環境省「環境報告ガイドライン2018 年版（案）」を公表

2018年6月18日

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～新たに求められる「環境報告書」の内容とは～

はじめに

環境省は2018年5月8日付けで「環境報告ガイドライン2018年版（案）」を公表するとともに、パブリックコメントの募集を行いました。

21世紀に入り、地球規模での環境問題が顕在化してくると、企業は大手を中心に自社の事業活動に関わる環境負荷の低減活動に自主的に取組むようになってきました。この活動を、自社のブランド力の向上のための活動として捉え、結果を環境報告書として積極的にステークホルダーに公開してきました。

しかし、各社の報告書の形式や報告の項目・内容に統一性がなかったため、環境省が2001年2月に環境報告書作成の手引きとして「環境報告書ガイドライン2000年版」を初めて公開しました。

その後、様々な環境の変化もあり、実情に合わなくなった部分が生じる度に改定が行なわれ、今回4回目の改定が行われることになりました。

過去の環境報告書ガイドラインの改定については、本コラムでも都度解説を行ってきました。

そこで、今回本コラムでは、今までの経緯を振り返るとともに2018年度版の改定ポイントを解説したいと思います。

環境報告書作成の必要性とメリット

現在では民間企業を初めとして、行政の事業部門、独立行政法人など多くの団体が環境報告書を公表していますが、環境省は2007年度版環境報告書ガイドライン公表時に環境報告書作成の目的について「環境への負荷の少ない経済社会の実現のため、事業者の自主的で積極的な環境配慮に対する取組を促進することが環境政策の重要な課題となっています。このためには、事業者が環境報告書を作成・公表し、自らの活動にともなう環境負荷やその低減のための方針、計画、具体的取組等の情報提供を進め、消費者、投資家、取引先、地域住民等のステークホルダーとのコミュニケーションを図ることにより、事業者が事業活動を改善していくとともに、積極的な取組を行う事業者が市場等から適切に評価されるようにすることは大変有効な方策です」と述べています。

また2001年度版の第1章において、環境報告書作成の必要性とメリットについて以下の4項目を挙げています。

（1）事業者が社会に対して開いた窓

環境報告書は、「事業者が、社会に対して開いた窓であり、環境コミュニケーションの重要なツールである」ということができます。外部の利害関係者は、その窓を通して、その事業者が環境問題についてどのように考え、どう対応しようとしているのかを知ることができます。

また、事業者はその窓を通して、第三者が、事業者に何を求め、どう感じているのかを知ることができます。

（2）社会的な説明責任としての環境報告書

社会経済活動の主要な部分を占める事業者は、その事業活動を通じて大きな環境負荷を発生させています。そのため人類共有の財産である「環境」について、どのような環境負荷を発生させ、これをどのように低減しようとしているのか、どのように環境保全への取組を行っているのかなどを、公表・説明する責任（アカウンタビリティ）があると考えられます。

また、製品やサービスの選択、投資先等の選択、さらには事業者評価等において、事業者の環境情報が必要不可欠の要素となってきています。

これらの点から事業者には環境問題に関する「社会的な説明責任がある」と言えます。

（3）事業者自身の環境保全活動推進のツールとしての環境報告書

事業者が環境報告書を作成し、公表することは、外部的な効果やメリットだけでなく、事業者内部においても、様々な、かつ大きな効果やメリットをもたらし、事業者の環境保全への取組そのものを推進することに役立ちます。

（4）環境保全型社会構築のための重要なツールとしての環境報告書

環境報告書の作成・公表の取組を普及することは社会的にも大きな意義があり、以下の4つの観点で、自主的な環境保全活動を推進するための重要なツールとして位置付けられます。

1）環境報告書によって、事業者が取組む方針や目標を社会的に誓約し、その結果を報告する事によって社会から評価される事になるため、目標の達成に責任を持ち、社会的な評価を得ることが出きます。
2）今後は益々ステークホルダーが環境報告書に記載された環境情報を、事業者や製品・サービス選択の判断材料とするようになり、積極的な取組を進めた事業者が正当に評価されるようになり、いわば市場原理の中で公正かつ効果的に取組が進展することも期待されます。また、環境配慮設計を行った証である環境ラベルなども同様な働きをすると思われます。
3）環境報告書の作成は、いい意味で外部の目や同業他社との比較を意識し、より前向きに取組を行っていくことは、環境保全に向けて社会全体の取組が進展することにつながると考えられます。
4）環境報告書の作成・公表は幅広い関係者の間で「環境コミュニケーション」が進むことになり、社会全体の環境意識が向上し、社会全体での取組のレベルアップに役立つことが期待されます。

今回改定の背景

環境省による環境報告書ガイドラインは2000年に初版が公表されて以来、2003年版、2007年版、2012年版と3回の改定が行われ、今回の改定が4回目となります。

今回の改定理由について、環境省は「『環境報告ガイドライン2012年版』が公表されて以降の、SDGsの採択やパリ協定の発効など、持続可能な社会への移行を推進する国際的な枠組の変化を受けた環境情報の開示要請の変化を踏まえ、『環境報告ガイドライン2018年版（案）』を取りまとめました。」と述べています。

