EUの改正RoHS指令における適用除外に関する最近の動き

2017年10月22日

掲載内容に関する最新の情報は、記事中に記載されている出典元や引用・参考資料にあたりご確認ください。

～特に附属書IIIにおける鉛について～

はじめに

EUの改正RoHS指令においては、従来の鉛、水銀、六価クロム、カドミウム、PBB、PBDEの6物質に加えて、新規にフタル酸エステル4物質（DEHP、BBP、DBP、DIBP）が電気・電子機器への含有制限の対象になりました。

物質名		含有規制値
鉛	（-）	0.1wt％	1,000ppm
水銀	（-）	0.1wt％	1,000ppm
六価クロム	（-）	0.1wt％	1,000ppm
カドミウム	（-）	0.01wt％	100ppm
PBB	ポリブロモビフェニル	0.1wt％	1,000ppm
PBDE	ポリブロモジフェニルエーテル	0.1wt％	1,000ppm
DEHP	フタル酸ジ-2-エチルヘキシル	0.1wt％	1,000ppm
BBP	フタル酸ブチルベンジル	0.1wt％	1,000ppm
DBP	フタル酸ジ-n-ブチル	0.1wt％	1,000ppm
DIBP	フタル酸ジイソブチル	0.1wt％	1,000ppm

注1）　カドミウムだけ規制値が100ppm、他の物質は1,000ppm

しかしながら、業界団体などからの「代替物質がない」という申請があった場合には、関係者との協議により期間限定で「適用除外」が設けられ、附属書III（カテゴリー1～11）及びIV（カテゴリー8、9専用）に記載されます。
注2）　カテゴリーについては、本コラム2016年8月25日付けを参照ください。

これら適用除外に関して、当工業会においては銅合金の鉛含有量に関して関心の深いところですが、今回は特にこの鉛関係を中心に適用除外に関する動きがありましたので、お知らせします。

改正RoHS指令における今までの動き

附属書IIIに収載されている適用除外のうち2016年7月21日に有効期限を迎えた用途のうち、早期に更新申請が出されていた9（b）、13（a）、13（b）の3項目については、調査プロジェクト「パック7」が実施され改定案が決定し、WTOへの通告も終了して2017年6月16日付けのEU官報にて公布されました。

しかし、同じく2016年7月21日に有効期限を迎えた他の29種類については調査プロジェクト「パック9」が実施され最終報告書が示されましたが、産業界からの更新申請が相次いだため、未だに確定がされず適用除外が有効な状況にあります。

このような状況の中、2017年9月19日付けで、ECが29種のうち鉛に関する8種類の適用除外に関して改正案を示すと同時に、パブリックコメントの募集が開始されました。

