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環境関連情報

今後のエネルギー問題を考える #3

人工光合成とは、そして可能性は

情報発信日:2013-8-26

はじめに

2013年6月17日 (月) 19:30~19:56、NHK総合TVクローズアップ現代において「エネルギー問題解決!? 進む人工光合成研究」という番組が放映されました。

現在、我々人類が便利な生活を享受しているベースとなっているエネルギーは、石炭・石油・天然ガスなどの化石エネルギーと原子力エネルギーがメインですが、化石エネルギーは「二酸化炭素の排出による地球温暖化の促進問題」と「使えばなくなってしまうため枯渇の心配が出てきたこと」から、未来永劫に使えるエネルギーではなくなりつつあります。

もう一つの原子力エネルギーは、チェルノブイリや福島第一原子力発電所の事故でわかるように、暴走した場合には極めて長い年月とお金をかけた事故処理が必要となります。

このような状況の中で、枯渇の心配が少なく半永久的に使える安全なエネルギーとして、再生可能エネルギーの開発が世界各国で進められていますが、経済面や安定供給面などの課題があり、将来的にも化石エネルギーや原子力エネルギーの代替エネルギーといえる状況に至るのかは疑問が残ります。

そのような状況を鑑み、本コラムにおいて「今後のエネルギーはどの様にあるべきか」について、将来に可能性を持った新たなエネルギーを紹介していますが、冒頭の「人工光合成」は、植物の行う「太陽光と水と二酸化炭素から酸素と有機物を作り出す」という「炭酸同化作用を人工的に行う」とする発想です。

今回は、この人工光合成について説明します。

 

人工光合成とは

植物の葉にある葉緑素が、太陽光を受けて二酸化炭素と水からデンプンなどの有機物を作る働きをすることは、誰もが中学校の理科で習ったと思います。

現在再生可能エネルギーの一つとしてバイオマスエネルギーの利用が検討されていますが、これをさらに進めて植物が行う光合成を、人工的にもっと効率良く行おうとする試みが「人工光合成」です。

その昔、人間は空を飛ぶ鳥や昆虫を見て空を飛ぶ乗り物を作ろうとしました。最初は鳥や昆虫のように羽を羽ばたかせて飛ぼうとしましたが、やがてプロペラやジェットエンジン、さらにはロケットエンジンを考え出して、鳥や昆虫よりも遥かに早く、そして高く空を飛べる飛行機やジェット機を作り出しました。

また、人間よりも早く地上を走れる馬やチータなどを見て、もっと早く走れる乗り物を作りたいと思い、自動車や電車を作り出しました。

実際のところ植物が行う光合成は緩慢であり、あまり効率の良いものではありませんので、人工的に高速度で太陽光を取り込み二酸化炭素と水を原料にしてアルコールやメタンなどの有機物が生成出来れば温室効果ガスである二酸化炭素の固定化も同時に出来て、一石二鳥の夢のエネルギーと成り得る可能性が高いといえます。

また、もう一つの利点は燃料電池の場合は作り出した電気の蓄電技術の問題がありますが、人工光合成の場合には作り出したエネルギーが化学エネルギーであるため、貯蔵上の問題が従来技術で解決できる利点があります。

冒頭のNHKクローズアップ現代では、この人工光合成の研究は日本が一番進んでいるとのことでしたので、現状どの程度まで研究が進み、果たして将来的に実用化出来るのかどうか、この辺を紹介したいと思います。

 

人工光合成の歴史と将来展望

太陽光を太陽電池によって電気エネルギーに変換し、この電力を使用して二酸化炭素と水から酸素と有機物を作ったとすれば、太陽電池も一種の人工光合成の一種と考えられますが、今回は二酸化炭素と水を原料に太陽光エネルギーによって直接有機物を作り出す研究について述べたいと思います。

太陽電池の発想は既に19世紀にはあったようで、1839年にフランスの物理学者アレクサンドル・エドモン・ベクレルが光起電力効果を発見、1884年にはアメリカの科学者チャールズ・フリッツ (Charles Fritts) が世界初の太陽電池を製作したされています。 人工光合成については20世紀の初め1910年頃から研究が始められていたようですが、1972年に東京大学の本多健一と藤嶋昭により、酸化チタン電極を用い、紫外線を照射することにより水を水素と酸素に分解する本多―藤嶋効果が発表された頃より本格的な研究が始まったようです。

1974年から2000年にかけては、日本の新エネルギー研究プロジェクトであるサンシャイン計画・ニューサンシャイン計画(1973年のオイルショックを契機に新たなエネルギー問題やそれに付随する環境問題の抜本解決を目指して計画され、石炭の液化、地熱利用、太陽熱発電、水素エネルギーなどの各種新エネルギーの技術開発が行われた)の中で人工光合成の研究も実行されたようです。

我国において人工光合成の研究が本格的に動き出したのは、つい最近のことで「2011年に根岸英一ら(独立行政法人科学技術振興機構)と文部科学省とが人工光合成などの技術革新の具体化を進めることで合意した」とmsn産経ニュースが(2011年1月18日)報じたようです。

2011年4月、大阪市立大学の研究チームは植物の光合成の原理を研究し植物での光合成の基となるタンパク質複合体の構造を解明し、これと同じ構造を持つ触媒を用いて、2020年までに二酸化炭素と水からメタノール燃料の製造を行う構想を打ち出しています。

