「REACH規則に関する成形品中の物質に対する要件」の概要（前編）

2018年3月27日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

～ECHAがガイダンス簡易版Ver3.0を公表＃１～

はじめに

欧州化学品庁（ECHA）は2018年1月26日付けでREACH規則におけるガイダンス「成形品中の物質に対する要件」の簡易版（v3.0, 2017年12月作成）」を公開しました。

詳細版は2017年6月28日に公開され、全109ページに及ぶものですが、今回公表された簡易版は全16ページにまとめられたものです。

内容について、筆者の英語翻訳能力と紙面の関係により、2回に分割してお伝えしたいと思います。

主な用語

本コラムでは、REACH規則で用いられる用語を以下の和訳で使用します。

Registration＝登録、Evaluation＝評価、Authorization＝認可、Restriction＝制限、Substances of Very High Concern＝高懸念物質、Substance＝物質、Preparation＝調剤、Article＝成形品、Mixture＝混合物、Object＝対象物、Communication of information＝情報伝達、Notification＝届出

注意

以下の英文からの引用は、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。

本書の目的及び法的注意事項（ECHAより）

本書は、ユーザーがREACH規則に従う際の手助けとなることを目的に制作されています。しかし、法的基準となるのはREACH規則の条文のみであり、本書に含まれる情報が法的な助言を構成するものではないことに注意してください。本書に含まれる情報は、ユーザー個々の責任のもと使用してください。ECHAは、本書に記載されている情報の使用に関して、一切の責任を負いません。

ECHAは、REACHガイダンス文書を業界でよりアクセスしやすくするために、REACHガイダンス文書の「簡易版」を作成しています。短い要約であるため、簡易版ガイダンスの文書には詳細版ガイダンスに含まれるすべての詳細を含むことはできません。したがって、疑義が生じた場合は、詳細版ガイダンスを参照することをお勧めします。

ガイダンス簡易版Ver3.0の和訳

（※今回は1～3.3の仮和訳と図2、表1を掲載しています）
＜目次＞
1.　はじめに
2.　（本書を）理解するための必須事項
2.1　Article（成形品）とは何ですか？
2.2　成形品からの物質の意図された放出とは何ですか？
2.3　Candidate List substances（候補物質リスト）とは何ですか？
3.　REACHの下で物質を含む成形品に対する義務を負う者は誰ですか？
3.1　成形品を製造する企業
3.2　成形品を輸入する企業
3.3　成形品を提供する企業
4.　REACHの下での成形品中のSubstance（物質）に対する義務は何ですか？
4.1　成形品中の候補リストに対する要求
4.1.1　成形品中の物質に関するCommunication of information（情報の伝達）
4.1.2　成形品中の物質のNotification（届出）
4.2　成形品から意図的に放出される物質への要求事項
4.2.1　成形品中の物質の登録（Registration）
5.　成形物中の物質に対する要求事項を特定するための実用的な指針
5.1　Object（対象物）が成形品か否か判断する
5.2　Release（放出）される物質が意図的か否か判断する
5.3　成形品中の候補リスト物質の濃度と生産トン数の決定
5.4　届出義務の免除が適用されるか否か判断する
6.　成形品中の物質に関するCommunication of information（情報を伝達）するための義務を遵守する方法.
7.　さらに詳細なガイダンスを見るための場所

＜図表＞

図1: 複合した対象物の種類
図2: 第7条および第33条に基づく物品中の物質の義務を識別する一般的なプロセス
図3: 対象物が成形品か否かの意思決定を示すフローチャート
表1: 成形品中の物質に対する義務
表2: 候補リスト物質（w / w）の濃度を決定する方法を説明するシナリオ

１．はじめに

この簡易版ガイダンスは、成形品中の物質に適用されるRegulation(EC) No 1907/2006 (REACH Regulation)の規定を手短に説明しています。

この簡易版ガイダンスは、欧州経済圏（EEA、以下「EU」という）で成形品を製造、輸入及び/又は供給する企業の（特に化学物質の規制業務の経験が乏しい）経営者と意思決定者を対象としています。本書を読めば、REACH規則における成形品中の物質に係る義務が明確になり、詳細版ガイダンスを読む必要があるかどうかを判断することができます。

EU域外にある企業は、この簡易版ガイダンスによって、EU域内における成形品の輸入者が履行しなければならない成形品の中の物質の要件を理解することができます。

２．理解するための必須事項

2.1　成形品とは何か？

一般家庭および産業において一般的に使用される製品の大部分は、それ自体が成形品（例えば、一体成形されたプラスチックス製スプーン、射出成型した庭用の椅子など）であるか、または、成形品を組み込んだものです（例えば、ソファ、車両、時計、電子機器など）。REACH規則では、成形品を「生産中に与えられた特別な形状（Shape）、表面（Surface）またはデザイン（Design）が、その化学組成によりも大きく機能を決定する対象物（Object）」と定義しています。

成形品の形状、表面、デザインはその物理的外観を表し、化学的性質以外の属性として理解されます。形状は、深さ、幅、高さなど対象物の3次元形状を意味し、表面は、物体の最外層を意味します。デザインは、安全性、実用性/利便性、耐久性、品質を考慮しながら対象物の目的を最も良く達成できる方法での、「設計要素」の配置または組み合わせを意味します。

成形品の定義における「機能（Function）」という用語は、対象物が使用される本来の目的を意味するものとして解釈されるべきです。この意味において、例えば、プリンタカートリッジの機能は、インク/トナーを紙に付与することであり、電池の機能は電流を供給することにあります。