2017年11月27日付けの本コラム「CSR経営からSDGs経営へ～より時代を先取りした企業が生き残る時代～」で述べたように、企業の経営が従来のCSRを軸としたものからSDGsを根幹に据えたものへと変化してきていることや、同じく2017年7月26日付け本コラム「2030年温室効果ガス排出量26％削減への道　#6～グローバル企業が次々と打ち出す「ＳＢＴ」とは～」で述べたように、パリ協定に対する企業の自主的なCO2排出量削減活動であるSBTを打ち出すなど、「持続可能な社会への移行」を推進する国際的な枠組が確立し、事業者を取り巻く環境が大きく変化してきたといえます。

そのため環境省としては事業者に対して「単に自らの事業活動に伴う環境負荷低減や環境配慮の取組状況を公表するだけでなく、経営戦略の中でいかに環境課題に取り組んでいくか、将来志向的な報告が求められるようになっています。」と述べています。

このような状況において、環境省が2017年10月1日に設置した「環境報告等ガイドライン改定に関する検討会」おいて検討が続けられてきた結果、今回の改定提案公表となりました。

今回改定のポイント（「環境報告ガイドライン2018 年版（案）」より）

（1）ガイドラインは、国際的な規制・実務動向と整合的な環境報告の枠組みとしています。
（2）先進的な事業者だけでなく、中規模以下の事業者も利用しやすいように、ガイドライン自体はコンパクトに構成し、環境報告を作成する際の手順等を例示した｢作成の手引き｣と、難解な記載事項等を平易に解説した｢解説書｣を併せて作成します。
（3）事業環境が持続可能な社会への移行過程にあることを前提に、環境報告を ESG 報告の枠組みで利用する投資家の情報ニーズに配慮し、従来型の環境マネジメント情報に加えて、事業者の組織体制の健全性（ガバナンス、リスクマネジメント等）や経営の方向性（長期ビジョン、戦略、ビジネスモデル）を示す、将来志向的な非財務情報を記載事項にしています。
（4）「マテリアルバランス」全体を網羅的に報告するのではなく、事業者が｢事業活動が直接的・間接的に環境に与える重要な影響」を自ら判断して、事業者が対応すべき重要な環境課題について報告を求めるように変更しました。
（5）また、事業者が特定した重要な環境課題に関連する財務的影響を報告事項とし、環境会計（「環境会計ガイドライン2005年版」）の環境保全のためのコスト等を貨幣単位で定量的に認識･測定･伝達するという考え方を本ガイドラインに取り込みました。

解説・まとめ

今回改定における大きなポイントは5つですが、従来のガイドラインと比べて大きく改められたのは以下の3つだと言えます。

（1）「従来型の環境マネジメント情報に加えて、事業者の組織体制の健全性（ガバナンス、リスクマネジメント等）や経営の方向性（長期ビジョン、戦略、ビジネスモデル）を示す､将来志向的な非財務情報を報告事項とする」とした点で、環境負荷低減活動を推進する上での、「組織体制や経営の方向性などの背景まで踏み込んで示せ。」としています。

（2）環境問題に積極的に取り組んでいる先進的及び大企業だけでなく、中小企業においても環境報告書の作成に取組み易くするため、記載項目などを示したガイドライン本文自体はコンパクト化し、作成手順を「作成の手引き」と専門用語など難解な部分は「解説書」として別建てにしわかりやすくしました。

（3）重要な環境課題とそれに取組んだ事による財務的な影響を「環境会計」の手法に従って示すことが求められています。
なお、冒頭に述べたようにSDGsの採択、パリ協定の実効など国際的な規制や実務的な変化を意識して作成する事を求めています。

当工業会の会員企業の多くは既に環境報告書を作成し公開していると思われますが、上述したように、事業者が環境報告書を作成する事は、もはや常識化しつつあり、また多くのメリットもありますので、もし未だ作成していない会員企業がありましたら、このような機会を捉えて作成してみては如何でしょうか。

引用・参考資料

「平成29年度　環境報告等ガイドライン改定に関する検討会」（第3回）の開催について　（環境省、2018年2月6日）
環境報告ガイドライン2018年版（案）に対する意見の募集について　（環境省、2018年5月8日）
環境報告ガイドライン2018 年版素案　（環境省、2018年2月22日）
環境報告ガイドライン2018 年版（案）　（環境省、2018年5月1日）
環境報告書ガイドライン（2000年度版）～環境報告書作成のための手引き～　（環境省、2001年2月）
環境報告書ガイドライン（2003年度版）　（環境省、2004年3月）
環境報告ガイドライン　～持続可能な社会をめざして～（2007年版）　（環境省、2007年6月）
環境報告ガイドライン（2012年版）　（環境省、2012年4月）
環境報告書ガイドライン2007年版　（日本バルブ工業会、2007年10月24日）
環境省「環境報告書作成の為の手引き等」を公表～「記載事項等の手引き（第3版）」及び「信頼性向上の手引き（第2版）」の公表について～　（日本バルブ工業会、2014年11月24日）
SDGs（持続可能な開発目標）持続可能な開発のための2030アジェンダ　（外務省）
CSR経営からSDGs経営へ～より時代を先取りした企業が生き残る時代～　（日本バルブ工業会、2017年11月27日）
持続可能な開発目標ガイド（Guide of SDGs）とは～今から2030年へ、世界が目指す17の鍵～　（日本バルブ工業会、2015年11月27日）
2030年温室効果ガス排出量26％削減への道　#6～グローバル企業が次々と打ち出す「ＳＢＴ」とは～　（日本バルブ工業会、2017年7月26日）
環境会計ガイドライン2005年版　（環境省、2005年2月）

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