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環境関連情報

放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料 #11

放射線の基礎知識と健康影響 #11

情報発信日:2014-11-25

はじめに

新聞などマスコミによると、東京電力は2014年10月14日の記者会見において「福島第1原発2号機東側にある井戸で前日に採取された地下水から、セシウムが25万1,000ベクレル/ℓ (内セシウム134が6万1,000ベクレル/ℓ、セシウム137が19万ベクレル/ℓ)で、前回採取した同年10月9日に比べて3.7倍に上昇し、同原発護岸に設置された観測用井戸で採取された地下水セシウム濃度としては、過去最高になった」と発表しました。また、「ストロンチウム90などのβ線を出す放射性物質も780万ベクレル/ℓで、4日前の10月9日に比べて3.7倍、γ線を出すコバルト60やマンガン54の濃度も過去最高値となった」と発表しました。原因については「台風18号などによる影響で地下水の水位が上昇して、過去にトレンチ周辺に漏れていた高濃度汚染水の一部が浸透して高い濃度となった可能性がある」と説明しました。

一方では、2014年10月18日付けで、貯まり続ける汚染水処理の最終手段として期待されている「高性能多核種除去設備(ALPUS)のRO濃縮塩水を用いた系統試験(ホット試験)を開始した」と報じました。

現在、東京電力福島第1原子力発電所では1、2、3号炉において、事故によって溶け崩れた核燃料の塊を冷却するために、毎日各原子炉に100~130トンの注水が続いています。これらの水は、原子炉建屋やタービン建屋の地下に流れ込み、高濃度放射性物質を含んだ「汚染水」となります。また、建屋の壁の亀裂や隙間から滲出する地下水(現在凍土壁などにより滲出を抑えようとしている)も加えると、1日約400トンもの汚染水が発生しています。これらの汚染水は、汚染水に最も多く含まれるセシウム134及び137の濃度を処理装置により1/10万程に下げられ、一部は再度冷却水に使用され、それ以外は濃縮され汚染水タンクに貯蔵されていくという状況にあります。 この貯まり続ける汚染水問題が、廃炉の工程にも大きな障害となっているのが現状のようですし、事故によって原子炉から周辺に放出された放射性物質で汚染された地域は、未だにこの先数十年は人が住むことも、農作物を作ることも出来ない状況が続いています。

しかし、広島や長崎は原爆が投下されたにもかかわらず、除染を行うこともなく1年後には人々が戻り生活を始め急速な復興がなされたことが不思議に思えるこの頃ですが、この点に関しては別の機会(事故の状況編)に説明をしたいと思います。今回も、毎度のことですが「放射性物質や放射線に関して正しい知識も持ち、正しく怖がる」ということを目的として、環境省の資料を基に、放射線の基礎知識と健康影響#11として解説していきます。

放射線の基礎知識と健康影響 #11

※以下、環境省公表の「東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う放射線による健康影響等に関する国の統一的な基礎資料 平成24年度版 ver.2012001」を主な資料として記述します。

1. 放射線被ばくの制限値

(1) ICRP(国際放射線防護委員会)勧告値と国内法令値との比較

人体への放射線被ばく線量は少ないに越したことはありませんが、宇宙からの自然放射線や医療における放射線からの公衆的な被ばく、あるいは原子力関係者や放射線関係者、パイロットなど職業的な被ばくを受ける人々などに対して、一応安全と見られる規制値が各々設定されています。

(2) 事故時及び復旧時の基準

(3) 食品の暫定規制値と新基準値

平成24年3月までの「暫定規制値」に適合している食品においても、健康への影響という面では安全は十分に確保されていましたが、より一層食品の安全、安心を確保する観点から見直しされて、平成24年4月1日より新しい「基準値」が設定されました。

(4) 食品に関する各種規制値の比較

2012年4月以降の日本の基準値は「より安全を考慮した」としていますが、世界の基準と比べても少し神経質過ぎる感じがします。この例のような「基準値」には、ほとんどの場合「安全率」が考慮されていますので、この数値を少しでも越えたら「危険」という訳ではありませんし、それぞれ安全係数をどれだけ見るかは個々の考え方によります。従って、「基準値」を見る場合には、どのような根拠の基に定められたのかを知って対処する必要があると言えます。

