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環境関連情報

世界の水資源と水危機(その3)

世界的な水不足と水処理技術について

情報発信日:2011-06-23

はじめに

2011年3月の本コラムにおいて、「世界的に水不足の時代に入っており日本も決して水資源の豊かな国ではなく、また水の用途の70%は農産物や畜産物などの食料生産に用いられているため食料自給率が40%と低い日本にとっては近い将来においては極めて深刻な問題が内在している」ということを述べました。

我々が生きていくうえで欠かせない「水」ですが、地球は水の惑星といわれるほど豊富な水があります。しかし、その97.5%が海水や塩分の混ざった塩水で、農業用水や生活用水など我々の生活に直接利用できない水であり、さらに実際に利用可能な河川や湖沼にある淡水は、全体のわずか0.3%しかないということも述べてきました。

しかし、水は化石燃料のように一度使用したらなくなってしまうものではなく、使用された水は川を流れ、海に入った後に蒸発して雲となり、やがて雨や雪となって地上や海に戻ってきます。これが自然の水の浄化作用であり「水の循環」と呼ばれています。現在の水不足は、人口の増加によって人類の使用する水の量が、この自然の水循環の能力を超えてしまったことにより生じています。地球上で人類が利用できる水の量は70億人分しかないといわれていますが、国連の予測では間もなく地球の全人口は70億人を突破するようです。これは上述したように単なる水不足だけではなく、食料不足に直結する深刻な問題と危惧されます。

現在、不足した水資源を補うため、一部の地域では大量の地下水を農業用として使用しています。地下水の利用は1つの方法ですが、地下水は貯蓄のようなもので適正量以上に使用した場合にはやがて枯渇してしまいます。一方では、「海水を淡水化して利用する」、あるいは「汚れた水を浄化して再利用する」といった技術も進歩し実用化されてきています。

今回は、これら水処理技術と最新の水事情について述べたいと思います。

いろいろな水処理技術

水はある意味で非常に多くの物質を溶かし込むため、様々な用途に使用されますが、不純物や有害物質が溶け込んだ場合にはその使用や扱いが困難になる場合があります。今回の福島第一原子力発電所の事故においても、高濃度の放射性物質を含んだ膨大な汚染水の処理が大きな問題になっていますが、その他にも日々、生活排水、工業排水、農魚集落排水など大量の汚水が発生しています。

途上国の一部地域では、これらの汚水を河川や湖沼に未処理で放流してしまっているケースもありますが、これを放置し続けると、かつて日本も経験したような公害の発生や健康被害を生むことになるため、先進国では汚水の種類に合せた各種の水処理技術(注)や用途に合せた造水技術の開発を進めてきており、日本の水処理技術も世界でもトップクラスに入るといわれています。

注:水処理技術とは「水を使用目的にあわせた水質にするため、または周辺環境に影響を与えないよう排出するために、各種の処理を行うこと」をいいます。

水処理技術は大別すると表1に示すように、対象とする水に含まれる不純物や有害物質を「分解する方法」と「分離して除去する方法」とがあります。具体的な手法としては細菌、真菌、原生動物(単細胞)、後生動物、藻類、水生昆虫など様々な生物のはたらきになどを用いる「生物処理法」とろ過や沈降、吸着などの原理を用いた「物理化学的処理法」があります。

(1) 物理化学的処理法

分離法の大半は酸化法を除き、物理化学的処理法と呼ばれ、不純物を沈降または浮上により分離させ、スクリーンや砂層を使ってろ過・分離する手法、活性炭やゼオライトなどを使用して吸着する手法、あるいは自然の浄化のように水を蒸発・凝縮させる手法、また近年ではエネルギー使用量が少なくかつ副生成物の生成がない安全な手法として分離膜法が注目され、種々の分離膜の開発が進められています。

1) 沈降法・浮上法

 地球の重力を利用し、自然放置により重い不純物を沈降分離する手法で、原始的ですがエネルギー使用が少ない手法であり、大量処理の場合の前処理として有効な手法です。また、微細な粒子など重力では沈降しづらい不純物に対しては小さな粒子を凝集剤によって大きな粒子に成長させて沈殿させる凝集沈殿法があります。比較的軽い不純物粒子の場合は沈降させるよりも微細な気泡などを利用して浮上分離させる浮上法も利用されます。

2) ろ過法

ろ過法には一般的な布、網、砂などを使ったろ過(粗ろ過)と機能性高分子膜と呼ばれる薄膜を用いた膜分離とがあります。後者は微生物などの微粒子分離から分子・イオンレベルの分離までが可能で、海水淡水化や高度下水処理、電子工業用の超純水や医療用の精製水など造水などにも幅広く用いられています。

