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環境関連情報

米国FDAが「トランス脂肪酸」の使用を禁止へ

日本での規制は今のところ無し

情報発信日:2015-08-25

はじめに

2015年6月16日付けで米国食品医薬品局(FDA:U.S. Food and Drug Administration)は「マーガリンやショートニングなどの加工油に含まれるトランス脂肪酸について、3年後の2018年6月以降は原則使用禁止する」と発表しました。

世界的に、多くの化学物質に対する規制が増え続けていますが、今回のFDAによる「トランス脂肪酸の使用禁止」は大きな話題となっており、即日日本でも多くのメディアが報道しました。しかし、日本の厚生労働省は「今のところ規制は考えていない」としています。

今回は、トランス脂肪酸とは何か、なぜ米国で使用禁止に至ったのか、なぜ日本では規制されないのかなどについて解説したいと思います。食の安全や感染症などは、環境問題の中でも私達の日々の生活に直結する重要な問題といえますので、食品添加物の規制問題や感染症については今後も継続して取り上げて行きたいと思います。

 

油脂や脂肪酸とは(出典:農林水産省など)

「あぶら」には、常温で液体の「油」と固体の「脂」がありますが、これをまとめて「油脂」と呼びます。この「油脂」は、脂肪酸とグリセリンという化学物質から構成されています。この油脂や脂肪酸、グリセリン、コレスエロール等を総称して「脂質」と呼びます。

脂肪酸は、炭素(C)の原子が鎖状につながった分子で、その鎖の一端に酸の性質を示すカルボキシル基(-COOH)と呼ばれる構造を持っている一種のカルボン酸です。

カルボン酸(carboxylic acid)とは、少なくとも一つのカルボキシ基(−COOH)を有する有機酸です。左図のRの部分は概ね水素及び炭素から構成されます。最も簡単なカルボン酸はR=Hのギ酸、身近なところではR=CH3の酢酸(お酢の主成分)があります。

脂肪酸は動物の体の細胞を作るために必要な物質で、糖質(炭水化物)、タンパク質とともに三大栄養素といわれていますが、取り過ぎると健康を害する場合があり、バランス良く摂取する必要があります。

脂肪酸には、炭素と水素から成る主鎖の長さや炭素の二重結合や三重結合の数や位置によって多くの種類がありますが、大別すると炭素の二重結合や三重結合のない脂肪酸を「飽和脂肪酸」、炭素の多重結合のある脂肪酸を「不飽和脂肪酸(水素が飽和していない)」の2種類があります。

グリセリンは一種のアルコールで、脂肪酸のカルボキシル基と結合することができる手を3本持っていて、グリセリンに脂肪酸が3個つながったものは「トリアシルグリセロール(またはトリグリセリド)」と呼ばれています。私たちが普段食べている油脂の成分の多くはこのトリアシルグリセロールです。エネルギー源として使われる脂肪酸は、私たちの体内でトリアシルグリセロールとして蓄えられています。健康診断の項目にある血液中の「中性脂肪」とは、このトリアシルグリセロールを測定したものです。

(図の出典は農林水産省)

以下に、主要な脂肪酸を示します。

表1 主な飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸(出典:Wikipedia他)

数値表現

示性式
CH3-(R)-CO2H

IUPAC組織名

慣用名

備考

4:0

-(CH2)2-

ブタン酸

酪酸(ブチル酸)

 

5:0

-(CH2)3-

ペンタン酸

吉草酸(バレリアン酸)

 

6:0

-(CH2)4-

ヘキサン酸

カプロン酸

 

7:0

-(CH2)5-

ヘプタン酸

エナント酸(ヘプチル酸)

 

8:0

-(CH2)6-

オクタン酸

カプリル酸

 

9:0

-(CH2)7-

ノナン酸

ペラルゴン酸

 

10:0

-(CH2)8-

デカン酸

カプリン酸

 

12:0

-(CH2)10-

ドデカン酸

ラウリン酸

ココナツ油、ヤシ油

14:0

-(CH2)12-

テトラデカン酸

ミリスチン酸

ヤシ油、パーム油

14:1

-(CH2)3CH=CH(CH2)7-

 