(5) 流通食品の摂取による被ばく線量

現在流通している食品を日常的に摂取した場合に、内部被ばく線量はどれ位になるか、福島県、関東、西日本に居住する35家族を対象に調査が行われ、その結果が発表されました。 その結果、福島県内の家庭で出される1日分の食事には「約4Bqのセシウム(中央値)」が含まれていることがわかりました。こうした食事を1年間食べ続けた場合でも、セシウムによる被ばく量は0.023mSv程度で年間許容線量1mSvの1/43程度でした。含有量が最も多い場合(最大17.3Bq)でも年間被ばく量は0.099mSvで許容線量の1/10程度でした。

  (6) 被ばく線量と健康リスクとの関係

100mSv以上の被ばくでは、確定的影響が生じたり、発がんリスクの明確な上昇が起こったりします。

そこで、緊急時においても、まずは重大な身体的障害を防ぐため、100mSv以上の被ばくを受けないようにします。事故収束後も、将来起こるかも知れない発がんリスクを出来るだけ低く抑えるため、年間1~20mSvの間に参考レベルを定め、それ以上の被ばくをしないようにします。

「平常時の基準値としては年間1 mSv」が用いられます。そのため、「被ばく線量が年間1mSvを越えると危険」とか、「ここまで被ばくしても良い」とか思われている方がいます。これはどちらも誤解で、線量限度は、安全と危険の境界線ではありません。しかし、だからと言って、1 mSvまで浴びても良いというわけではなく、放射線は浴びないに越したことはありません。

 

2. 被ばく線量の低減

(1) 外部被ばくの低減三原則

外部被ばく線量を少なくするには、上図に示すように3つの方法があります。

1つ目は、「線源から離れる」という方法です。放射性物質で汚染された土などを取り除いて、生活の場から離すという例が、これに当たります。

2つ目は、「線源を遮蔽する」方法です。屋内に入る、放射線で汚染された土とその下の汚染されていない土を入れ替えて汚染されていない土を遮蔽材として用いるなどがこの例に当たります。

3つ目は「線源の高い場所に居る時間の短縮」です。 被ばく量は放射性物質からの距離、コンクリートの厚さの2乗に反比例して少なくなります。被ばく線量と被ばく時間に比例して増加します。

(2) 内部被ばく~原子力災害直後の対応~

内部被ばくは、呼吸を介した放射性物質の吸入と飲食による摂取があります。また、傷口などの汚染からも取り込まれることがあります。そこで、内部被ばく線量を低減するためには、

・原則は「口、鼻、傷口から放射性物質に汚染された塵埃が入らないようにします。」
・但し、基準値以下の微量の放射性物質を過剰に心配して食物の栄養バランスを崩さないこと。
・放射性物質の放出情報に注意する。
・土や塵埃が身体、靴、服に付いた場合は速やかに洗い流す。

(3) 食品からの被ばく~原子力災害直後の対応~

<野菜、果実、きのこなど>:洗う、ゆでる(煮汁は捨てる)
野菜、果実は洗浄で0~40 % 除去、茹でて10~60 % 除去
<肉、魚>:塩焼きなどで肉汁を落とす
肉を茹でて30~80 % 除去、焼いて20~50 % 除去

野菜や果物は事故直後には表面が汚染されているだけですので、洗うことが有効ですが、次第に根から内部に取り入れますので、茹でて除去するのが必要になります。

 

3. 長期的な影響

(1) 植物への移行

図1 放射線防護体系(出典:環境省)

セシウム137は原子力発電所事故による放出量が多く、また半減期が30年と長いため、環境への影響が長期化します。環境中の放射性物質が農作物の可食部(食べる部分)に移行する経路は3つあります。

1つ目は、大気中に浮遊している放射性物質が直接葉などの可食部の表面などに付着する場合。原子力発電所事故の直後に、野菜から計測された放射性物質は、大気中に放出された放射性物質が直接表面に付着したものでした。

2つ目は、転流を介したルートです。転流とは、植物体内で、吸収した栄養素や光合成で出来た栄養やその代謝産物を、ある組織から他の組織へ運搬することを言います。葉や樹皮表面に付着した放射性物質が内部に吸収され、新芽や実の部分に移行する事があります。茶葉やタケノコ、ビワや梅等で比較的高濃度の放射性物質が検出されたのは、こうした移行経路によるものと考えられます。

