社が参加（2022年10月現在）

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図9　世界のSBT参加企業数推移（出典：環境省）

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図10　日本のSBT参加企業数推移（出典：環境省）

RE100参加企業

参加企業は世界で387社（うち日本企業が75社）
当工業会会員企業：LIXIL、TOTOの2社が参加（2022年10月現在）

図11　世界及び我国のRE100参加企業（出典：環境省及びRE100ウェブサイト）

3.　まとめ

（1）カーボンニュートラルを目指して、脱炭素経営に取組む手順は、自社の事業によって直接的・間接的に排出される温室効果ガスの算定（Scope1, Scope2, Scope3）を行い、自社の排出ホットスポットを見つけ、中長期排出削減目標の設定、行動計画の策定、結果の公表を年次で行うことである。
（2）中長期排出削減目標の設定、行動計画の策定を行うにあたっては、各社が独自に行うのではなく、国際的に認められたルールに従い実施し、その結果を投資家、金融機関、その他のステークホルダーに公表することが重要。
（3）国際的に認められたイニシアティブとしてはSBT （Science Based Targets）、RE100（再エネ100%宣言）がある。SBT及びRE100には参加要件があるが、参加要件を満たせない中小企業版として、SBTでは要件が緩和された中小企業版SBT、RE100では国内で運用されている再エネ100宣言RE Actionがある。
（4）SBT及びRE100ともに年々参加企業が急増しており、SBTは当会会員企業5社（アズビル、TOTO、ミズタニバルブ工業、水生活製作所、LIXIL）が参加、RE100は2社（TOTO、LIXIL）が参加している。（2022年10月末現在）
（5）2022 年 11月 6 日（日）～11 月 18 日（金）エジプトのシャルム・エル・シェイクにてCOP27（第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議）が開催され、事前に各国の排出量削減状況が集計されているが、パリ協定の目標到達にはほど遠い状況にあり、このままでは今世紀末に世界の気温は2.5℃上昇する軌道に乗る可能性があり、さらなる野心的な行動が求められるとしている。

引用・参考資料

グリーン・バリューチェーンプラットフォーム～サプライチェーン排出量算定から脱炭素経営へ～　（環境省・経済産業省）
中長期排出削減目標設定等設定マニュアル　（環境省）
SBT（Science Based Targets）とは︖　（環境省）
RE100とは　（環境省）
We Mean Businessについて　（環境省）
We Mean Businessについて　（環境省）
グリーン・バリューチェーンプラットホーム　（環境省）
中小企業向けSBT　（環境省）
SBT公式ウェブサイト　（SBT）
SBTi Criteria and Recommendations　（SBT、2021年10月）
RE100公式ウェブサイト　（RE100 Climate Group）
WMB公式サイト　（We Mean Business Coalition）
再エネ100宣言RE Action　（再エネ100宣言 RE Action協議会）
中小企業（SME）向けの SBTi ターゲット検証アプリケーション　（SBI）

注意

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