内容はパック9による最終報告に比べて、業界団体の意見が大筋で認められた格好となっているように思えます。

2017年9月19日付けで示された８種類の適用除外案

附属書IIINo.		適用除外改正案
現状	改正案	内容	対象及び有効期限/失効日
6（a）	6（a）	機械加工用及び亜鉛メッキ中の合金元素として重量で0.35％まで含有する鉛	・カテゴリー8および9（体外診断医療機器および産業監視および制御機器は除く） 2021年7月21日; ・カテゴリー8の体外診断用医療機器 2023年7月21日; ・カテゴリー9の工業用監視および制御機器及びカテゴリー11 2024年7月21日
6（a）	6（a）-I	機械加工目的の鋼中に合金元素として0.35％までの鉛および重量で0.2％までの鉛を含むバッチ溶融亜鉛めっき鋼の成分としての鉛	カテゴリー1-7と10 2021年7月21日。
6（b）	6（b）	アルミニウムに重量で0.4％以上含有する鉛	・カテゴリー8及び9（体外診断医療機器および産業監視および制御機器は除く） 2021年7月21日; ・カテゴリー8の体外診断用医療機器 2023年7月21日; ・カテゴリー9の工業用監視、制御機器、及びカテゴリー11 2024年7月21日。
	6（b）-I	合金元素としてアルミニウムに0.4％まで含有する鉛	1-7と10のカテゴリー 2021年7月21日
	6（b）-II	加工用アルミニウムに合金元素として0.4重量％まで含有する鉛	カテゴリー1-7および10 <官報に掲載されてから3年>
6（c）	6（c）	合金元素として鉛を重量比4％まで含む銅合金	・カテゴリー1-7と10 2021年7月21日・カテゴリー8および9（体外診断医療機器および産業監視および制御機器を除く） 2021年7月21日; ・カテゴリー8の体外診断用医療機器 2023年7月21日; ・カテゴリー9の工業用監視、制御機器、及びカテゴリー11 2024年7月21日。
7（a）	7（a）	高融点温度型はんだ（すなわち、鉛を85重量％以上含む鉛ベースの合金）の鉛	・カテゴリー1-7及び10（附属書IIIの24項に該当する用途を除く） 2021年7月21日・カテゴリー8および9（体外診断医療機器、産業監視及び制御機器を除く）以外 2021年7月21日・カテゴリー8の体外診断用医療機器 2023年7月21日・カテゴリー9の工業用監視、制御機器、及びカテゴリー11 2024年7月21日
7（c）-I	7（c）-I	電気および電子部品のコンデンサの誘電体セラミック以外のガラスまたはセラミックに含まれる鉛例えば圧電デバイス、またはガラスまたはセラミックマトリックス化合物中の鉛	・1-7および10のカテゴリー（附属書IIIの34項を適用するアプリケーションを除く）。 2021年7月21日・カテゴリー8および9（体外診断医療機器、産業監視及び制御機器は除く） 2021年7月21日・カテゴリー8の体外診断用医療機器 2023年7月21日・カテゴリー9の工業用監視・制御機器及びカテゴリー11 2024年7月21日
18（b）	18（b）	BSP（BaSi 2 O 5：Pb）などの蛍光体を含む日焼けランプとして使用される場合、放電の蛍光粉（1重量％以下の鉛）中の活性剤としての鉛	・カテゴリー8および9（体外診断医療機器、産業監視及び制御機器を除く） 2021年7月21日; ・カテゴリー8の生体外診断用医療機器 2023年7月21日; ・カテゴリー9の工業用監視、制御機器及びカテゴリー11 2024年7月21日。
18（b）	18（b）-I	日焼け用機器及び医療用光線治療機器（附属書IVの34項に該当する用途を除く）として使用され、BSP（BaSi2O5：Pb）等の蛍光体を含む放電ランプの蛍光粉末中の活性剤としての1重量％以下の鉛	カテゴリー5 2021年7月21日
24	24	機械加工されたスルーホールの円盤状および平面アレイセラミック積層コンデンサへのはんだ付けのためのはんだ中の鉛	・カテゴリー1-7及び10 2021年7月21日、・カテゴリー8および9（体外診断医療機器、産業監視及び制御機器を除く） 2021年7月21日; ・カテゴリー8の体外診断用医療機器 2023年7月21日; ・カテゴリー9の工業用監視及び制御機器、カテゴリー11 2024年7月21日。
34	34	サーメットベースのトリマーポテンショメータエレメントの鉛	・カテゴリー1-7と10 2021年7月21日、・カテゴリー8および9（体外診断医療機器、産業監視及び制御機器を除く） 2021年7月21日; ・カテゴリー8の生体外診断用医療機器 2023年7月21日; ・カテゴリー9の工業用監視、制御機器及びカテゴリー11 2024年7月21日。

まとめ

2016年7月21日に有効期限を迎えた改正RoHS指令附属書III及びIV記載の適用除外について、調査プロジェクトパック７によって9（b）、13（a）、13（b）の3項目は改定案が決定し、WTOへの通告も終了して2017年6月16日付けのEU官報にて公布されました。

しかし、その他の29種類の適用除外については調査プロジェクトパック9による最終報告に対して、業界団体などより異議申し立てが相次ぎ、未だに全ての見直し案が提示出来ない状況にありますが、2017年9月19日付けでEU委員会が、鉛関係の8種類の適用除外について改定案をまとめ、パブリックコメントの募集を開始しました。内容は業界団体など関係者の意向に歩み寄った形でパック9の内容に比べて、有効期間を延長したものになっています。

特に当工業会において関心の高い6（c）の「重量で最大4％含む銅合金中の鉛」では、適用除外有効期間が、パック9と比べて以下のように改定案が示されています。

No.