また、2011年9月20日付けmsn産経ニュースが「豊田中央研究所が世界で初めて、水と二酸化炭素と太陽光のみを用いた人工光合成に成功した」と報じています。「特殊な光触媒を用いることで、犠牲薬を添加することなく擬似太陽光での有機物の生成を可能にした」と報告しています。

さらに、2013年1月24日付けのDIGINFO TVによると「パナソニック、植物並みの効率で有機物を生成する『人工光合成システム』を開発」と報じ、その変換効率は0.2%で植物の行う光合成に匹敵する効率で現時点では世界最高効率としています。これにより、「二酸化炭素を資源化し循環型エネルギー社会の実現に大きく前進する」としています。

以上の通り、人工光合成はここ数年で急速に研究が進んだ様子で、文部科学省が2012年~2016年までの5年間に人工光合成の研究に対して新学術領域研究への科学研究補助金を拠出、経済産業省も2012年11月30日に「人工光合成化学プロセス技術研究組合を発足させました」と発表しています。

 

具体的な研究について

上述したように、我が国における人工光合成の研究は、文部科学省と経済産業省が主導して行っていますので、具体的にどのような内容か説明したいと思います。

まず、文部科学省においては2012年から2016年までの5年間に「人工光合成による太陽エネルギーの物質変換:実用化に向けての異分野融合」と題した研究プロジェクトが推進されています。

研究概要を見ますと「太陽光エネルギーを化学エネルギー(物質)として貯蔵し,必要な時に必要なエネルギーを取り出せる新エネルギー系,人工光合成系を構築することが喫緊の課題となっています。総合科学技術としての太陽光エネルギーの化学変換、人工光合成を実現するためにいまこそ、人工光合成のための新学術領域創設に踏み出さなければなりません。その為には、これまでの各領域の先端的研究実績を基礎に、思い切った複合化した異分野連携・融合による新学術領域の創設が必要不可欠です。本新学術領域ではまさにこの課題に正面から取り組みます」と記載されています。

具体的な研究としては天然の光合成の個々のメカニズムの解析とそれを越えるための研究として、①光の捕集、②光による水を酸化する触媒の研究、③水素発生光触媒の研究、④二酸化炭素還元光触媒の研究、などで、大学主体で基礎的な研究が行われています。

一方の経済産業省主体の研究プロジェクトを見てみますと、「経済産業省は、今後10年間の長期にわたって、二酸化炭素と水を原料に太陽エネルギーで、プラスチック、合成繊維、合成ゴム、溶剤等の原料となり、日常生活のあらゆる分野に使用される基幹化学品を製造する革新的触媒等の開発に取り組みます。プロジェクトの開始にあわせて、実施主体となる「人工光合成化学プロセス技術研究組合」(英語名:Japan Technological Research Association of ArtificialPhotosynthetic Chemical Process、略称:ARPChem(アープケム))の発足式が平成24年11月30日(金)に開催されます」とあり、プロジェクトは「経済産業省と文部科学省との連携により開始された未来開拓研究プロジェクトの初年度の案件として、事業期間は平成24~33年度の10年間、事業規模は150億円程度を想定し、取り組んでいきます。我が国経済社会に大きなインパクトを与え、長期の取組が必要で開発リスクが高く、我が国が強みを持つ「触媒」技術の活用によって、化学品原料の化石資源からの脱却(脱石油革命)、資源問題と環境問題の同時解決を目指します」と説明しており、具体的には、①光触媒の開発(水を水素と酸素に分解する光触媒)、②水素分離膜の開発(水素と酸素の混合気体からの水素の分離)、③合成触媒の開発(水素と二酸化炭素から炭化水素を選択的に合成する触媒)。

プロジェクトは文部科学省管轄のプロジェクト(東京大学、京都大学、東京理科大学、名古屋工業大学、山口大学、東京工業大学、富山大学など)と経済産業省管轄のプロジェクト(国際石油開発帝石、富士フィルム、三井化学、三菱化学、一般財団法人ファインセラミックスセンター、住友化学など)とが共同で行なわれています。

年間15億円、10年間で150億円の研究予算で最終年度の2021年に実用化のメドを付けるとしています。

 

まとめ

人工光合成の開発研究は天然の光合成でのプロセスである、①水を水素と酸素に分解できる光触媒の開発、②水素と酸素の分離、③水素と二酸化炭素から炭化水素(オレフィン)を合成するための光触媒の三つの技術が必要となります。

まず、①の水を水素と酸素に分解できる光触媒ですが、開発出来れば燃料電池にも応用が可能で、効率は未だ悪いようですがいくつかの触媒は見つかっているようです。②の水素と酸素を分離出来る膜についても効率は別として既に商用化されています。恐らく、③の水素と二酸化炭素から炭化水素を合成するための光触媒の開発が最も難しいような気がします。

触媒というのは、理論がよくわかっていない部分も多く、試行錯誤を重ねて研究が進められることが多いため、ある意味ひらめきや偶然の産物で効率の良いものが発見される場合もあります。

しかしながら、経済産業省が10年間で150億円の予算を使うと言う事はある程度の見通しを持っていると思われますので、将来の再生可能エネルギーの一つとして期待出来るかも知れません。

引用・参考資料

注意

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