3つ目は、土壌に含まれる放射性物質を根が吸収し内部に取り込む経路です。大気中に放出された放射性物資が農地に降下して植物の根から吸収される経路が主になります。

(2) 土壌中の分析

セシウムは土壌の粘土質に強く吸着する性質を持っており、水に溶けても植物に吸収され難く、地下に浸透することも少なくなります。そのため、耕さない場合地表面に降った放射性セシウムは長期間表層に留まります。1986年に起こったチェルノブイリ事故の影響調査では、事故後14年経過しても、事故により降ったセシウム137の量の約80 % が地表から10cm以内の場所に留まっていることがわかりました。

(3) 核実験フォールアウトの日本への影響

1950年代後半から1960年代前半をピークに南太平洋などで多くの核実験が行われ、これによる放射性物質は地球全体に降り注ぎました。2011年3月11日以前に日本で検出されている放射性セシウムやストロンチウムは、このフォールアウト由来と考えられています。

2009年に北海道で行われた土壌調査の結果、水田や畑のように耕された土壌では表面から40cm深くまでセシウム137が検出されましたが、耕されない草地では表面より20cm以内に留まっていました。

(4) 森林中の分布

森林中の放射性物質の分布は年単位の時間経過により大きく変化すると考えられます。大気中に浮遊していた放射性塵埃などが葉や枝に付着します。葉や枝はやがて枯れて地上に落ち、腐葉土のような有機物を含んだ土壌になります。また、葉や樹皮に付着した放射性物質の一部は吸収され、内部で新芽や実の部分に移行することもありますが、いずれは土になります。有機物を多く含む土壌はセシウムを吸着し易い粘土質を含まないため、他の植物に再吸収されます。このように、放射性セシウムは植物と土壌の間を循環しますが、やがては粘土質の土壌に固着し、最終的には土壌の表層部に蓄積します。

(5) 海洋中の分布

東京電力福島第1原子力発電所事故により放出された放射性物質の海洋中の分布は、時間経過と共に大きく変化すると考えられます。放射性物質が海洋に運ばれる経路には以下3つの経路が考えられます。

1つ目は、発電所で発生した汚染水などが海洋への直接の流入する場合。2つ目は風によって運ばれた放射性塵の海洋へ降下する場合。3つ目は陸地に降下した放射性物質が河川や地下水を介して海洋へ流入する場合。

福島第1原子力発電所付近における、海水中の放射性物質の濃度は、事故直後には急激に上昇しましたが、1~2ヶ月の間に海流に乗って流され、拡散したことで濃度は下がりました。しかし、これら放射性物質の一部は海底の泥に蓄積したり、底生生物や魚に移行したりと考えられますが、海の生物の放射性物質濃度はばらつきが大きく、今後の予測は難しい状況にあります。

(6) 海産生物の濃縮係数

濃縮係数とは、海産生物中の濃度と海水中の濃度の比率を表した数値で、放射性物質の海産生物への蓄積度合を示します。セシウムの濃度係数を見ると、プランクトンよりそれを食べる魚、魚よりそれを食べる大型哺乳類の方が高くなっており、食物連鎖の上に行く程高いと言えます。

 

まとめ

以上、11回に渡り「放射線の基礎知識と健康影響」について、解説してきましたが、今回を持ってこの項は終りです。

放射線は色もなく、臭いもないことや、被ばく後も長く発がん性の危険性があるなど、実際の身体的影響や心の健康さえ脅かす厄介な物ですが、このコラムで繰り返し述べて来ましたが、闇雲に恐がるのではなく、正しい知識を持って正しく恐がることが重要です。

放射線を身体に浴びると遺伝子が傷付きますので、出来るだけ浴びないに越したことはありませんが、生態には修復機能があることにより、ある一定以上の線量を浴びない限り健康状に影響は受けません。そして、これ以上浴びると明らかに健康上に障害が生じると言われる値に対して、十分な安全性を考慮して規制値が設けられていることも認識し、「規制値を少しでも越えたら危ない」ということでは決してないということも冷静に受け止めて頂きたいと思います。

次回は、福島第1原子力発電所における事故の状況について解説したいと思います。

引用・参考資料

注意

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