3) 吸着法

超微細構造を有する活性炭などを用いた物理吸着とイオン交換樹脂などを用いた化学吸着、あるいはゼオライトのように物理的及び化学的両面の吸着作用を持つものもあり、種々の用途に利用されています。

4) 蒸留法

1つの蒸留槽で1回の蒸発・凝縮を行う単蒸留はウイスキーやブランデーなど酒類の蒸留に多く用いられています。海水淡水化など大量の処理を行う場合にはエネルギー効率を上げるために、複数の蒸留槽に原水を流し、反対方向から冷却水を流す多段蒸留法と呼ばれる方法が利用されますが、近年はランニングコストの問題から海水淡水化などの水処理には、逆浸透膜などを利用した分離膜法が多く利用されるようになってきました。

5) 酸化法

オゾンや紫外線、塩素など酸化作用を有する薬剤や光を用いて不純物を酸化分解する方法で、物理化学的処理法で唯一、分離法ではなく分解法となります。副生成物の生成や処理後の残存の可能性などがありますが、臭気物質や微生物の分解には有用で多く利用されています。

(2)生物学的手法

生物学的処理法はすべて分解法で、天然に存在する細菌や原生動物(単細胞)、後生動物やなどを利用して不純物や有害物質を分解・無害化する方法で、酸素の存在下で活性化する好気性菌を利用した活性汚泥法と、酸素がない無酸素下で活性化する嫌気性菌を利用しメタン発酵させる方法とがあり、種々の用途に多く利用されています。
好気性菌を利用した活性汚泥法では空気の曝気にコストが掛るため、高圧空気を吹き込む一般的な手法のほかに、水と空気の界面で円盤を回転させたり、噴水のように空中に散水して空気を溶け込ませたりする手法なども、場合により利用されています。
以下、表1に主な手法をまとめました。

目的別水処理技術の利用

表1に示すように種々の水処理技術がありますが、対象となる水に含まれる不純物の種類や量、目的とする要求水質によって、1つまたは複数の処理方法を組み合わせて使用されます。以下、主な応用例を示します。

(1)浄水処理 (上水道水)

(2)下水処理

(3)電子工業用水の製造 (超純水)

(4)海水の淡水化

最新の水処理法による汚水処理・再利用

冒頭に述べましたが、人口の増加により、自然の水循環による水の供給だけでは深刻な水不足の到来は明かであり、種々の人工的な造水や使用済水の処理・再使用技術の開発が行われてきています。

現在主流の造水技術は海水の淡水化ですが、フラシュ蒸留法や膜分離法を用いての造水コストは、上述の河川水や湖沼水から飲料水に処理する浄水処理に比べて、概ねまだ10倍ほどのコストとなり、農業用水などに大量に利用するには困難があります。このような状況において、安価な海水の淡水化技術や下水の高度処理による再利用技術などが開発され一部実用化が始まっていますので、最新の技術について述べます。

(1) 下水の高度処理・再利用

MBR法(メンブレンバイオリアクター法:膜と微生物による)によって、下水を高度処理して飲料用にまで浄化して再利用する手法が北米西海岸地域、欧州、シンガポールなどで進められており、とくにシンガポールでは下水を生物処理と逆浸透膜処理による高度処理を行い飲料水として供給する事業が実用化しています。この方法は生理的な問題はありますが海水を淡水化するよりもエネルギー的に安価であり海岸から遠い内陸部でも利用でき、大量処理も可能なため水不足解消の方法として期待されています。

(2)FTC法(フロースルーキャパシタ法)による海水の淡水化

スーパーキャパシタを利用し、海水やかん水中のイオンの吸着⇔脱離を繰り返すことによって淡水化を行う方法が、欧州及び米国で研究されています。この方法は逆浸透膜や蒸発法に比べて大幅な低エネルギーによる稼働の可能性があり、太陽電池や風力発電との組合せも含め実用化に向けての検討が進められています。

まとめ

20世紀は石油の時代、21世紀は水の時代ともいわれ、水資源の確保が各国の大きな課題であり、安価な水を大量に得ることが食料の確保にもつながると同時に、ソフト面も含めた総合的な水処理・水供給ビジネスが次世代の基幹産業になるともいわれています。

このような状況において、日本はトップクラスの水処理技術を有しており、とくに分離膜においては世界のシェアの50%を占めているにも関わらず、エンジニアリング、運転・保守管理、配水など総合的な水ビジネスでは欧米に後塵を拝していますが、ここ数年、銀行や商社も含めた「オールジャパン」による水処理ビジネス連合体が立ち上がりつつありますので、次回は水処理市場の規模や最新の情勢などについて述べたいと思います。

 

引用・参照情報

注意

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