ホーム > 知ってなるほどバルブと水栓 > 環境関連情報 > IPCC (気候変動に関する政府間パネル) 第5次報告書を発表

環境関連情報

IPCC (気候変動に関する政府間パネル) 第5次報告書を発表

2014年3月25~29日横浜で第38回総会及び第2作業部会第10回会合が開催

情報発信日:2014-05-26

はじめに

2014年3月31日付けで環境省は文部科学省、経済産業省、気象庁と連名で「2014年3月25日から29日までの5日間、横浜市(パシフィコ横浜)においてIPCC(気象変動に関する政府間パネル)の第38回総会及び第2作業部会(影響・適応・脆弱性)の第10回会合が開催され、IPCC第5次評価報告書第2作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)が承認・公表されると共に、第2作業部会報告書本体が受諾された」と発表しました。

一方、国連気象変動枠組み条約の加盟国は産業革命以来の二酸化炭素を中心とする温室効果ガスの排出量の増加によって地球の気象が急激に変動しており、このまま温室効果ガスの排出削減を行わない場合には近い将来、我々人類は異常気象の頻発により壊滅的な打撃を受ける可能性があるとする仮説の基で温室効果ガスの削減に向けて協議を進めていますが、各国の利害の対立により思うような削減が実施出来ていない状況にあります。

このような状況においてIPCCは温室効果ガスの増加と気象変動の関連性などの検証や今後の予測などの研究を行い公表する役割を担っています。

今回は、IPCCの活動状況及び今回の第2作業部会の報告書の概要をお伝えしたいと思います。

 

IPCCとは

全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)のIPCC第5次評価報告書特設ページによると、IPCCとは「国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovermental Panel on Climate Change)の略。人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988 年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)により設立された組織です」とあり、現在約200ヶ国の政府機関が参加しています。

また「政府の推薦などで選ばれた専門家が、世界の科学者が発表する論文や観測・予測データから、報告書をまとめます。科学的な分析のほか、社会経済への影響、気候変動を抑える対策なども盛り込まれます。国際的な対策に科学的根拠を与える重みのある文書となるため、報告書は国際交渉に強い影響力を持ちます。各国政府を通じて推薦された科学者が参加し、5~6年ごとにその間の気候変動に関する科学研究から得られた最新の知見を評価し、評価報告書(assessment report)にまとめて公表します。第5次報告の第1作業部会の場合、日本からは10人の執筆陣が参加しました。特定のテーマに関する特別報告書(special report)や気候変動に関する方法論に関する指針なども作成、公表します」と説明されています。

組織としては総会(議長、副議長)と3つの作業部会及び温室効果ガス目録(インベントリー)に関するタスクフォースにより構成されています。

・第1作業部会: 気象システム及び気象変動の自然科学的根拠についての評価
・第2作業部会: 気象変動がもたらす悪影響と好影響、気象変動への適応オプション、並びに気象変動に対する生態系、社会経済及び自然システムなどの各分野に対する脆弱性についての評価
・第3作業部会: 温室効果ガスの排出削減など気候変動の緩和オプションについての評価
・温室効果ガス目録(インベントリ)に関するタスクフォース: 温室効果ガスの国別排出目録作成手法の策定、普及および改定

 

IPCCが公表する評価報告書とその意義

IPCCより公表される報告書は、それぞれ第1作業部会、第2作業部会、第3作業部会からの報告書とこれら3つの報告書を統合した統合報告書の4種類があります。

3つの作業部会からの報告書は、「政策決定者向け要約(SPM: Summary for Policy-Makers)」、及び、より専門的で詳細な情報が記載されている「技術要約(Technical Summary)」から構成されています。

これらの評価報告書の作成に関してはIPCC総会で、作業計画に関する種々の決定がなされます。

過去、第1次報告書(1990年)、第2次報告書(1995年)、第3次報告書(2001年)、第4次報告書(2007年)まで作成され、今回は6年振りの報告書公表となりました。