パック9改正案

20117年9月19日発表の改正案

6（c）

Copper alloy containing up to 4 % lead by weight

合金元素として鉛を重量比4％まで含む銅合金

Copper alloy containing up to 4 % lead by weight

合金元素として鉛を重量比4％まで含む銅合金

カテゴリー1〜7, 10, 11

2019年7月21日まで

・カテゴリー1-7と10

2021年7月21日

カテゴリー8,9

2021年7月21日まで

・カテゴリー8および9（体外診断医療機器および産業監視および制御機器を除く）

2021年7月21日;

但し、カテゴリー8のサブカテゴリーにある体外診断用機器

2023年7月21日まで

・カテゴリー8の体外診断用医療機器

2023年7月21日;

但し、カテゴリー9のサブカテゴリーにある工業・産業用監視及び制御機器

2024年7月21日まで

・カテゴリー9の工業用監視、制御機器、及びカテゴリー11

2024年7月21日

カテゴリー１～７及び10において、銅合金中の鉛含有量を4重量%までの使用を許容した根拠は以下の通り。

1）鉛は、銅合金のマトリックスに小さなノジュールとして埋め込まれています。これにより、チップブレーカおよび潤滑剤として機能する。これは、銅合金に良好な機械加工性を与え、また完成した部品に特性を与える。導電性、摺動面に密接に適合する部品のスライド機能、耐食性などがあります。

2）一部のアプリケーションでは、鉛フリーの代替品があります。しかしながら、代替品の使用は、現在、機械加工プロセスにおける適応を必要とし、したがって、他の用途へのその適用性に制限を有する。現在の研究では、無鉛代替品の被削性問題は、少なくとも一部のアプリケーションでは将来解決できないことが示唆されています。

3）従って、鉛を4重量％まで含有する銅合金の代替品は、科学的または技術的に実用的であると特定することはできない。免除の範囲をより特定の用途に絞るためには、さらなる研究努力が必要であろう。

上記の改正案はパブリックコメント募集（2017/9/19～2017/10/17）の後、WTOへの通知などの諸手続きが行われるものと思われますので、公布までは半年程度はかかると思われます。従って、実効まで公布から12ヶ月間の猶予があることから実際に適用されるのは早くても2019年の春以降と推定されます。

引用・参考資料

RoHS指令の附属書III「適用除外用途」の改訂について　（日本バルブ工業会、2016年8月25日）
RoHS Exemption for lead as alloying element in steel　（EC）
RoHS Exemption for lead in cermet-based trimmer potentiometer elements　（EC）
RoHS Exemption for lead as an alloying element in copper　（EC）
RoHS Exemption for lead as an alloying element in aluminium　（EC）
RoHS Exemption for lead in high melting temperature solders　（EC）
RoHS Exemption for lead as activator in the fluorescent power of discharge lamps containing phosphors　（EC）
RoHS Exemption for certain electrical and electronic components containing lead in glass or ceramic　（EC）
RoHS Exemption for lead in solders – machined through hole discoidal and planar array ceramic multilayer capacitors　（EC）

注意

・無断で本情報を二次使用すること及び転載することを禁じます。

・本情報は不確実な情報が含まれる可能性がありますので、本情報を利用される場合は参考文献及び引用先の情報も合わせてご覧のうえ、自己の責任において判断をお願いします。

・本情報の多くの部分は英語の専門家でない筆者が英文を解釈して記載した部分がありますので、本情報を重要な場面で利用される場合は、引用先の原文を参考に自己責任にて判断願います。