ミリストレイン酸

バター、鯨油等

15:0

-(CH2)13-

ペンタデカン酸

ペンタデシル酸

牛乳、乳製品

16:0

-(CH2)14-

ヘキサデカン酸

パルミチン酸

 

16:1

-(CH2)5CH=CH(CH2)7-

9-ヘキサデセン酸

パルミトレイン酸

タラ肝油、イワシ油、ニシン油

17:0

-(CH2)15-

ヘプタデカン酸

マルガリン酸

 

18:0

-(CH2)16-

オクタデカン酸

ステアリン酸

動植物に最も多く含まれる

18:1(9)

-(CH2)7CH=CH(CH2)7-

cis-9-オクタデセン酸

オレイン酸

オリーブ油

Trans-9-オクタデセン酸

エライジン酸

 

18:1(11)

-(CH2)5CH=CH(CH2)9-

11-オクタデセン酸

バクセン酸

牛脂、羊脂、バター

18:2(9,12)

-(CH2)3(CH2CH=CH)2(CH2)7-

cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸

リノール酸

多くの食物

18:3 (9,12,15)

-(CH2CH=CH)3(CH2)7-

9,12,15-オクタデカントリエン酸

(9,12,15)-リノレン酸

アマニ油

18:3 (6,9,12)

-(CH2)3(CH2CH=CH)3(CH2)4-

6,9,12-オクタデカトリエン酸

(6,9,12)-リノレン酸

 

18:3 (9,11,13)

-(CH2)3(CH=CH)3(CH2)7-

9,11,13-オクタデカトリエン酸

エレオステアリン酸

 

20:0

-(CH2)18-

エイコサン酸

アラキジン酸

ピーナッツ

20.1(9)

-(CH2)9CH=CH(CH2)7-

ガドレイン酸

-

タラ肝油、海産動物油

20:2 (8,11)

-(CH2)6(CH2CH=CH)2(CH2)6-

8,11-エイコサジエン酸

-

 

20:3 (5,8,11)

-(CH2)6(CH2CH=CH)3(CH2)3-

5,8,11-エイコサトリエン酸

-

 

20:4(5,8,11,14)

-(CH2)3(CH2CH=CH)4(CH2)3-

5,8,11-エイコサテトラエン酸

アラキドン酸

 

22:0

-(CH2)20-

ドコサン酸

ベヘン酸

 

24:0

-(CH2)22-

テトラコサン酸

リグノセリン酸

 

24:1

-(CH2)7CH2CH=CH(CH2)13-

cis-15-テトラコサン酸

ネルボン酸

 

26:0

-(CH2)24-

ヘキサコサン酸

セロチン酸

 

28:0

-(CH2)26-

オクタコサン酸

モンタン酸

 

30:0

-(CH2)28-

トリアコンタン酸

メリシン酸

 

注1) 表の水色着色脂肪酸は「飽和脂肪酸」、白色は「不飽和脂肪酸」
注2) 数値表現18:1(9)は同じ示性式を有しながら、名前の異なる脂肪酸が2種類存在します。
    これらは、分子式は同じですが、立体的な構造が異なる異性体で、詳細は次項で述べますが
    水素の位置によりcis型とtrans型があります。

 

トランス脂肪酸とは(出典:農林水産省など)

飽和脂肪酸は主鎖が直線ですので、異性体は存在しませんが、不飽和脂肪酸は、二重結合の近くの構造の違いによって、同じ分子構造でありながら立体的な違いがあり、シス(cis)型とトランス(trans)型とがあります。

シス(cis)型とは「同じ側、こちら側」という意味で、脂肪酸の場合には水素原子が炭素の二重結合を挟んで同じ側に位置しています。トランス(trans)とは「横切って、かなたに」という意味で、脂肪酸の場合は水素原子が炭素の二重結合を挟んで反対側に位置しています。