 

第5次評価書 (政策決定者向け要約 <SPM> ) の概要

※以下、平成26年3月31日付け環境省、文部科学省、経済産業省、気象庁連名報道資料(気象変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書第2作業部会報告書(影響・適応・脆弱性)の公表について)より引用

1.複雑かつ変化しつつある世界において観測されている影響、脆弱性、適応

(1) 観察されている影響

①ここ数十年、気候変動の影響が全大陸と海洋において、自然生態系及び人間社会に以下のような影響を与えている。気象変動の影響の証拠は、自然生態系に最も強くかつ包括的に現れている。

i) 水文システムの変化による、水量や水質の観点から水資源への影響
ii) 陸域、淡水、海洋生物の生息域の変化等
iii) 農作物への負の影響が正の影響よりも一般的

② 熱波や干ばつ、洪水、台風、山火事、近年の気象と気候の極端現象による影響は、現在の気候の変動性に対する幾つかの生態系や多くの人間システムの著しい脆弱性や暴露を明らかにしている。

(2) 適応経験

①適応は一部の計画に組み込まれつつあり、限定的であるが実施されている適応策がある。例として、アジアにおいては、一部の地域で、適応が、早期警戒システムや統合的水資源管理、アグロフォレストリー、マングローブの植林を通じて促進されている。

②気候変動に関連したリスクへの対応は、気候変動の影響や深刻さや起こる時期の不確かさ、また適合の有効性の制限と言う不確実性がある中で、変わりつつある世界において意志を決定してゆくことを合意している。

 

2.将来のリスクと適応の機会

(1)複数の分野地域に及ぶ主要リスク

①主要なリスクは国連気候変動枠組み条約第2条に記載されるような、「気候システムに対する危険な人的干渉」による深刻な影響の可能性である。確信度の高い複数の分野や地域に及ぶ主要なリスクとして、以下の8つが挙げられている。それぞれが1つあるいはそれ以上の「懸念の理由」に寄与している。なお、該当する「懸念の理由」の番号は本文末尾のボックスの記載に対応している。

i)海面上昇、沿岸での高潮被害などによるリスク [懸念の理由1~5] 高潮、沿岸洪水、海面上昇により、沿岸の低地や小島興国において死亡、負傷、健康被害、または生計崩壊が起きるリスクがある。
ii)大都市部への洪水による被害のリスク [懸念の理由 2,3] いくつかの地域において、洪水によって、大都市部の人々が深刻な健康被害や生計崩壊にあるリスクがある。
iii)極端な気象現象によるインフラ等の機能停止のリスクがある [懸念の理由 2,4] 極端な気象現象が、電気、水供給、医療・緊急サービスなどの、インフラネットワークと重要なサービスの機能停止をもたらすといった、社会システム全体に影響を及ぼすリスクがある。
iv)熱波による、特に都市部の脆弱な層における死亡や疾病のリスク [懸念の理由 2,3] 極端に暑い期間においては、特に脆弱な都市市民や屋外労働者に対する、死亡な健康被害のリスクがある。
v)気温上昇、干ばつ等による食料安全保障が脅かされるリスクの懸念 [懸念の理由 2~4] 気温上昇、干ばつ、洪水、降水量に変動や極端な降水により、特に貧しい人々の食料安全保障が脅かされると共に、食糧システムが崩壊するリスクがある。
vi)水資源不足と農業生産減少による農村部の生計及び所得損失のリスクがある [懸念の理由 2,3] 飲料水や灌漑用水への不十分なアクセスと農業の生産性の低下により、半乾燥地域において、特に最小限の資本しか持たない農民や遊牧民の生計や収入が失われる可能性がある。
vii)沿岸地域における生計に重要な海洋生態系の損失リスク [懸念の理由 1,2,4] 特に熱帯と北極圏の漁業コミュニティにおいて、沿岸部の人々の生計を支える海洋・沿岸の生態系と生物多様性、生態系便益・機能・サービスが失われる可能性がある。
viii)陸域及び内水生態系がもたらすサービスの損失リスク [懸念の理由 1,3,4] 人々の生計を支える陸域及び内水の生態系と生物多様性、生態系便益・機能・サービスが失われる可能性がある。