一体で組み立てられた成形品や結合した成形品は、化学組成よりも機能のためであることが明白な、特別な形状、表面またはデザインを保持するかぎり、または、廃棄物とならないかぎりは、成形品としてあり続けます。

この簡易版ガイダンスと詳細版ガイダンスにおいて、「複雑な対象物(Complex object)」という用語は、複数の成形品で構成された対象物を指します。複雑な対象物では、複数の成形品が様々な方法で結合され、または、組み立てられます。例えば、図1（簡易版ガイダンスのp.5掲載のFigure 1）に示すように、物質/混合物を用いることで、複雑な対象物は機械的に組み立てられたり、結合されたりします。複雑な対象物、それ自体が成形品の定義を満たすかどうかという疑問は成形品の定義に定められる基準に従い、判断されます。

2.2　成形品からの物質の意図された放出とは何か？

物質は、主機能とは直接関係のない付属機能を提供するために、意図的に成形物から放出されることがあります。例えば、香りのする子供のおもちゃは、意図的に物質が放出される成形品です。心地よい香りによって成形品をより魅力的にする目的で、おもちゃに含まれる芳香物質が放出されるからです。

2.3　候補リスト物質とは何か？

候補リスト物質は、人間の健康と環境に非常に深刻な影響を及ぼすことが懸念される物質（SVHCs＝高懸念物質）です。これらの物質は、ECHAウェブサイトで入手可能な「認可のための非常に懸念される物質の候補リスト」（候補リスト）に記載されています。物質は、SVHCであるという基準を満たす正式な手続きに従って合意された後、この候補リストに収載されます。

候補リストに収載されている物質が成形品に含まれている場合、これらの成形品を製造、輸入、供給する企業に追加の義務が課せられる可能性があります。

3.　REACH規則において物質を含む成形品に対する義務を負う者は誰か？

3.1　成形品を製造する企業

成形品の製造方法や上市されているか否かにかわらず、EU域内で成形品を製造する場合は、成形品製造者（article producer）となります。製造プロセスとは無関係に、EU域内で成形品を製造する企業は、成形品に含まれる物質に義務を負うことがあります。

3.2　成形品を輸入する企業

EU域内の企業は、EU域外から成形品を輸入して顧客に提供したり、さらに処理したり、最終使用することができます。これらの企業はまた、EU域内でこれらの製品を製造する企業として、輸入品に含まれる物質に義務を負うことがあります。

3.3　成形品を提供する企業

EUの市場に成形品を上市している企業は、成形品を自ら生産しているのか、又はEU域内・域外から購入しているのかに係らず、成形品中の物質に特定の要件を満たす必要があります。この点に関して、小売業者は、成形品を供給しており、そこに含まれる物質の義務を負う可能性があります。

成形品の製造、輸入、供給を行う企業は、REACH規則において、この簡易版ガイダンスで概説していない他の役割・義務もあることに注意してください。企業には、ECHAウェブサイトの「Navigator」を実行し、それぞれの義務を確認することを勧めます。「Navigator」は産業界がREACHに基づく義務を判断するのを助け、これらの義務を履行するための適切なガイダンスを見つけることができます。

さらに、成形品中の物質の要求に関する詳細版ガイドの附属書1では、主要なREACHプロセスまたは成形品の生産者、輸入者および供給者に影響を及ぼす可能性のある活動を概説しています。

4.　REACHの下での成形品中の物質に対する義務は何か？

以下の表は、成形品中の物質の登録（第7条(1)）、通知（第7条(2)）および、情報の伝達（第33条）の義務を概説します。

表1　成形品中の物質に対する義務

義務	成形品への物質の登録	成形品中の物質の通知	成形品中の物質に関する情報の伝達
REACH規則の法的根拠	第7条（1）	第7条（2）	第33条
関係者	成形品の製造者と輸入業者		成形品の供給者
関連物質	成形品から放出されることを意図した物質	認可のための非常に高い懸念物質の候補リストに含まれる物質
トン数の閾値	１トン/年		–
成形品の濃度の閾値		0.1% （w/w）
次の事項に基づいて可能な義務免除：
その使用が既に登録されている物質（第7条（6））	Yes	Yes	No
暴露を排除することができる（第7条（3））	No	Yes	No

（出典：ECHA資料をもとに筆者が編集）

以下のフローチャート（図2）は、成形品中の物質の義務を識別するための主要なステップの概要を示し、「詳細版ガイダンス（簡易版で無い完全版の事）」の該当するセクションに読者を導きます。

注）　原文の図中に（Yes）は入っていませんが、欠落していると思われるので、（）付きで入れました。

まとめ

ECHA（欧州化学品庁）が2017年6月28日付けで「REACH規則における成形品中の物質に対する要求事項のガイダンス（詳細版）」に対する「簡易版ガイダンス」を2018年1月26日に公表しました。

詳細版は全109ページより構成されていますが、簡易版は全16ページとコンパクトに要約されており、ECHAは簡易版には法的責任は無く、あくまで詳細版にて確認するように求めてはいますが、概要を知るには適当だと思われます。

紙面の関係から2回に分割し、今回は前半部について紹介します。内容については目次を参照ください。

引用・参考資料

Guidance on requirements for substances in articles　（ECHA、2017/6/28）
Guidance in a nutshell Requirements for substances in articles　（ECHA、2018/1/26）
Guidance in a Nutshell　（ECHA）
Guidance on substances in articles updated　（ECHA）
Guidance on REACH　（ECHA）
Identify your obligations　（ECHA）
Candidate List of substances of very high concern for Authorisation　（ECHA）

注意

無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。
本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。
英文による引用・参考資料部分においては、英語の専門家でない筆者が仮和訳していますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。