天然の不飽和脂肪酸のほとんど(一部を除き)はシス型で、トランス型脂肪酸の大半は人工的に加工されたものです。

「オレイン酸」は、シス型の不飽和脂肪酸であり、天然の植物性脂肪の一般的な成分です。融点16.3°Cですので、常温で液体です。

一方の「エライジン酸」は、トランス型の不飽和脂肪酸であり、多くは人工的に植物性脂肪の部分的な水素添加やエライジン化において生成されます。融点43-45℃ですので、常温で固体という違いがあります。

上述のように、天然の不飽和脂肪酸の多くはシス型で存在しますが、牛や羊など反芻を行う動物では、胃の中の微生物の働きによりトランス脂肪酸が作られます。このため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中には微量の天然トランス脂肪酸が含まれています。

植物油や魚油などから得られる天然の不飽和脂肪酸の場合、ほとんどすべての二重結合はシス型をとり、折れ曲がった構造を持ちます。一方、シス型不飽和脂肪酸は酸化による劣化が起こりやすいという面で扱い難いため、酸化による劣化が起こり難く扱いやすい飽和脂肪酸を製造するために水素添加(水添)により水素化させると、飽和脂肪酸にならなかった一部の不飽和脂肪酸のシス型結合がトランス型に変化し(エライジン化し)、直線状の構造を持つようになります。このような過程でトランス脂肪酸が人工的に生成します。

これらのトランス脂肪酸はマーガリンやショートニング、ファットスプレッドなどに含まれ、市販の揚げ物、パン、ケーキ、ドーナツなどにも含まれています。

近年、トランス脂肪酸を多量に摂取するとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ心臓疾患のリスクを高めることがわかり、2003年以降、トランス脂肪酸を含む製品の使用を規制する国が増えて来ています。

不飽和脂肪酸の種類は表1に示した通り、多くの種類がありますが、食品中に含まれる全てのトランス脂肪酸の量を測定する方法は未だ確立されていません。しかし、上述のようにトランス脂肪酸の過剰摂取が人体の健康を阻害する可能性があるといわれ始めたため、トランス脂肪酸を規制する国では測定可能な主要トランス脂肪酸の含有量の表示が義務付けられました。

 

各種脂肪の特性とその摂取による健康影響など

脂質は糖質(炭水化物)、タンパク質と並ぶ三大栄養素ですが、糖質(炭水化物)とタンパク質のカロリーが4kcal/gであるのに対して、脂質のカロリーは9kcal/gと大きいため、摂り過ぎは肥満や脂質異常症等のメタボリック症候群をもたらし、動脈硬化症や心臓病のリスク要因となる危険性があります。また、高脂肪食など脂肪の過剰な摂取は、腸内でのリトコール酸などの二次胆汁酸の増加を招き、DNA傷害や酸化ストレス、細胞毒性などにより大腸がんなどの疾病のリスクとなる危険性があるともいわれています。

飽和脂肪酸を取り過ぎると、カロリー不足でない限り血清総コレステロール濃度を上昇させ、虚血性心疾患を起こしやすくするといわれています。

飽和脂肪酸はエネルギー代謝に重要な役割を果たしますが、不飽和脂肪酸の役割はそれと異なり、必須な物質であり、これを欠くと皮膚障害や不妊などが起こるといわれており、特にリノール酸、リノレン酸は必須脂肪酸(ビタミンF)といわれています。

動物の体内に主に含まれている脂肪を動物性脂肪といいます。動物性脂肪は飽和脂肪酸を多く含むので融点が高く、魚類の脂肪には多量の不飽和脂肪酸を含むものが多いため、比較的が低融点のものが多いです。

植物に含まれている脂肪を植物性脂肪といいます。植物性脂肪は不飽和脂肪酸を多く含み融点が低いです。このため、菜種油、オリーブ油、ゴマ油のように常温で液体なものが多いです。ただし、植物油の中にもココナッツ油やカカオバターのように飽和脂肪酸を大量に含む油もあります。

 