②気候変動に関連したリスクへの対応は、気候変動の影響の深刻さや起こる時期の不確かさ、また適応の有効性の制限と言う不確実性がある中で、変わりつつある世界において意志を決定して行くと言うことを合意している。

 

3.将来のリスクの管理とレジリエンスの構築

(1)効果的な適応のための原則

①適応は、地域や背景が特有であるため、全ての状況に渡って適切なリスク低減のアプローチは存在しない。

②限られた証拠によると、世界全体の適応ニーズと適応のための資金には隔たりがある。世界全体の適応に要する費用を算定する研究には、データや手法、適用範囲が不十分と言う特徴があり、更なる研究の向上が必要である。

③重要なコベネフィット、相乗効果、トレードオフは緩和と適応の間や異なる適応の反応の中に存在する。相互作用は地域内及び地域をまたいで起こる(確信度は非常に高い)。

※コベネフィット(co-benefit)とは、一つの活動が色々な利益をもたらすこと。例えば森林や湿原の保全を行う事が、生物多様性に貢献すると同時に、二酸化炭素の吸収を図り、地球温暖化抑制にも貢献する。

(2) 気象に対してレジリエント(強靭) な経路と変革

①経済的、社会的、技術的、政治的決定や行動の変革が、気候に対してレジリエント(強靭)な経路を可能とする。

 

4.懸念の理由

 

人による気象システムへの影響は明らかである。しかし、その影響が国連気象変動枠組み条約2条にある「危険な人類的干渉」にあたるかどうかは、リスク評価と価値判断の両方が必要である。

以下の包括的な「懸念の理由(Reason For Concern)」は、あらゆる分野及び地域にわたる主要なリスクをまとめる枠組みを提供する。懸念の理由は、温暖化や人々、経済、及び生態系にとっての適応の限界を意味するところを解説している。これらは、気象システムに対する危険な人的干渉を評価するための1つの出発点を提供する。気温変化については、1986~2005年平均からの相対的な値として示している。

(1)脅威に曝されている独特な生態系や文化などのシステム

深刻な影響のリスクに直面するシステムの数は1℃の気温上昇で増加し、北極海氷システムやサンゴ礁などの適応能力が限られている多くの種やシステムは2℃の気温上昇で非常に高いリスクにさらされる。

(2)極端な気象現象による気候変動関連リスク

熱波、極端な降水、沿岸洪水のような極端現象による気象変動関連リスクは中程度であり(確信度が高い)、1℃の気温上昇で高い状態になる(確信度は中程度)

(3)影響の分布

リスクは均一に分布しているわけではなく、どのような発展段階の国であれ、一般的に不利な条件におかれた人々やコミュニティほど多くのリスクを抱えている。特に作物生産への気候変動の影響が地域によって異なる為、リスクは中程度である(確信度は中程度から高い)。地域の作物生産と水の利用性の低下の予測をもとに、不均一な分布による影響から生じるリスクは2℃以上の気温上昇により増大する(確信度は中程度)

(4)世界総合的な影響

温暖化の全世界への総合的な影響のリスクは、地球の生物多様性及び世界経済全体への影響についてみると、1~2℃の気温上昇ではリスクは中程度である(確信度は中程度)。約3℃またはそれ以上の気温上昇では、生態系由来の財・サービスの損失を伴う広範囲に及ぶ生物多様性の損失が起こり、リスクが高くなる(確信度が高い)。