高度不飽和脂肪酸の働き

高度不飽和脂肪酸 (多価不飽和脂肪酸、Poly Unsaturated Fatty Acid, PUFA) には主に2系統存在し、ω3(ω-3脂肪酸)(n-3ともよぶ)系統とω6(ω-6脂肪酸)(n-6ともよぶ)系統に大別されます(その他にもω-7系列やω-9系列もあります)。これらの分類は、炭素間二重結合の位置によるものであり、ω3は脂肪酸のメチル末端(カルボン酸と逆)から数えて最初の二重結合炭素が3つ目のもの、ω6は脂肪酸のメチル末端から数えて最初の二重結合炭素が6つ目のもののことを言います。飽和脂肪酸は、前述したように生体にとってのエネルギー源ですが、不飽和脂肪酸は生体にとって様々な必須物質の原料となる場合があります。

特に、ω-3系列の脂肪酸は、脂肪を分解しやすくする働きや、血管系の疾病予防に効果があるとする研究などがあります。

ω-3系の不飽和脂肪酸を多く含む食品としては魚油食品、肝油、ニシン、サバ、サケ、イワシ、タラ、ナンキョクオキアミ等の魚介類は、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω-3脂肪酸に富んでいます。植物の種油にもω-3系脂肪酸を含むものも多く、α-リノレン酸(ALA)が豊富に含まれているものも一部にあり、アブラナ(キャノーラ)、ダイズ、特にエゴマ、アマ、アサなどに含まれています。その他、ほうれん草、青梗菜などの青菜にもα-リノレン酸が検出されています。

 

まとめ

(1) いわゆる「あぶら」は常温で液体の「油」と常温で固体の「脂」とがありますが、両方を合わせて「油脂」と呼びます。

(2) 油脂は脂肪酸とグリセリンが反応(エステル化)した生成物です。

(3) 脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。

(4) 脂肪(油脂)は糖質(炭水化物)、タンパク質と並んで3大栄養素と呼ばれますが、糖質及びタンパク質に比べてカロリーが高いため、過剰摂取は肥満の原因となります。

(5) 飽和脂肪酸からなる脂肪は単にエネルギーとして働きますが、不飽和脂肪酸からなる脂肪は、生物にとって必須の物質である場合があり、また脂肪の分解を促進するなど重要な機能を有するω-3系脂肪酸などもあります。

(6) 不飽和脂肪酸には、同じ分子構成ながら立体的な構造が異なる異性体が存在します。通常はシス型の構造ですが、トランス型と呼ばれる異性体も存在します。

(7) 天然のトランス脂肪酸は牛や羊などの反芻を行う動物の胃の中で微生物の働きにより微量生成されますので、牛乳や乳製品の中にも微量含まれます。

(8) 不飽和脂肪酸は酸化により変質しやすいため、人工的に水素添加を行い飽和脂肪酸として食用に加工する場合がありますが、飽和脂肪酸にならなかった一部の不飽和脂肪酸がシス型からトランス型に変質する場合があります。

(9) 具体的には植物油を水素添加したマーガリンやショートニング、ファットスプレッドにトランス脂肪酸が含まれます。 トランス脂肪酸が多く含まれる食品には市販の揚げ物、洋菓子、パン、ドーナツなどがあります。

(10) 近年、トランス脂肪酸を多量に摂取するとLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ心臓疾患のリスクを高める事がわかり2003年以降、トランス脂肪酸の摂取を規制する国が増えて来ています。

(11) 日本の厚生労働省は今のところ、「日本人は、欧米人に比べてマーガリン、ショートニング、ファットスプレッドなどトランス脂肪酸を多く含む食品の摂取量は少ないということで規制の予定はない。」としています。

(12) トランス脂肪酸は天然に多く存在しない物質なので、いずれにしても過剰に摂取しない方が良いと思われますが、物質そのものに毒性があるという訳ではありませんので、あまり神経質になる必要はないと思われます。逆に、上述したように、不飽和脂肪酸の中には生命維持に必須なものもありますので、バランスが取れた食事が重要であると結論したいと思います。

引用・参考文献

注意

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