(5)大規模な特異現象

温暖化の進行に伴い、いくつかの物理システムあるいは生態系が急激かつ不可逆的な変化のリスクにさらされる可能性がある。リスクは1~2℃の気温上昇に伴い不均衡が増加し、3℃以上の気温上昇で氷床の消失による大規模で不可逆的な海面上昇の可能性があることから、高くなる。

 

第5次評価報告書における「可能性」と「確信度」について

IPCCでは、評価結果中に「可能性」と「確信度」と言う用語を多用していますが、これらの用語は以下の基準に基づき使用されています。
「可能性」: はっきり定義できる事象が起こった、あるいは将来起こることについての確率的評価である。
「確信度」:モデル、解析あるいは意見の正しさに関する不確実性の程度を表す用語であり、証拠(例えばメカニズムの理解、理論、データ、モデル、専門家の判断)の種類や量、品質及び整合性と、特定の知見に関する文献間の競合の程度などに基づく見解の一致度に基づいて定性的に表現される。

 

可能性の表現

用語

発生する可能性

用語

発生する可能性

ほぼ確実

99 ~ 100 %

どちらも同程度

33 ~ 66 %

可能性が極めて高い

95 ~ 100 %

可能性が低い

0 ~ 33 %

可能性が非常に高い

90 ~ 100 %

可能性が非常に低い

0 ~ 10 %

可能性が高い

66 ~ 100 %

可能性が極めて低い

0 ~ 5 %

どちらかと言えば

50 ~ 100 %

ほぼありえない

0 ~ 1 %

 

確信度の表現

見解の一致度と証拠の程度(種類、量、質、整合性)の2つにより判定し、非常に高い、高い、中程度、低い、非常に低い、の5段階の表現を用いています。

 

まとめ

今回のICPP第5次評価報告書が公表されました。要点は以下の通りです。

(1) 今回の報告書は第2作業部会によって今後の温暖化の進み方を4つのパターンに分けて、それぞれの場合に想定されるシナリオについて報告しています。

(2) 最悪のシナリオは温室効果ガスの削減があまり進まず2100年以降も温室効果ガス濃度の上昇が続く「高位参照シナリオ」、温室効果ガスの削減が上手く進み2100年までに温室効果ガス濃度がピークを迎えその後は減少するとした最良の「低位安定化シナリオ」、その中間として2100年以降に安定する「高位安定化シナリオ」と「中位安定化シナリオ」が示されました。

(3) 2014年4月7日~12日、IPCC第39回総会と第3作業部会報告書の承認・公表がドイツのベルリンで行われました(内容については、機会を見て本コラムで解説します)。

(4) 統合報告書は2014年10月27日~31日にデンマークのコペンハーゲンで開催されるIPCC第40回総会において承認・公表される予定です。

(5) 地球温暖化による「環境の激変」を避けるためには、19世紀半ばの産業革命前と比べて気温の上昇を2℃以内に抑える必要があり、このためには2050年までに世界の温室効果ガス排出量を2010年比で40~70 %削減する必要があります。

(6) しかし世界の温室効果ガス排出量は1970年~1999年まで年増加率1.3 %であったのに対して、世界各国の削減努力にも拘わらず2000年以降は2.2 %と増加率に歯止めが掛かるどころか、増加が加速しています。

報告書の内容及び温室効果ガスの削減交渉状況を見ると、非常に絶望的な状況にあると思われます。現実に、フィリピンを襲った巨大台風の発生やこの冬に北米や欧州を襲った大寒波などに代表される異常気象の規模も拡大の一途を辿っているようにも思われますし、今後もさらなる異常気象が起こることも想定されます。

「化石エネルギー使用量及び温室効果ガスの大幅削減」と言うテーマに対して、今後は、人間の理性が欲望をどこまで抑えることが出来るかが試されるのではないでしょうか。それまでに払うであろう代償や犠牲が少ないことを望みたいものです。

引用・参照情報

注意

情報一覧へ戻る